【障害福祉サービス改革】就労継続支援A型事業所が「おかしい」?その理由と改革【2】


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11月13日、財務省は社会保障における改革案の資料を公表しました。焦点となるのは、就労継続支援A型・B型とグループホーム。国による障害福祉サービス等の改革の方向性について、4回に分けてお届けします。
第2回となる今回は、就労継続支援A型事業所で見られる課題と改革の方向性です。

就労継続支援A型事業所とは?

今回、財務省の資料で改革の焦点の1つとされているのは、障害福祉サービスの訓練給付に分類される就労継続支援事業所です。

就労継続支援は、障害のある方が働ける場を確保すること自体が目的です。その働き方は「福祉的就労」と呼ばれますが、福祉的就労の中でも一般的な企業への就職を目指すか否か、そして利用者とどのような契約を結ぶかという点で、A型事業所とB型事業所に分かれています。

就労継続支援B型事業所では、雇用契約を結ばず、利用者には作業(生産活動)に対する「工賃」が支払われます。

これに対し、就労継続支援A型は、利用者と雇用契約を結んだうえで、利用者が仕事や訓練を行うものです。目標は、民間企業等へ就職すること(一般就労)。福祉的就労であっても利用者が雇用保険に加入できる点が、B型との大きな違いです。

(関連コラム)

A型事業所の一般就労への移行割合、半数が「0%」

一般就労への移行が目標のひとつに位置づけられているA型事業所ですが、その実態は必ずしも障害福祉サービスにおける設置目的とは一致しません。

財務省の資料によれば、一般就労への移行が全くなかったA型事業所は全体の半数以上。利用者の意思についても、一般就労を希望する利用者は18.7%と2割未満です。A型事業所の事業者も利用者も、全体として見ると一般就労への意識はあまり高くないという結果になりました。

【A型事業所の一般就労への移行割合】※有効回答数1,028カ所

 

一般就労への
移行割合
事業所の割合
0% 54%
0%超〜5%未満 11%
5%超〜10%未満 17%
10%超〜15%未満 10%
15%超〜20%未満 3%
20%以上 5%

※財務省「(資料)社会保障(2024年11月13日)」p.131より作成

そもそもA型事業所の役割は「通所により、雇用契約に基づく就労の機会を提供」し、「一般就労に必要な知識、能力が高まった者について、一般就労への移行に向けて支援」することであると厚生労働省の資料にも明示されています。*

そのため、こうした一般就労移行率の低さを改善するには、利用者の意向やA型事業所の利用を選択することの適切さについて、市町村がA型事業所の利用申請を受けた際に審査・検討すればよいでしょう。

ところが、財務省の調査で市町村に対して、A型事業所から一般就労への移行について検討しているか否かを尋ねたところ、「検討していない」と答えた自治体が43.3%でした。自治体においても、A型事業所の役割に応じた選択かどうかという点に対する目はあまり厳しくないようです。

*引用:厚生労働省「障害者の数(在宅・施設)」p.1

A型事業所は助成金目当て?不正受給や障害者虐待の懸念

実のところ、A型事業所については「助成金目当ての開設が行われている」という指摘もあります。

財務省の資料では、2018年6月22日の読売新聞の記事が紹介されていました。直近の報道記事では、2024年にもA型事業所を運営する複数の株式会社が指定取消処分を受けていることが分かります。

最近報道されたA型事業所の実態を見ると、例えば、事業所の利用者に対して障害福祉サービスを提供していないにもかかわらず市町村に「提供した」と偽って給付費を不正に請求したり、支援スタッフを配置したと偽って報酬を不正に請求したりしていました。利用者に対して賃金の一部を支払わない「経済的虐待」を行って指定取消処分を受けたA型事業所もあります。

A型事業所の開設にあたって注目される代表的な助成金は、特定求職者雇用開発助成金の「特定就職困難者コース」や「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」など。特定就職困難者コースでは、対象労働者1人あたり1年間で最大240万円が支給されます。財務省は、こうした助成金を目当てとする事業所開設が不正受給の要因と見ているようです。

なお、A型事業所の場合は、民間企業に対する要件に加えて2種類の確認日があり、その確認日に要件を満たす利用者の離職率が25%以内であれば受給可能です。市区町村から事業所へ支給される自立支援給付費と併せれば、事業所にとって安定した収入源になるでしょう。こうした助成金等の受給は事業の安定性の評価につながり、金融機関からの融資も受けやすいといいます。

本来なら一般就労への移行支援を役割とする就労継続支援が、事業者にとって「公費から収入を得る手段」として扱われ、不正受給やA型事業所の役割軽視が生じているというのが現状のようです。

次の報酬改定に向けた改革は、サービス選択と支給の適正化

これらの状況から、財務省は「A型の趣旨を踏まえた適切なサービス選択がなされていない可能性がある」として、経営実態調査においてA型事業所が活用する助成金等を勘案するという方向性を示しました。

具体的には、

  • 一般就労への移行を現状よりも一層重視する報酬体系とすること
  • 就労選択支援サービス(2025年10月施行)の適切な利用を促すこと
  • 経営実態調査において助成金等が適切に取り扱われているかを勘案するため、記載要領に明示すること

などをあげています。

A型事業所については、2024年4月の報酬改定で多数の事業所が閉鎖されたというニュースが記憶に新しいところです。これに対して利用者の立場から不安視する声が聞かれる一方で、適切な運営がなされていない事業所が閉鎖していると指摘する声もあります。

障害福祉サービス等に関する費用は増大を続けています。サービスを必要としている障害者に適切なサービスを提供することは、社会福祉における重要課題。持続可能な制度とするためにも、年間20億円にのぼる不正受給という大きなロスをなくさなければなりません。

(関連コラム)

【参考】
(資料)社会保障(2024年11月13日)|財務省
荒尾市の障害者施設 虚偽の請求で2200万円余を不正に受給|NHK
障害者に賃金不払い「経済的虐待」事業者の指定を取り消し 札幌市|朝日新聞DIGITAL
不正請求で給付金2億円超 指定障害福祉サービス事業所に行政処分 愛媛県東温市|あいテレビ

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