2020/11/17
統合失調症の原因と症状は? 休業のタイミングと仕事復帰
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日本で精神疾患をもち医療機関を受診した人が400万人を突破。そのうち約128万人を統合失調症の患者さんが占めています。統合失調症で休業が必要になると治療期間も長くなり、職場復帰が難しいと言われます。しかし、最近は無事に職場復帰を果たす方も増えてきました。
今回は、統合失調症の休業・復職について解説。まずは統合失調症の各症状や経過、服薬の重要性を確認し、その後、休職のタイミングや仕事への復帰について見ていきます。
統合失調症とは? 原因と主な症状
統合失調症は、かつて「精神分裂病」と呼ばれていた精神疾患。自分の考えや気持ちをうまくまとめられなくなるのが、大きな特徴です。約100人に1人がかかると言われています。
まずは統合失調症の原因と主な症状を確認していきましょう。
統合失調症発症の原因・要因
統合失調症を発症する正確な原因は、まだ分かっていません。発症は思春期から40代が多めです。
大きな要因としては、脳の神経伝達物質の分泌バランスが崩れることが関係していると考えられています。また、失業や失恋、職場での異動など心身に大きなストレスがかかることをきっかけに、症状が現れたり悪化したりすることも指摘されています。
症状自体は、陽性症状・陰性症状・認知機能障害などがありますが、どの症状が現れるかは一律ではありません。
統合失調症の主要因は脳機能の問題ですので、育った環境や育て方の問題ではありません。患者さんが「怠けている」「努力不足だ」という問題ではないことにも注意が必要です。
【参考】
統合失調症|MSDマニュアル家庭版
症状1:陽性症状
統合失調症の陽性症状の代表は、妄想・幻覚・思考障害です。
妄想とは、たとえば「テレビで自分のことが話題になっている」「自分は監視されている」など、事実に反することを強く思い込むことです。
幻覚は、周りに誰もいないのに自分の悪口や命令する声が聞こえたり、そこにないはずのものが見えたりすること。「本当に声が聞こえる」「本当にそこに見える」という現実感が伴い、多くの場合は自分を責めたり否定したりする内容です。
思考障害とは、考えがまとまらず一貫性もなくなること。思考が一貫しないため、他の人との会話もスムーズに進めることが難しくなります。患者さん本人も、何の話をしているのかよく分からなくなってしまうことがあります。
症状2:陰性症状
統合失調症の陰性症状では、感覚鈍麻・思考の貧困・意欲の欠如・自閉(社会的引きこもり)などがあります。
感覚鈍麻とは、感情が平板化すること。具体的には、喜怒哀楽の表現が少なくなり、他人の喜怒哀楽にも共感しにくくなります。患者さん本人にも、無表情になったり人と目を合わせなくなったりなどの様子が見られます。
思考の貧困とは、抽象的な表現や比喩表現などを自分で使えなかったり、理解できなかったりすることです。感覚鈍麻と合わさって言葉数が少なくなるといった症状もあります。会話が少しできる場合であっても、1〜2語だけの短い返答しかしません。
意欲の欠如とは、自分から何かをしようとする意欲がなくなってしまったり、今やっている行動を続けられなくなったりすること。以前好きだった活動にも、ほとんど関心を示さなくなります。生活に必要な掃除や入浴も、自分からはやらないというケースが多く見られます。
自閉(社会的引きこもり)とは、自分の世界に閉じこもって、他の人とコミュニケーションをとらなくなること。外出せず、自室からも出ないといった様子が見られます。
症状3:認知機能障害
統合失調症で起こる認知機能障害は、記憶力の低下・注意力や集中力の低下・判断力の低下などです。
物事を覚えるのに時間がかかったり、仕事に集中できなくなったりするだけでなく、自分の考えをまとめることも難しくなるのが特徴。判断力の低下が起きると、物事に優先順位をつけることができなかったり、計画を立てることが難しくなったりします。
統合失調症の経過と仕事での障害
統合失調症は、発症(再発)から症状が落ち着くまで、前兆期・急性期・消耗期(休息期)・回復期という経過をたどります。それぞれの時期で現れる症状が異なるため、仕事上で現れる障害も変化します。
前兆期
前兆期は、急性期が始まる前兆が現れる時期。主な症状は以下の4つと言われています。
<統合失調症 前兆期の主な症状>
- 眠れない
- 音に敏感になる
- 焦る気持ちが強くなる
- 気分が変わりやすくなる(集中力低下・イライラするなど)
前兆期は心身ともに疲れやすくなるため、仕事では過労にならないよう気をつけなければなりません。眠れないといった症状は、そのまま睡眠不足にもつながります。
大きな障害はまだ生じにくい時期ですが、眠れない日が続くようなら、欠勤して心身を休めることも検討しましょう。無理をして仕事を休まずにいると、症状が悪化する恐れがあります。
前兆期の症状を感じたら、早めに精神科の専門医に相談を。早期の治療開始と医師の指示通りの服薬を行うことで、症状を軽くしたり再発を予防したりできます。
急性期
急性期は、心や体が過剰に活動する時期です。脳内でドーパミンが過剰に分泌されてしまうのが原因と考えられています。
急性期も、主な症状は4つです。
<統合失調症 急性期の主な症状>
- 不安を抱えやすくなる
- 眠れない
- 幻覚や妄想が現れる
- 何か変だとは思っても、自分が病気であると認識しにくい
さまざまな不安や幻覚・妄想に振り回されやすい時期ですので、前兆期以上に心も体も疲れます。睡眠不足にもなるでしょう。仕事で必要なコミュニケーションが難しくなったり、根拠がないことや事実に反することを思い込み、同僚や上司を困惑させてしまったりするかもしれません。
急性期は、勤務時間を減らして休息を多めにとる、職場の人々に症状に関する配慮をお願いするなどの対処が必要です。治療は、症状を改善する薬の服用が中心となります。
消耗期(休息期)
急性期で心と体の活動が増えていた分、消耗期では活動がとても弱くなります。脳内ではドーパミンの分泌が通常より少なくなってしまいます。家から出なくなる、倦怠感が続くなどが原因で、生活リズムも乱れやすい時期です。
<統合失調症 消耗期の主な症状>
- 眠気が強い
- 体がだるい
- 家から出ない(引きこもり)
- 意欲が出ない、やる気が起きない
- 自分に自信がもてない
消耗期では、幻覚・妄想は減るものの、数カ月という長い休息時間が必要。薬を服用しながら、仕事を休んできちんと休養をとりましょう。
ただ、眠気の強さやだるさ、家から出ないことなどで生活が乱れやすくなる点には注意が必要。休息期間中でも、起きる時間と寝る時間をなるべく一定に保つことが重要です。生活リズムを整えながら、焦らず、じっくり心身を回復させていきましょう。
回復期
急性期の非常にストレスの強い時期と、心身の活動がとても低下する消耗期を経て、病気は回復期に入ります。回復期では、心にも体にも余裕が出てきて、やる気も戻ってきます。
長い休養期間の後なので、通常の仕事にいきなり復帰するのは難しいかもしれません。仕事のためのスキルやルールを確認・習得したり、就業時間にきちんと働けるだけの体力作りをしたりするなどのリハビリテーションが必要です。
いきなり「あれもこれも」と始めると、大きなストレスがかかり、再発する可能性が高まります。回復期でも「焦らず、じっくり」がポイントです。
再発予防の薬も、忘れずに飲みましょう。多くの患者さんが「もう症状はないから!」と服薬を勝手にやめてしまい、その後再発していると言われます。再発を抑えるために、勝手な判断で薬の量や飲むタイミングを変えたり、服薬をやめたりしないよう、十分注意してください。
もし、リハビリテーションを突然やめて仕事探しを始めたくなったり、ソワソワしたり、逆にぼーっとしたりするようになったら、再発のサインかもしれません。その際は、なるべく早く専門医に相談しましょう。
統合失調症で休職が必要になるタイミング
統合失調症で休職が必要になるタイミングは、前兆期や急性期です。
早めに専門医に相談し治療を開始することで、休職期間が短くなったり、軽い症状で治したりすることができます。具体的にどの時点で休職の申請をすべきかは医師によって判断がやや異なりますが、休職の診断書が出たら「すぐに休職して」という意味だと理解してください。
ただ、前兆期では症状を自覚しつつも病気だという意識が本人にないケースも多く見られます。そのまま急性期や消耗期に入って初めて受診し、仕事を休む必要性を知らされたという例も少なくありません。
実際、「ちょっとイライラする」「仕事でミスをした」「あまり眠れなかった」などは日常でも比較的よくあることです。
しかし、その頻度が高くなったら要注意。幻覚や妄想まで出てきたら、一刻も早く精神科に相談しましょう。「いきなり精神科へ行くのは・・・」という場合は、現在働いている職場の上司や産業医に相談するのでも構いません。
精神疾患で休職する場合、多くは3カ月以上となります。患者さん本人に合った薬を決めたり、薬の効果がきちんと現れたりするまでに時間がかかることが理由の1つ。もう1つの理由は、症状が改善してから職場復帰までのリハビリ期間があることです。症状が軽い場合を除き、休職は治療の試行錯誤や復帰準備期間とセットだと考えましょう。
仕事復帰はいつ? 以前の職場に戻る場合
かつては、統合失調症を発症すると仕事を続けるのが難しくなり、復職もできないと言われていました。
しかし、近年は以前に比べて仕事に復帰しやすくなっています。精神疾患をもつ人への配慮やサポート体制をもつ職場が増え、さらに統合失調症に有効な薬なども使えるようになったからです。
職場で統合失調症への配慮を受けられるなら、産業医と主治医に連携をとってもらうことが重要です。逆に、精神疾患をもつ従業員にどう接したらよいかという知識やスキルがまだ育っていない職場では、定着支援などの外部支援を入れることで、仕事を続けやすくなるでしょう。
(関連記事)
職場での精神障害者との接し方とコミュニケーション上の注意点
休職して症状が改善してから職場復帰に至る流れは、厚生労働省のガイドラインで以下のように示されています。復帰準備の目安としてご活用ください。
また、厚生労働省によるポータルサイト「こころの耳」では、ある統合失調症の患者さんが実際に職場復帰を果たした事例を紹介。
この例では、休職からの職場復帰にあたって産業医と主治医が連絡を取り合い、職場で必要な配慮を確認し、産業医から上司に対して分かりやすい説明が行われました。産業医から患者さん本人に対しては、欠勤や早退のルールと、なぜそのルールを守る必要があるのかなどが改めて説明されました。
その後は1カ月に数日の欠勤や早退はあるものの、復職から2年間、休職せずに仕事を続けられているとのことです。
【参考】
[事例2-4]疾患特性を職場に説明し、職場復帰が成功した統合失調症の事例|こころの耳
新しい仕事を探す方法とルミノーゾでの事例
統合失調症が「精神分裂病」と呼ばれていた頃は、一度かかると一生症状が続くと考えられていました。そのため、「統合失調症があると働けない」というイメージも強くありました。
しかし、近年は良い薬ができたり統合失調症への理解が進んだりして、サポート体制が少しずつ整ってきています。
そこで、統合失調症で離職した方がどのように仕事復帰・就職をすればよいのかを解説します。それとともに、「障がい者としごとマガジン」編集部のある就労移行支援事業所・ルミノーゾの利用者の例をご紹介しましょう。
統合失調症で離職後に新しい就職先を探す方法
それまでの仕事を辞めて休養をとり、あらためて別の仕事を探す場合、ハローワークや就労移行支援事業所などを活用するのが便利です。
ハローワークでは、精神疾患への配慮があり通院や服薬にも対応できる勤務体制を備えた会社の求人を扱っています。もし精神障害者保健福祉手帳を持っているなら、障害者枠での就職も選択肢に入るでしょう。その場合は、障害者の就職サポートの担当者が支援してくれるはずです。
ハローワークは地域のサポート機関との連携もとっているので、職業訓練を受けたり、統合失調症をもちながら仕事をする方法の相談にのってくれたりもするでしょう。
一方、就労移行支援事業所では、就職全体のサポートと働くために必要なスキルアップ等のプログラムを実施しています。グループワークや交流の場などもあり、同じように統合失調症で離職した利用者と話せる機会もあるでしょう。
障害者手帳を所持していれば、障害者枠での応募を見据えて履歴書作成や面接練習なども行っていきます。利用期間は2年間で65歳までという制限はありますが、定期的に事業所に通うという生活習慣の形成から始められるのも活用のメリットです。
就労移行支援については、以下の関連記事でも詳しく解説しています。
(関連記事)
就労移行支援を使い倒す ~選び方から利用方法まで~
障害者枠での就職は、病気の治療に対する配慮が前提となった就職。そのため、通院・服薬がしやすく、症状が強い場合はきちんと休ませてもらえるのが利点です。
障害者枠での求人を多く出している企業の代表例は、大企業の特例子会社です。特例子会社では、さまざまな病気や障害のある方が働いているため、他の障害者のために自分が業務をサポートしたり、他の障害者の方に助けられたりといった場面も出てきます。
「安心して働きたい」「正社員として働きたい」という希望がある場合は、特例子会社への就職も選択肢に入れると良いでしょう。
特例子会社への就職については、以下の関連記事でも解説しています。
(関連記事)
特例子会社で働くメリットとデメリットとは|障害者雇用枠との違い
ルミノーゾでの支援事例1
就労移行支援事業所であるルミノーゾでも、統合失調症をもつ方々の就職をサポートしています。支援事例の中から、2つをご紹介しましょう。
まず、統合失調症をもつ利用者のAさんの例です。
Aさんは統合失調症で1年近く引きこもっていました。そのため、社会との交流がなく不安を抱いてルミノーゾの利用を開始しました。
ルミノーゾの利用が始まって最初に行ったのは、生活リズムを整えることです。事業所に通うことでリズムを作り、少しずつ通所日数を増やしていきました。
Aさんはもともと話し好きで、人好きのするタイプ。すぐに事業所の環境に馴染むことができ、グループワークにも積極的に参加するようになります。
やがて週5日の安定通所ができるようになったため、Aさんは支援員と一緒に就職活動を開始。Aさん自身できちんと自己分析を行うこともできました。
求人への応募、書類提出、面接と進んで、無事に採用が決定。「やりたい仕事につけて良かった」とAさんも喜んでいる様子。
就職後は、就職先での人間関係で悩みを抱えることも。そのため、ルミノーゾの支援員がAさんと職場の間に入り、問題事項を共有。心にたまったものを吐き出してすっきりした様子もAさんから伺えました。
問題共有を行った後は、定期的に面談しながら職場定着をサポート。人事の転換もあって、現在Aさんは気持ちよく仕事を続けられています。
ルミノーゾでの支援事例2
統合失調症をもつBさんは、前の職場で残業が続き、体調を崩して離職。しかし、ルミノーゾの利用開始後すぐに就職活動を開始できました。パソコンスキルを向上させるプログラムやグループワークへも積極的に参加しました。
Bさんは無事に就職先が決定。ところが、Bさんには不安がありました。採用後の説明会が、一般枠で雇用された人たちと同じ説明会だったからです。
「仕事量などの配慮はきちんとしてもらえるのか?」
「大勢に障害をオープンにされてしまうのではないか?」
「もし障害がオープンにされたら、仕事を振られなくなるのではないか?」
Bさんから相談を受けた支援員は、企業側と悩みを共有しました。
仕事がスタートすると、Bさん自身も積極的にコミュニケーションをとるようになります。不安を感じていた業務量もきちんと配慮を受けることができました。「もっとこなせそうだと感じたら、上司に相談しよう」と前向きな様子も見せてくれました。
数カ月後、定着支援の面談で、Bさんが新しい悩みを抱えていることが判明します。
仕事内容を一度で理解できないことが多い、仕事内容の全容が把握できていない、まだ分からないことも多いといった不安でした。さらに、悩みがあっても他の人に聞くタイミングが分からないという問題も抱えていました。
そこで、支援員を通じて職場へ「業務の情報を共有できるものを作ってほしい」という要望を出します。
一方で、職場の担当者と上司からは「障害が分からないくらいスムーズに対応できている」「仕事ぶりに不足はない」という評価。職場からの評価とBさんの要望とに齟齬がありました。
そこで、支援員から上司にあらためてご対応を提案することにします。「ここまで」分かっていれば大丈夫、と具体的に示していただくことで、Bさん自身も安心するのではないか、という提案です。上司は「それであればアドバイスできそう」とのこと。そのように対応していただくことが決まりました。
Bさんの不安を減らし、安定して仕事を続けられるよう、今後も月1回の定着支援でBさんをフォローしていくことになっています。
※各事例は、プライバシー保護の観点より個人が特定されない表現にしています。