2021/06/03
分かりやすい障害者雇用のサテライトオフィス導入と雇用管理
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働き方改革やコロナ禍の影響で導入が進むテレワーク。テレワークの1つの形態として今注目されているのが「サテライトオフィス」です。
障害者雇用におけるサテライトオフィス導入の進め方や雇用管理について、厚生労働省委託事業で作成された「障害者のサテライトオフィス雇用推進マニュアル 2019」の内容を分かりやすく解説します。
もくじ
なぜ必要? 障害者雇用向けサテライトオフィスとは
障害者雇用向けサテライトオフィスは、障害者が働きやすい環境を整えたサテライトオフィスのこと。一般的なサテライトオフィスとの違いは、オフィス内がバリアフリー化されていることと、定着を支援するスタッフが常駐していることです。
障害者雇用のための施設設備や支援スタッフを十分に用意できない事業所でも、障害者雇用向けサテライトオフィスを利用すれば障害者の雇用・定着を進めやすくなります。事業所とのコミュニケーション、実際の業務遂行、雇用管理についても支援を受けられるため、障害を持つ社員にとっても事業所にとってもメリットは大きいでしょう。
また、サテライトオフィス利用も含むテレワーク導入全体のメリットとして、事業所から遠い地域のかたを採用できる点も重要です。事業所の近くで障害者雇用を進めにくくても、サテライトオフィスがあれば、その地域の障害者を採用して定着支援を行えます。
よって、障害者雇用でサテライトオフィスを活用するメリット・デメリットは、下図のようになります。
上手にサテライトオフィスを活用するには、厚生労働省委託事業で作成されたパーソルチャレンジの「障害者のサテライトオフィス雇用推進マニュアル 2019」が役立ちます。マニュアルの内容を元に、サテライトオフィスを活用した障害者雇用における業務設計・採用活動から定着支援までを見ていきましょう。
サテライトオフィス導入の流れ
障害者雇用でサテライトオフィス勤務を導入する場合、サテライトオフィスの設置・求人票作成・採用活動・支援体制の整備などを行う必要があります。
全体の流れは概ね以下のようになるでしょう。ただ、自社でサテライトオフィスを設置する場合と、他者と共同利用のサテライトオフィスを活用する場合とで進め方はやや異なります。
<自社でサテライトオフィスを設置する場合>
- 障害者のサテライトオフィス勤務体制を導入するという決定と周知
- 業務設計・求人要件の決定
- 障害者雇用に合った人事制度の整備
- サテライトオフィス候補地の選定
- 候補地の支援機関に相談
- 求人票の作成と登録
- サテライトオフィスの設置を開始
- 会社説明会の実施(支援機関向け等)
- サテライトオフィスの環境整備(バリアフリー化・支援機器・通信環境導入など)
- 応募者の選考・採用決定
- サテライトオフィス周辺の就労移行支援機関等と連携
- 入社手続き
<他者と共同利用するサテライトオフィスを利用する場合>
- 障害者のサテライトオフィス勤務体制を導入するという決定と周知
- 業務設計・求人要件の決定
- 障害者雇用向けサテライトオフィス事業者の選定
- 障害者雇用向けサテライトオフィス事業者への相談・契約
- 就労移行支援機関等と連携
- 障害者雇用に合った人事制度の整備
- 求人票の作成と登録
- 応募者の選考・採用決定
- 入社手続き
業務設計・求人要件の検討とサテライトオフィス候補地や事業者の選定は同時に進めることもあります。
サテライトオフィス導入の流れをまとめると、概ね下図のようになります。
障害者雇用での業務設計
障害者雇用でサテライトオフィスを活用するにあたっては、どのような業務をどうやって担当してもらうかが重要です。
業務設計で見落としてはいけないのは、仕事のやり方を少し工夫すること。やり方を変えるだけで、サテライトオフィス勤務でも仕事を進めやすくなるでしょう。
<仕事のやり方を工夫する(例)>
- 会社にある紙の書類や資料をデジタル化する(スキャンしてPDFにする)
- 業務に必要なファイルはクラウド上に保存し、どこからでも利用できるようにする
- Web会議を導入する
これらの工夫をした上で、「業務Aの全てを任せる」のではなく「業務Aの一部のタスクを任せる」といった切り出しを行ってみてください。
<業務の一部を切り出す(例)>
- 営業関連業務のうち、資料作成
- 営業アシスタント業務のうち、見積書や請求書の作成
- 開発関連業務のうち、資料収集
- アウトソーシングしている業務
タスク単位で切り出せる業務があるかを確認するとともに、さらに書類のデジタル化やクラウド上への保存、Web会議等の活用と合わせて、実際にテレワークで遂行可能かどうかチェックすることも忘れずに。タスクごとに以下の項目を検討しておくと、その後の採用活動や定着支援で業務の割り振りをしやすくなります。
<タスクごとの検討項目(例)>
- 業務分類や業務名
- 業務内容や工程
- 必要なスキル
- 所要時間
- 業務が発生する時期・頻度
- 実施場所
- 責任者名
障害をもつかたは、その特性に応じて得意なこと、苦手なこと、集中できる時間や場所、調子の悪い時期、疲れやすさなどが異なります。集中しやすい環境で得意なタスクを中心に割り振るとともに、本人に合ったタイミングで休憩をとれるようにすれば、仕事を続けやすくなりスキルアップにもつながるでしょう。
なお、それぞれの特性に応じて提供されるさまざまな配慮は、障害者雇用では「合理的配慮」と呼ばれます。合理的配慮の考え方や事例については、以下の関連記事をご覧ください。
(関連記事)
【概要編】まずは理解しておきたい!分かりやすい改正障害者雇用促進法(後編)
【合理的配慮好事例・第11回】在宅勤務なら日本全国から障害者を募集できる【障害者雇用】
障害者雇用の採用活動 6つのポイント
サテライトオフィスを活用した障害者雇用を進めるにあたり、重要なポイントが6つあります。障害者のサテライトオフィス勤務体制を導入するという社内での周知や必須スキルの絞り込み、働きやすい環境整備などです。順番に見ていきましょう。
ポイント1:社内で周知する
人材募集のための業務設計ができたら、サテライトオフィス勤務で障害者雇用を行うことを社内で周知していくことも忘れずに行いましょう。
<障害者雇用にあたり社内で周知すること>
- 自社の業務に新しく参加する人を何人採用するのか
- どこでどんな業務を担当する予定なのか
- どのような協力が必要なのか
- なぜそのような取り組みを行うのか
こういった点を社員全員に知ってもらうことで、採用後の協力・連携がしやすくなります。企業のトップから発信するのが理想です。
ポイント2:必須スキルは最低限必要なスキルに限定する
採用活動では、採用後に担当してもらう業務にとって必須のスキルと、あれば望ましいスキルを分けて考えなければなりません。
必須スキルが多いほど採用要件が高く、実際の採用が難しくなるもの。また、パソコンスキルについて非常に高い要件で採用されたにもかかわらず、業務内容が常に一定のパターンの入力のみという募集だと、採用された社員としても「物足りない」と感じてやる気がなくなってしまうかもしれません。
こうしたミスマッチを防ぐため、必須スキルには必要最低限のスキルのみを設定することを意識してください。
ポイント3:少ない勤務時間・日数から働けるようにする
一般雇用とは異なり、障害者雇用では治療と仕事の両立が前提。これはサテライトオフィス勤務でも同じです。そのため、障害特性や通院・服薬の状況に合わせて短時間の勤務や少ない日数から働けるという条件が大切になります。
採用直後からいきなりフルタイムで働く場合、急激な生活の変化でストレスが大きくなってしまうかもしれません。疲れやすさや休憩の頻度などは障害特性によって異なるため、採用者全員が最初から1日8時間・週5日で働けるわけではないことに注意が必要です。
短時間勤務は合理的配慮の事例としてもよく見られるもの。「フルタイムで働けないのなら雇わない」ではなく、「働ける時間・日数から始め、本人の状況に合わせて調整していくことで職場定着を図る」という考え方をすることで、障害者雇用を成功させやすくなるでしょう。
ポイント4:共同利用タイプのサテライトオフィス利用も検討する
先述したとおり、サテライトオフィスの導入には自社で設置する方法と共同利用のサテライトオフィスを活用する方法の2つがあります。初めてサテライトオフィス勤務を導入するなら、すでにある共同利用の障害者雇用向けサテライトオフィスを活用するほうが安心で現実的かもしれません。
共同利用タイプのサテライトオフィスには、次のような例があります。
<障害者雇用向けサテライトオフィスの例>
- スタートライン
(多数の大手企業による導入実績あり) - セルフ・エー
(就労継続支援A型事業所によるサテライトオフィス) - Kaien
(スキルアップ・キャリアアップもサポート) - チャレジョブ
(従業員200名〜2万名の企業をサポート)
自社で設置する場合は、次項で紹介する支援機関と連携して職場環境の整備や支援スタッフの配置を必ず行いましょう。
ポイント5:採用候補地の支援機関と連携する
実際に採用活動を進めるにあたり、採用候補地(サテライトオフィスがある地域)の障害者雇用支援機関とうまく連携できるかどうかも成否を分ける大きなポイントです。
実際に障害をもつかたが働く場所(サテライトオフィス)で支援機関との適切な連携があれば、障害特性に合わせた分かりやすいマニュアル作成、業務指示、支援機器の導入、休憩の取り方などを実施できます。
候補地の支援機関と連携するには、自社の障害者雇用推進について知ってもらわなければならないでしょう。まずは公的な支援窓口に相談し、テレワーク(特にサテライトオフィス)での雇用について相談してみてください。
全国の障害者雇用の相談・支援窓口として代表的なものが、次の4つです。
<全国の障害者雇用の相談・支援窓口>
- ハローワーク(全国500か所以上)
- 地域障害者職業センター(47都道府県)
- 障害者就業・生活支援センター(全国300か所以上)
- 発達障害支援センター(47都道府県)
- 自治体の障害者雇用推進事業窓口(都道府県、市区町村などの窓口)
さらに、候補地で障害者雇用を支援している就労移行支援事業所や就労継続支援事業所向けに会社説明会を実施したり採用の案内を送付したりすることで、より多くの支援機関に障害者の採用を行うことを周知できます。
こうした事業所には、パソコン関係に強いところやものづくりに強いところ、精神障害者や発達障害者のサポートに強いところなど、さまざまな特色があります。募集したい人材やスキルに合わせて連携できれば、業務と人材のマッチングを上手に進められるでしょう。
Google検索などで「就労移行支援 神奈川県」など都道府県名で検索すると、事業所一覧を見つけられる場合があります。
ただ、コロナ禍では現地で説明会を開催するのは難しいかもしれません。メールや新聞を使った告知、Web会議システム等を使い、アピールしていきましょう。
ポイント6:採用面接はオンライン面接を活用する
2020年から2021年は感染症の流行時期ということもあり、採用活動でのオンライン面接が増えました。一般雇用だけでなく、障害者雇用でも同じ状況です。
サテライトオフィス勤務を前提に採用活動を行う場合でも、オンライン面接のメリットは大きいと言えます。特に、遠隔地で採用活動を行うための移動・準備時間やコストを企業・応募者双方で低減できるでしょう。
支援機関に登録している障害者であれば、支援事業所の会議室で支援スタッフのサポートを受けながら面接することも可能です。
以下の関連記事は求職者向け面接の解説ですが、障害者雇用でどのようなオンライン面接を行っているのかや、採用面接で重視する内容などを確認できます。
(関連記事)
オンライン面接とは?面接の受け方・服装・注意すべきポイント【障害者雇用】
障害者雇用での面接準備や質問の内容は?「職業準備性」を意識しよう
雇用管理と業務管理方法
サテライトオフィス勤務の障害者を雇用する場合、企業が行うべき雇用管理や業務管理は大きく分けて3つあります。「労働環境整備」「人事労務管理」「業務管理」です。
<サテライトオフィス勤務の導入で企業がやるべき雇用管理>
- 就労環境の整備
- 障害に配慮した施設・設備である
- 円滑なコミュニケーションがとれる環境である
- サテライトオフィス勤務者の帰属意識が醸成される環境である
- グループウェアやバーチャルオフィスを利用する
- 人事労務管理
- 自社で採用し、直接雇用する
- 障害特性に応じた職域を担当にする
- 各種人事制度を整備し、運用する
- 定期的な面談を実施する
- 通院・服薬に配慮した勤務体制にする
- 必要に応じて主治医・産業医と連携する
- サテライトオフィスに適した勤怠管理を行う
- 業務管理
- 適切な自社業務を割り振る
- 業務上必要な研修・訓練を実施する
- 障害特性に応じて必要な指導やサポート、ツール導入を行う
- いつでも相談できる環境を整え、報連相を徹底する
社外設置の障害者雇用向けサテライトオフィスの場合、障害者が使いやすいようバリアフリー化されていたり休憩室が用意されていたりすることが多く、同時にサテライトオフィスとしての通信環境・セキュリティ環境も完備されている場合が多く見られます。
また、業務の切り出しや割り振り、面談の実施、適切な勤務体制などについても、多くの場合、障害者雇用向けサテライトオフィスの支援スタッフに相談可能です。
自社で障害者雇用に使用するサテライトオフィスを設置する場合は、障害特性に応じて必要な施設・設備を備えたオフィスを用意するとともに、障害をもつかたがいつでも相談できるよう、サテライトオフィスに支援スタッフを配置しましょう。
自社でサテライトオフィスを設置する場合でも、就労移行支援事業所や各種支援機関と連携し、サテライトオフィス勤務者の定着支援を図ることが大切です。
業務上必要な研修や訓練の内容・方法については、支援スタッフと相談した上で、上司や同僚の協力のもとで実施することもあるでしょう。そのような場合、サテライトオフィスに社員が出向いて研修・訓練を行うこともあります。
障害者のテレワークの選択肢にサテライトオフィス勤務を
働き方改革やコロナ禍の影響で導入が進んできたテレワーク。在宅勤務が注目されていますが、自宅に仕事環境を整えにくい場合は、障害者雇用向けのサテライトオフィスを活用するという方法があります。
サテライトオフィスは自社で設置することも、共同利用のオフィスを契約して利用することも可能。共同利用であれば、支援機関との連携が取りやすく、環境整備や業務遂行のサポート、定着に向けた支援なども受けられます。
サテライトオフィス勤務の導入は、事業所から離れた場所に暮らす障害者の雇用できる、事業所で十分な環境整備ができない場合でも障害者雇用を進められるといったメリットが大きいものです。障害者雇用の1つの手段として、ぜひ検討してみてください。
【参考】
パーソルチャレンジ「障害者のサテライトオフィス雇用推進マニュアル 2019」|厚生労働省