2022/08/18
【江戸川区ひきこもり実態調査】当事者の家族が抱えるストレスは? 調査結果から見る相談先、当事者のための必要と考える支援とギャップ
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江戸川区による2021年度ひきこもり実態調査の結果が2022年6月に公表されました。同調査では、ひきこもりの当事者による回答や当事者のご家族の方からの回答を紹介・分析しています。ご家族の方が抱えるストレスとともに、調査結果から見える相談相手や、当事者のために必要と考えている支援と当事者が求める支援とのギャップを見ていきましょう。
もくじ
ひきこもり当事者がいる家族が抱える不安・ストレス
ひきこもり状態にある方のいるご家庭では、当事者はもちろんのこと、そのご家族も大きな不安やストレスを抱えているケースが多く見られます。
ひきこもり当事者の方は、社会や他人との接触、より困難な状況ではご家族との接触もできないほどの生きづらさを抱えています。一方で、ご家族の方も、ひきこもり状態にある方とのコミュニケーションや将来への不安で、とても苦しんでいらっしゃるでしょう。
ご家族の方が抱える悩みはさまざまですが、たとえば
- 「甘えている」と感じて叱ってしまう
- 気分転換をさせようときっかけ作りをするも断られてしまう
- 就職などのアドバイスをしようとしても聞いてもらえない
- 本人と話し合おうとしてケンカになってしまう
- 何が起こるか分からずコミュニケーション自体をとれない
- 自分が死んだあと、当事者である家族がどうやって生きていけばいいのか心配
- 抱えている悩み・苦しみを相談する相手がいない
- 将来が見えず、イライラだけが募っていく
などの声が聞かれます。
そうした焦りやイライラが強まり、ひきこもり状態にある方とほとんどコミュニケーションをとれなくなったり、逆に過干渉になってしまったりする場合もあるでしょう。
では、こうしたひきこもりに関する不安や困りごとを抱えるご家庭は、何に不安を感じ、どこに相談しているのでしょうか。次項からは、江戸川区が実施したひきこもり実態調査の結果をもとに、ひきこもり当事者のご家族の状況を見ていきましょう。
ひきこもり当事者の家族が抱える不安・相談先
「令和3年度江戸川区ひきこもり実態調査」は江戸川区の約80万世帯を対象に実施され、10万世帯ほどから回答が寄せられました。回答者の過半数が、ひきこもり当事者のご家族です。同調査では不安に思うことや相談先、当事者に必要と考えられるものなどの質問がありました。
まず、ご家族の方が不安に思っていることのTOP3は「家族(ひきこもり当事者)の健康(60%)」「自分の健康(56%)」「収入・生活資金(53%)」でした。こうした不安は年齢によらず上位3つを占め、その割合も5割を超えています。
4位以下では、「仕事(22%)」「子育て(18%)」と続いています。一時期メディアで過剰にひきこもりと結びつけて報じられた「犯罪」は9%でした。
こうした不安や困りごとを相談する相手として多いのは、「配偶者・パートナー」です。45%の方がご自身の配偶者やパートナーに相談しており、第2位の「友人・知人(25%)」や第3位の「子ども(23%)」を大きく上回りました。
相談相手として最も小さな割合となったのは、「民生・児童委員(1%)」「近所の人(2%)」「区役所(2%)」です。
「相談する人はいない」と回答した方は12%でした。
相談する先として施設や機関などの選択肢を中心とした設問では、「相談したことはない」が圧倒的な1位で、45%を占めました。第2位は「病院・診療所(26%)」です。
こうした結果から、ひきこもり当事者のご家族の方は、当事者やご家族の健康、家計の面に不安を抱えるケースが多いこと、相談相手は基本的にご家族が多く、公的な窓口やサービスの利用はあまり多くないことが分かります。
ひきこもり当事者の支援や困りごとの対処について、ご家庭の中に抱え込んでいる状況がうかがえます。
家族が当事者のために必要だと感じていること、当事者とのギャップ
次に、ひきこもり当事者のためにどのようなことが必要かを尋ねた結果を見ていきましょう。
ご家族の方が当事者に必要と考えるものでTOP3となったのは、「友だちや仲間づくり(23%)」「自立に向けたきっかけづくり(22%)」「何も必要ない、今のままで良い(21%)」「就労に向けた準備、アルバイトや働き場所の紹介(21%)」でした。他に、「身体・精神面について専門機関への相談(20%)」も比較的多く選ばれました。
これを当事者の年齢別で見ると、「友だちや仲間づくり」は若い年代の当事者がいるご家族に選ばれる傾向があり、就労に関するものは20代~40代の当事者がいるご家族の方に多く選ばれる傾向がありました。反対に、「何も必要ない、今のままで良い」については、60代以上の方が4割超を占めています。
ただし、これを当事者が実際に求めていることと比較すると、一部で大きなギャップが見られました。
まず、年代を問わず比較すると、当事者に最も多く選ばれたのは「何も必要ない、今のままで良い」の32%。ご家族の方が最も多く選んだ「友だちや仲間づくり」は、当事者の方では15%で5位でした。「自立に向けたきっかけづくり」はご家族の回答では2位でしたが、当事者の回答では13pt少ない9%にとどまっています。
就労に関するものを見ると、「短時間(15分から)でも働ける場所」がご家族では13%であったのに対して、当事者の方では5pt多い18%でした。
さらに就労に関する選択肢を年代別に見ると、ご家族の方が考える以上に50代の当事者が多くの割合をしめていることが分かります。「就労に向けた準備、アルバイトや働き場所の紹介」では、ご家族の方が答えた50代当事者に必要なものとしては12%でしたが、50代当事者では35%の方がこれを選びました。「短時間(15分から)でも働ける職場」についても、50代当事者のご家族の方は15%だったものの、当事者では29%となっています。
生活費に関しても、全体として見た場合にご家族の方より当事者の方のほうが不安に感じている割合が大きくなりました。特に「生活費についての相談」を多く選んだ当事者の年代は50代と60代で、ご家族では計26%にとどまっていたものの、当事者では51%を占めています。
ご家族が「本人のために」と考えていることと、当事者の方が自分の問題として求めていることとの間には、こうしたギャップのある項目がいくつか見られます。当事者の方が何を不安に思っているのか、どういった支援を必要としているのかを、あらためて考えるきっかけになる結果となりました。
ひきこもり当事者を支えるために、ご家族のセルフケアも
ひきこもり状態にある方とご家庭の中でコミュニケーションがとれない、信頼関係を築けないという状況は、双方にとってとても大きなストレスです。将来への不安から焦りやイライラが募り、つい強い口調で言ってしまったり、ケンカに発展してしまったりすることもあるでしょう。
あるいは、腫れ物に触るようにいろいろと世話を焼き、ご家族の方自身が疲れ果ててしまっているかもしれません。
ひきこもり状態にある方を見守り、支えるには、ご家族の方自身のケアが重要です。しっかり睡眠をとること、趣味や地域の活動といった気分転換ができる過ごし方を大切にすることなど、ご自身の「気持ちのゆとり」を取り戻せるような休息・活動をあらためて見つめ直してみてください。
今回の調査では公的機関へのご相談がとても少ないことが分かりました。しかし、現在は国策としてひきこもり状態にある方や、そのご家族への支援体制づくりが進められています。
ひきこもり状態の家族を持つ方が集まる「家族会」で悩みや情報を共有すること、地方自治体のひきこもり支援窓口に相談することなどを、ぜひ検討してみてください。
ひきこもりに関する家族会については、以下の関連記事で紹介しています。
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【参考】
令和3年度「江戸川区ひきこもり実態調査」の結果報告書について|江戸川区