障害者雇用の新モデル「M.I.Eモデル」とは?


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障害をもつ方の就労には、企業による直接雇用だけでなく、請負として在宅ワークを行う、就労支援事業所内で働く、支援事業所を利用しながら企業の中で働くといった方法があります。特に、就労支援事業所の利用者が企業の中で働くことは「施設外就労」と呼ばれており、三重県では積極的に施設外就労に取り組む「M.I.Eモデル」の実証実験が行われました。

施設外就労「M.I.E(みえ)モデル」とは

障害者就労支援を行う事業所では、障害をもつ方が企業等で働けるよう多様な支援を行っています。その中で、主な取り組みの1つとして挙げられるのが職業訓練や作業・就労の実施です。

多くの作業・就労は施設内で行われますが、企業内で行われるものもあります。企業内で行われるものは「施設外就労」と呼ばれています。

三重県で実証実験が行われた「M.I.Eモデル」は、そうした施設外就労を障害者雇用につなげる新モデルとして提案されました。日本財団の助成事業として、令和元年度・令和2年度の2年間に社会福祉法人維雅幸育会と三重県が実証実験を行い、一定の効果を得ています。

実証実験としてM.I.Eモデルが実施されたのは、三重県の伊賀地域。維雅幸育会は以前から施設外就労に力を入れてきましたが、この実証実験では地元に事業所をもつ5つの大企業と連携しました。

<M.I.Eモデルへの参加企業>

  • ミルボン株式会社(ゆめが丘工場)・・・業務用ヘアケア用品製造
  • サラヤ株式会社(伊賀工場)・・・消毒剤、医薬品等製造
  • ロート製薬
  • チョーヤ梅酒株式会社
  • 中外医薬生産株式会社

今回の実証実験は、コロナ禍と重なり検証や活動に制限のあるものでした。しかし、そうした制限下でも障害をもつ方々の多様な働き方や、豊かな生活を実現するための効果やメリットが確認されています。

<M.I.Eモデルで確認された効果(一部)>

  • 就労支援事業所に所属する障害者の工賃アップ
    三重県内平均である月額1万4915円の約4倍にあたる、平均工賃月額6万1243円を達成
  • 企業での一般就労へのスムーズな移行・定着
    作業中も服薬・食事・排泄等の生活面の支援が可能なため、これまで企業では働けないと考えられていた障害者も働ける
    施設外就労を行った障害者のうち7人が直接雇用、離職者はゼロ
    定年退職後のフォローアップまでつながる取り組み

今後は三重県内の企業や就労支援事業所に向けて拡大予定とのこと。同時に、施設外就労を障害者雇用率に組み込む「インクルーシブ就労率」も提案しています。

M.I.Eモデルの仕組みとメリット

では、M.I.Eモデルは他の施設外就労とどのような点で異なるのでしょうか。その仕組みとメリットを見ていきましょう。

M.I.Eモデルの仕組みと企業・就労支援事業所の役割

M.I.Eモデルの仕組みは、次の3点に特徴があります。

<M.I.Eモデルの特徴>

  • 障害者と支援スタッフによるユニットを編成
    1. 施設利用者支援と生産活動両立のため、施設外就労の事業収入からパート職員を雇用
    2. 利用者3人に対して1人の支援スタッフを配置
  • 企業内の生産ラインの一部を請け負う
    1. 企業とは雇用契約ではなく、請負契約を結ぶ
    2. 支援スタッフが仕事を習得し、工程分解
    3. 企業の生産ラインの一部を施設利用者と支援スタッフが担う
  • 地域内ネットワークの活用
    1. 企業の社員と就労支援事業所の職員が交流
    2. 複数の就労支援事業所が連携して取り組む施設外就労(事業所協働型モデル)も実施
    3. 内部労働市場の展開

こうした特徴をもった上で、企業と就労支援事業所が協力・分担する形となっているのです。

具体的な取り組み内容は、以下のようなものです。

<企業側の取り組み>

  • ユニットの支援員に対し、製造ラインの仕事の習得をサポートする
  • 支援員とともに、自社製品の製造ラインのうち施設外就労に適した工程分解を行う
  • 就労に見合った請負金額を就労支援事業所に支払う

<就労支援事業所側の取り組み>

  • 施設外就労に従事する障害者と企業の製造ラインに精通した支援員をユニットに配置
  • 就労支援事業所から企業へユニットを送迎
  • 企業内で支援・介助等を実施

M.I.Eモデルの活用によるメリット

M.I.Eモデルを使って実際に施設外就労を行った結果、障害者雇用や就労に関して、企業、障害者、就労支援事業所それぞれにメリットがあることが分かりました。

<M.I.Eモデル活用のメリット>

  • 企業にとって
    1. 障害者雇用に対する従業員の理解促進
    2. 直接雇用のシミュレーションができる
    3. 障害者を受け入れるノウハウが蓄積される
    4. 職場環境・生産性向上につながる
  • 障害者にとって
    1. 企業内での成功体験により、企業で働きたいという動機づけになる
    2. 工賃アップによって生活の質が向上する
    3. 実際の業務を通じて、それぞれの適性や能力を発見できる
  • 就労支援事業所にとって
    1. 設備投資・材料費をかけずに人件費のみで安定した就労支援と売上向上につなげられる
    2. 自主製品よりも安定して仕事を確保できる
    3. 企業と連携した個別支援計画を作成できる

施設外就労を活用した障害者の就労は、受入企業や働く障害者にとって「できるんだ」という自信につながるとともに、就労支援事業所にとってはこれまでよりも安定した仕事の確保、事業収入向上につながっています。

障害者雇用の促進に関する現状の課題

維雅幸育会と三重県が実証実験を進めるにあたって、三重県は障害者雇用に関する現状の課題を検討し、国に対する要望を提出しています。課題として挙げられたのは、雇用率制度、在宅就業障害者支援制度、「良質な施設外就労」、自治体の取り組みに対する支援に関するものなどです。

雇用率制度に関する課題

障害者雇用率制度に関しては、「雇用する以外の方法で就労の場を提供することに関して、雇用率に算入できない」という問題を挙げています。

現在、直接雇用以外にも施設外就労の受入により企業で障害者が働く機会が広がっているにもかかわらず、直接雇用以外の就労機会の提供では障害者実雇用率を上げられないという問題です。

障害の有無にかかわらず、日本では多様な働き方に向けて大きく動いています。障害者についても、直接雇用以外の働き方という選択肢が広がることで企業・障害者ともに多様なニーズに応じた選択肢が広がるはず。障害者の実雇用率でも、そうした多様な働き方を考慮した制度にする必要があるのです。

在宅就業支援制度に関する課題

障害者の在宅就業(在宅ワーク)については、企業による支援を促進するために国は2006年に「在宅就業障害者支援制度」を創設しました。しかし、三重県は「活用があまり進んでいない」と述べています。

在宅就業障害者特例調整金が支給されるのは、在宅就業社への直接発注、在宅就業支援団体を介した発注を行った、常用労働者100人超の企業が対象。常用労働者100人以下の企業については在宅就業障害者特例報奨金が支給されるものの、特例調整金(調整額2万1000円)よりも少ない金額(報奨額1万7000円)です。

日本には常用労働者100人以下の企業が多く存在すること、そうした企業での障害者実雇用率が課題となっていることを考えれば、常用労働者100人以下の企業に対してより大きなインセンティブが必要というのが三重県の見方です。

「良質な施設外就労」に関する課題

2019年8月に三重県障がい福祉課によって行われた調査では、三重県内の就労支援事業所(調査対象349事業所、回答数131件)で施設外就労に取り組む事業所は全体の約2割にとどまりました。

施設外就労を拡大するにあたって必要な支援を尋ねたところ、最も多かったのは「受入可能企業等の情報の提供」(72.6%)。他に、「企業等とのマッチング機会の提供」「基本報酬や施設外就労加算額の引き上げ」も回答した半数以上の事業所が必要であると答えました。

施設外就労を拡大するには、まず受入企業と就労支援事業所が出会える場が少ないことがネックになっているようです。

自治体の取り組みに関する課題

施設外就労の受入企業と福祉事業所をマッチングしたり連携をスムーズにしたりするには、自治体が大きな役割を果たします。

しかし、そうした事業にはノウハウの共有・蓄積、セミナーや交流会の企画・開催、相談窓口の設置など、時間とコストがかかるのが難点。自治体のリソースや財政に直結する問題から、施設外就労の拡大を図るにしても、なかなか進めにくいのが現状です。

実証実験をもとにした「インクルーシブな就労の拡大」

以上のような課題に対して、三重県は国に対していくつかの提言を行いました。

雇用率制度に関する提言

障害者雇用率制度に関する提言では、企業や就労を希望する障害者の実情、先進的な取り組みを行っている企業に関する調査を行い、障害者雇用促進制度の在り方について見直しを進めることとしています。

特に多様な人材が活躍できる仕組みや制度の在り方についての調査・検討を厚生労働省および経済産業省に求めています。

具体的には、

  • 障害者が活躍できる雇用の在り方
  • 障害者が活躍するために必要な支援
  • 障害者の活躍による企業経営上の効果
  • 生活保護など社会保障費に及ぼす影響
  • 工賃の向上によって生活保護受給が不要になる場合の社会保障費への影響
  • 税制上の優遇の可能性
  • 機関投資家によるESG投資の評価要素に障害者雇用の視点を盛り込むこと

といった点です。

その上で、障害者の実雇用率には企業等の直接雇用に限定せず「インクルーシブな就労」を雇用率制度の中に位置づけることを要望しました(後述)。

在宅就業支援制度に関する提言

在宅就業支援制度に関しては、制度の周知に努めるとともに、施設外就労「M.I.Eモデル」の取り組みを参考にした制度の拡充を行うことを求めています。具体的には、現行の在宅就業支援制度について、施設外就労の受入に繋がるよう拡充すべきというものです。

同時に、インセンティブとして大きな役割を果たす特例調整金について、障害者雇用につながっている事例などへの調整金の増額、本来調整金の対象となっていない障害者雇用ゼロ企業も対象とすることなどを盛り込みました。

「良質な施設外就労」と自治体の取り組みに関する提言

「良質な施設外就労」を拡充するために三重県が提言したのは、地域における取り組みのモデル事業化、事業所における人材育成・配置につながる制度の拡充、「インクルーシブ就労率」の導入、施設外就労の受入企業に対する特例調整金の上乗せなどです。

地域における取り組みのモデル事業化では、企業等と福祉事業所とのマッチングの仕組みを進める自治体の取り組みをモデル事業化し、必要な経費を補助する制度を創設することを求めています。必要な経費とは、セミナーや情報交流会の開催費用、マニュアル等作成費用、アドバイザー派遣費用・旅費などです。

事業所における人材育成・配置に関しては、特に施設外就労の支援を専門に行う人材の育成・配置を重視。同時に、施設外就労を受け入れる企業への特例調整金を上乗せする等、在宅就業障害者支援制度の見直しも求めました。これにより施設外就労を働き方の選択肢として推進する狙いです。

「インクルーシブ就労率」とは、企業の施設外就労を通じた仕事の提供や直接雇用への移行を評価する仕組み。M.I.Eモデルの実証実験を踏まえた提言です。

直接雇用に加えて施設外就労なども含む障害者の多様な働き方を評価する新しい指標として、施設外就労発注額を直接雇用障害者給与に換算し、障害者雇用に相当する人数を算出するといった方法を提案しています。

障害をもつ方の多様な働き方

「多様な働き方」が進められている現在、障害をもつ方々にも障害特性や環境に合った多様な働き方の選択肢が求められています。

現在、一般企業・特例子会社などでは正社員、契約社員、パート・アルバイトなどの形で働く障害者がいます。企業と雇用契約を結ばず業務を請け負う形で働くなら、在宅就業支援団体やクラウドソーシングサービスを利用したりフリーランスとして直接受注したりする「在宅ワーク」もあるでしょう。

支援スタッフからサポートを受けながら作業所で働く形なら、福祉事業所での作業や今回ご紹介したような施設外就労などもあります。

特性を考慮した上でさまざまな職種を検討するとともに、「どこで・どうやって・どのくらい」働くのかなど、それぞれに合った働き方、キャリア形成の仕方などを企業・障害者・就労支援事業所・自治体・国などが連携して探っていくことが、より一層重要になるでしょう。

【参考】
M.I.Eモデル|社会福祉法人維雅幸育会
施設外就労「M.I.E(みえ)モデル」を通じた障がい者の活躍と企業の人材確保セミナーを開催します|三重県
障害者雇用納付金制度の概要|JEED

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