どのくらいの障害者が超短時間労働を望んでいる? 課題と求められる支援


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障害者の法定雇用率制度では、週20時間以上で働く障害者の雇用を求めています。しかし、障害の状況や健康管理の点から、週20時間未満の超短時間なら働き続けられる方がおり、障害者雇用を評価する制度との間にギャップが見られます。今回は、障害者の超短時間労働の実態と求められる支援をNIVRの研究報告書から読み解いていきましょう。

超短時間労働を行う障害者に関する2つの実態調査

障害者雇用促進法に基づく障害者雇用率制度は、従業員数43.5人以上の民間企業に対して、常用雇用労働者の2.3%以上の障害者を雇用することを義務づけています。雇用率の算定対象は、週所定労働時間が20時間以上の身体障害者、知的障害者、精神障害者。週所定労働時間20時間未満の障害者雇用は算定対象となっていません。

しかし、働く障害者の中には、週20時間未満という超短時間労働で雇用されている方がいるのも事実です。超短時間労働で働く障害者がどのくらいいるのか、まずは2つの実態調査を見ていきましょう。

NIVRによる障害者の短時間労働に関する実態調査

障害者職業総合センター(NIVR)は、短時間労働での障害者雇用の実態を把握すべく2021年度に「障害者の週20時間未満の短時間雇用に関する調査研究」を実施しました(調査研究報告書 No.165)。調査方法は就労継続支援事業所へのアンケート調査やヒアリング調査、短時間労働での障害者雇用を行う企業へのヒアリング調査、専門家へのヒアリング調査です。

まず、就労継続支援事業所において超短時間労働が実際に行われている事業所の割合は、A型事業所で38.1%、B型事業所で74.3%でした。超短時間労働を行う利用者の方の障害種別では精神障害が最も多く、次いで知的障害、身体障害となっています。

A型事業所の場合、はじめは週20時間以上で雇用契約を結んだものの、症状の進行、体調の悪化、入院といった予測困難な理由によって、週20時間未満の働き方になる方が見られました。B型事業所の場合は、身体的な障害によって週20時間以上の利用が難しい方が一定数利用しています。

次に、就労継続支援事業所の利用者で超短時間労働を希望する方の割合です。A型事業所では8.7%が、B型事業所では16.2%が超短時間での働き方を希望しており、障害種別では、やはり精神障害をもつ方が最も多く希望しているという結果となりました。

超短時間労働を希望する理由は「体調の変動・維持」が最多で、A型では63.0%、B型では70.9%と、いずれも過半数を占めています。「体調の変動・維持」を選んだ方は精神障害をもつ方が多いという傾向も見られました。その他、主な理由として「加齢に伴う体力・能力等の低下」も比較的多く選ばれました。

厚生労働省が実施する「障害者雇用実態調査」

次は、厚生労働省が民間企業を対象に5年に1度実施する「障害者雇用実態調査」を見てみましょう。

2022年8月現在の最新版は2018年に行われた「平成30年度障害者雇用実態調査」です。この調査結果によれば、週20時間未満で働く障害者の割合と平均賃金は以下のようになっています。

<障害種別の労働時間の割合と超短時間労働の平均賃金>

障害種別 30h~ 20h~ ~20h ~20h

平均賃金/月

身体障害 79.8% 16.4% 3.4% 約6万7000円
知的障害 65.5% 31.4% 3.0% 約5万1000円
精神障害 47.2% 39.7% 13.0% 約5万1000円
発達障害 59.8% 35.1% 5.1% 約4万8000円

※30h~: 週所定労働時間30時間以上
20h~: 週所定労働時間20時間以上30時間未満
~20h: 週所定労働時間20時間未満

障害種別で見ると、超短時間労働の割合が最も大きいのは精神障害者。精神障害をもって働く方のうち10人に1人以上が週20時間未満で働いているという計算です。

超短時間労働での平均賃金では、身体障害の方が最も高い約6万7000円、発達障害の方が最も低い約4万8000円という結果でした。

NIVRが分析した超短時間労働での障害者雇用 4つのタイプ

では、超短時間で働く障害者の方には、どのような方が見られるのでしょうか。NIVRは、就労継続支援事業所や民間企業を対象とした今回の調査研究において、超短時間労働での障害者雇用で4つのタイプがあると分析しています。

タイプ1: 週20時間以上を目指している

1つめのタイプは、週20時間未満で雇用を開始し、職場定着を進める中で週20時間以上の労働時間になることを目指すタイプです。適切な支援や職域開発等に必要な時間を考え、「まずは週20時間未満から」というイメージです。

労働時間を増やすために、ジョブコーチ支援等を活用した職業リハビリテーションや職域開発などに取り組むことが前提としているのが特徴です。将来的に法定雇用率の達成を見込んで超短時間雇用から始める場合も、タイプ1といえるでしょう。

タイプ2: 事情に応じた調整の結果として超短時間になっている

2つめは、実際に働く中で障害特性や体調、家庭の事情など、さまざまな要素に応じて労働時間を調整した結果、超短時間での雇用となっているケースで、企業で比較的多く見られるタイプです。

タイプ2では、一時的に超短時間労働となっているケースもあれば、支援があっても週20時間以上で働くことが困難なケースもあります。前者の場合は体調や職場環境が改善すればタイプ1に、後者の場合は超短時間雇用で安定的に働くタイプ3に移行する可能性があるでしょう。

タイプ3: 超短時間労働で安定している

タイプ3は、週20時間未満での働き方が本人に適しており、超短時間労働で安定しているケースです。超短時間労働を多様な働き方の1つとして受け入れている企業の事例で多く見られ、事業所も本人も「長く働き続けられる」という大きなメリットを感じている傾向があります。

超短時間労働を希望する障害者の方には、
「自分にはこのくらいの労働時間がちょうどよい」
「これ以上は体調を崩す」
というラインを経験的に分かっている方がいます。

本人にとってワークライフバランスがよいだけでなく、企業にとっても
「短時間で集中的にやってくれて助かる」
「事業に貢献してくれている」
「長く働いてほしいので超短時間で構わない」
という認識があるのが特徴でしょう。

タイプ4: 福祉就労の移行期として超短時間になっている

タイプ4は、障害の状態や体調の変化などによって週所定労働時間を減らして超短時間労働となり、その後は福祉就労へ移っていくというケースです。

企業へのヒアリング調査では、実際にこうした状況にある方は福祉就労ではなく退職に至ってしまったため、具体的な事例は見られていません。しかし、超短時間労働に至る過程とその後の働き方のパターンを考えると、タイプ4のような福祉就労への移行期としての超短時間労働は十分考えられます。

障害者の短時間労働に見られる課題と求められる支援体制

ここまで、超短時間労働での障害者雇用の実態の概要を見てきました。そして、NIVRによる4タイプの分析から、超短時間労働は「怠けている」というものではなく、障害の状況や健康上の課題からやむを得ないケースがあること、労働時間の延長または福祉就労への移行期にあるケースがあることなどが分かりました。

しかし、障害者雇用にかかる制度は必ずしも障害者の超短時間労働の実態に即したものにはなっていません。本項では、NIVRが就労継続支援事業所と民間企業への調査結果や専門家へのヒアリング結果からまとめた現在の特例給付金の課題、望まれる支援制度の拡充に向けたポイントを見ていきましょう。

障害者の超短時間労働にかかる特例給付金の課題

ここまで見てきたように、障害者の就労における超短時間労働の実態と、障害の法定雇用率制度が求める週所定労働時間(20時間以上が算定対象)の間には、ギャップがあります。こうしたギャップを減らすために、超短時間労働の障害者雇用を評価する特例給付金制度が導入されました。しかし、この制度は就労継続支援事業所からも専門家からも課題を指摘されているのが現状です。

まず、特例給付金の概要を確認しましょう。

<超短時間労働の障害者雇用を対象とする特例給付金の概要>

対象障害者 以下の全てを満たす

  • 障害者手帳等を保持する障害者
  • 1年を超えて雇用される障害者(見込みを含む)
  • 週所定労働時間が10時間以上20時間未満の障害者

※週所定労働時間が10時間以上20時間未満であっても実労働時間が10時間未満であった障害者は対象外

支給額 対象障害者の人月×(7000円または5000円)

※対象障害者の人月数は、週所定労働時間20時間以上の障害者の人月数を条件とする

申請対象期間 毎年度1年間(4月から翌3月)
申請期間 100人超事業主:翌4月1日~5月15日

100人以下事業主:翌4月1日~7月31日

申請書の提出先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
申請書の提出方法 機構のHPから電子申請、または機構都道府県支部へ郵送か持参

ここで最も大きな問題となっているのが、支給額にある注記です。

注記では、特例給付金の対象障害者の人月が、「週所定労働時間20時間以上の障害者の人月数」までしか認められないとなっています。言い換えれば、初めて障害者雇用を行うにあたって超短時間で障害者を雇用した場合、その企業には週所定労働時間20時間以上の障害者がいないため特例給付金の支給が行われないという規定です。障害者の短時間労働を評価する制度であるにもかかわらず、相変わらず「週所定労働時間20時間以上」の壁が存在していることが分かるでしょう。

もう1つ、解消すべき問題があります。企業へのヒアリング調査において実際に超短時間労働を行っている障害者の労働時間を見ると、週10時間に満たないケースが複数あることです。

たとえば実際にヒアリング調査で得られた事例を見ると、パニック障害から超短時間労働になった方の場合、1日2時間で週1回で働いていました。過活動で健康管理が困難なため超短時間労働となった方の場合は、1日2時間で週2回です。特例給付金は、こうした方々の働き方を評価対象としていません。

望まれる支援制度の拡充

現在、超短時間労働の障害者雇用を評価する制度は特例給付金しかありません。さらに、週10時間以上で働くのが困難な方も一定数見られます。専門家へのヒアリング調査では、制度と実態のギャップを埋めるために、主に2つの点における支援制度の拡充が必要だと指摘されました。

その1つめは、超短時間労働で働き続けられる支援体制の整備。職業リハビリテーションや適切な合理的配慮を受けても週20時間以上の労働が難しい障害者への配慮も必要であるというのが、その理由です。

2つめは、企業に就職したあとも就労継続支援事業所を継続して利用できる体制の検討です。

一部の自治体では一般就労をしながら就労継続支援事業を利用することを認めているものの、多くの自治体ではまた認められていません。しかし、就労継続支援事業所で支援を受けることにより、職業生活が安定したり働き続けることができたりしたという事例があります。反対に、そうした支援を受けられないことで離職や転職を繰り返す事例も見られました。

専門家からは、企業に勤めながら就労継続支援事業も活用できるようにするには、企業側が事業を利用するコストを低減させる必要があるとの指摘がなされています。

「週20時間以上」のハードルを緩和し働き方に多様性を

超短時間労働でなら働ける障害者にとって、そうした働き方ができる求人を探すのは大変なことです。求人数の少なさは超短時間労働が評価されにくいこと、法定雇用率の算定対象ではないことなどが要因と考えられます。

日本では、多様な働き方を認めることによって、それまで勤務条件等が壁となって働けずにいた育児や介護中の方、健康上の問題を抱えている方、遠隔地に住む方などが働けるよう施策を講じてきました。障害者雇用にあっても、障害者の働き方の実態を見れば「週20時間以上」というハードルを緩和し、超短時間、ひいては週10時間未満でも働ける仕組みが必要であることがわかります。

障害をもつ方が超短時間でも働ける仕組み作りを各企業で進めるため、それを評価する国の制度拡充が求められます。

【参考】
調査研究報告書 No.165 障害者の週20時間未満の短時間雇用に関する調査研究|NIVR
平成30年度障害者雇用実態調査の結果を公表します|厚生労働省

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