2021/03/30
【合理的配慮好事例・第8回】目標設定やSSTなどで課題改善へ!発達障害者のマナー・ルールの習得とスキルアップ
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障害者雇用において、「発達障害をもつ社員が生活や仕事のマナー・ルールを分かってないようだ」という声が事業所の方から聞かれることがあります。それは、発達障害の特性の1つ「暗黙の了解を理解しにくい」ことが原因かもしれません。
発達障害の方にマナーやルールを習得してもらうには、具体的に何が不適切で、どうすればよいのかを提示し、練習する機会を設けることが効果的です。
合理的配慮好事例解説シリーズ第8回では、発達障害者のマナー・ルール習得やスキルアップに取り組んだ事例を独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下、機構)の「発達障害者のための職場改善好事例集(平成23年度)」から紹介します。
もくじ
目標設定とルール・マナーの文書化でステップアップ—新潟ワコール縫製株式会社
大手アパレルメーカー株式会社ワコールの子会社である新潟ワコール縫製株式会社は、スリープ・スポーツ領域のマザー工場です。従業員227名のうち2名が発達障害者で、下着のタグ付け、各階への製品集荷、下着の部品付け、縫製軽作業などを担当しています。
発達障害をもつ従業員Aさんは、先輩障害者による指導と目標達成シートの活用などで業務を習得し、職域を拡大。担当業務が増えたことで職場内での移動も多くなりました。
しかし、“移動の際にミシンのボタンを押す”、“エレベーターの中でジャンプする”といった課題が発生します。
課題の改善策として用いられたのは、業務の目標を定めた目標達成シートと、職場内でのルールについて書かれた社長直筆の10か条でした。
目標達成シートにある項目については、ミスなく1カ月間作業を行えたら次のステップとして、本人が希望しているミシン作業を業務に取り入れることを約束。社長直筆の10か条には「手は常に清潔にする」「エレベーターの中でジャンプしない」等の守ってほしい項目を具体的に示しました。
業務上の目標が明確になるとともに、ルールを書面で伝えることによって、課題となっていた行動は見られなくなったとのことです。
その後、10か条は社長直筆の「ステップアップ5か条」にバージョンアップ。「正直を旨とし、嘘はつかない」「集中力を高め、ミスはしない」「安全第一とし、仕事中に危険なことは慎む」などが記載されています。
他に、外部支援機関の支援者とAさんが話す機会を設けたりすることで、Aさん自身のコミュニケーション力も向上していったとのことでした。
【参考】
発達障害者のための職場改善好事例集(平成23年度)|機構
ワコールグループについて|ワコールホールディングス
SSTや目標設定、休憩時間の工夫で課題改善へ—大東コーポレートサービス株式会社
大東コーポレートサービス株式会社は大東建託株式会社の100%出資子会社として設立され、2005年に特例子会社に認定されました。従業員81名のうち11名が発達障害をもつ従業員です。
会社としては親会社や関連会社から受託した400種類の業務を担っています。同社で働く発達障害のある方々も、特性に応じてさまざまな業務を担当しています。
SSTの活用でコミュニケーションスキルアップやマナー・ルールの習得へ
発達障害をもつ従業員の振るまいに関して、同社では次のような課題が発生していました。
- エレベーターの不適切な使用が原因で親会社従業員からクレームが発生
- ルールにこだわり会話時に正論で話す
- 質問の時間が長引き、業務に影響が出る
これに対して、同社ではSSTを活用して課題改善を図ります。たとえば、以下のような対応を行いました。
<課題改善に活用したSSTのテーマ等>
- エレベータの使い方
- 実際にエレベーターも活用しながら良い例をモデルとして、ロールプレイを行う
- 「こんな時どうする?」シリーズで会話時のポイントを学ぶ機会を設ける
- 相手の話の受け方
- 自分からの伝え方
- 怒りや不愉快な気持ちの伝え方
- ひとりSSTで会話時のポイントを練習
- 相手の話の受け方
- 自分からの伝え方
- 会話の終了の仕方
発達障害の方は、口頭だけの説明や抽象的な説明ではうまく課題を改善できないことがあります。そこで、具体的にどのように行動を改善していけばいいかを伝えるのにSST(ソーシャル・スキルズ・トレーニング、ソーシャルスキルトレーニング、社会生活技能訓練)が使われるようになりました。
SSTは行動療法と認知の要素とを含んで発展してきたもので、生活に最低限必要なスキルや本人が今困っていることに応じて、課題改善を図ります。基本的にグループワークで行われ、最終的にはメンバーそれぞれが自分に合った対処方法を見つけ、習得していくことが目標です。
ただ、グループワークではうまくトレーニングできないと判断される場合は、「ひとりSST」が実施されることもあります。これは、指導者と1対1で行うトレーニング。大東コーポレートサービスでも、必要に応じて柔軟に活用しています。
目標設定と研修、文書による振り返りでマナー・ルールから逸脱した行為を自覚
また、同社では目標設定や振り返りの実施、研修なども使ってマナーやルールの習得を図りました。特に個別の目標設定と掲示、毎日の振り返りによって、目標を守るという意識が定着し、課題改善につながっていったようです。
<職場の内外で見られたルールやマナーからの逸脱行動>
- パソコン入力中に勝手に席を移動する
- 事業所外のトイレに行く
- 勝手に指示を出す
- 通勤電車内で、自分を見て笑ったという理由で相手の頬を叩く
- 職場で好きな異性の体に触れる
<課題改善のためにとられた方策>
- 従業員それぞれに必要なマナーや業務スキルの向上について「2週間目標」を設定し事業所内に掲示。その目標を守れたかどうか、職業生活相談員と毎日振り返りを行う
- 社会生活のルールを学ぶ機会として全従業員に向けて研修実施
- 個別対応でやってはいけないことを明確に伝える
- 不適切な行為の際の経過を本人に文章で書かせて、自分の行為について「振り返り」を実施
マナーやルールから逸脱する行動の中には、本人や他の人の負傷につながるような重大なものもあります。そうした行動が見られた場合は、本人に「これは重大なことなんだ」という認識をもってもらわなければなりません。その後のトラブル防止のためにも、一定時間が経過したときに再度注意喚起する必要もあります。
同社で実施した文書による振り返りは、口頭だけでは理解しにくいことを文書にすることで理解しやすくなるとともに後の注意喚起もしやすいため、課題改善に効果的でした。
昼休みに自由参加型のゲームを活用
従業員のルール・マナー習得の他に、事業側で行った工夫もあります。昼休みに自由に活用できるゲームの導入です。
同社では、昼休みの空き時間の過ごし方が分からないことが原因で、他の企業のフロアに出歩いたり、従業員同士で口論になったりするなどの問題が発生していました。
そこで、昼休みに自由に使えるゲームを用意したのです。もともと計算能力など業務に必要なスキルを向上させる機会がうまく確保できずにいたという背景もあったため、業務に必要な漢字や計算などを行うゲームや海外の珍しいゲームを導入しました。
休憩時間にやることができたことで問題行動は減少。計算や計算機の利用などのスキルが向上する従業員も出てきます。さらに、ゲームの進め方を見ると参加している従業員の理解の進め方、リーダーシップなども見えてきました。ゲームの活用によってコミュニケーションスキルもアップした従業員もいたそうです。
【参考】
発達障害者のための職場改善好事例集(平成23年度)|機構
大東コーポレートサービス株式会社 公式サイト
発達障害者のマナー・ルール習得とスキルアップに関する配慮
発達障害をもつ方は、社会生活やコミュニケーションで「知っていて当たり前」と思われていることが分からないことがあります。そうした「前提」を明確に示すことでマナー・ルールとして習得していけるよう支援するのが、今回のポイント。
では、新潟ワコール縫製株式会社と大東コーポレートサービス株式会社が実際に行った工夫をあらためて見てみましょう。
<発達障害者のマナー・ルール習得とスキルアップに関する7つの配慮>
- 個別に2週間単位で目標を定め、毎日振り返りを行う
- 社会生活のルールを学べる研修を実施したり、守ってほしい項目を具体的に書面で示したりする
- 課題を抱える従業員に個別にやってはいけないことを明確に伝える
- マナーやルールから大きく逸脱するような重大なケースでは、文書を使って振り返りを行う
- SSTを活用する
- 話の受け方・伝え方・怒りや不愉快な気持ちの伝え方・会話の終了の仕方などを学んだり練習したりする機会を設ける
- 休憩時間をうまく過ごすのが苦手な従業員のために、自由参加型のゲームを用意しておく
課題となっている行動の原因やSSTの活用等については、ぜひ支援機関にも相談してみてください。具体的なマナー・ルールの提示やSST、研修等での学習・練習のやり方とともに、施設・設備を整備することで解決できる問題もあるかもしれません。