高次脳機能障害とは? 症状・障害特性のパターンとリハビリテーション


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高次脳機能障害は、けがや病気による脳損傷が原因で生じます。障害の内容や程度は多岐にわたり、高次脳機能障害であるという認識をもたずに長い時間が経過していたというケースも珍しくありません。高次脳機能障害とはどのような障害なのか、厚生労働省による診断基準やリハビリテーションの概要をお伝えします。

高次脳機能障害はいつ診断される? 厚生労働省による診断基準

高次脳機能障害は、けがや病気による脳損傷の後遺症として現れる認知障害を指します。外見だけでは判断しづらいことから「見えにくい・わかりにくい障害」と言われます。

厚生労働省は、高次脳機能障害の診断基準を以下のように規定しています。

<高次脳機能障害の診断基準>(2004年)

項目 基準

主要症状等

脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。

現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。

検査所見

MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。

除外項目

脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状を欠く者は除外する。

診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。

先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。

診断

 I〜IIIをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。

高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。

神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。

出典:高次脳機能障害を理解する|高次脳機能障害情報・支援センター

ただ、スムーズに診断できるケースばかりではなく、診断が困難な場合があるのも事実です。その背景には、

  • 診断できる医師が不足している
  • 医療職、行政・福祉職、支援機関の高次脳機能障害の知識が不足している
  • ご本人やご家族が高次脳機能障害であると認識していない
  • 他の障害が重度であり、高次脳機能障害の診断を受けなかった
  • 検査をしても画像所見がない
  • そもそも受診・検査が困難(本人が拒否している、暴言・粗暴行為がある、ご家族が必要性を理解していない等)

などの事情があると、国立障害者リハビリテーションセンターの調査研究で報告されています。

同センターの高次脳機能障害情報・支援センター公式サイトには、高次脳機能障害について相談窓口をもつ支援拠点機関の一覧が掲載されています。次項でご紹介する症状や脳の損傷後、生活や仕事で何らかの困りごとが生じている場合は、一度相談してみるとよいでしょう。

高次脳機能障害の主な症状・障害特性

では、具体的にどのようなけがや病気が原因で高次脳機能障害になるのでしょうか。一例ではありますが、たとえば以下のような原因が見られます。

<高次脳機能障害の原因>

分類 具体例
外傷性脳損傷 交通事故、転倒、転落などによる直接的な脳の損傷

硬膜の外に血がたまって脳が圧迫されたことによる損傷

脳血管障害 脳梗塞、脳出血、くも膜下出血
その他 心肺停止状態が続いたことによる低酸素脳症、脳腫瘍など

高次脳機能障害となってどのような症状・障害が現れるかは、先述のとおり個人差が大きいものです。ただ、大きな分類として記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害、失語症などが知られています。

<高次脳機能障害の症状(例)>

分類 症状などの例
記憶障害 見たこと・聞いたことをすぐに忘れる
忘れたことの自覚がない
昨日までできていても今日はできない
過去の記憶の順番に混乱が生じやすい
注意障害 1つのことに集中できない
2つ以上のことを同時に行うと混乱する
別の行動に適切に切り替えられない
遂行機能障害 計画が立てられない
課題や作業を適切な方法で続けられない
課題や作業をやっても仕上がりに無頓着
社会的行動障害 子どもっぽくなる

周囲に依存的になる

怒りっぽくなる、突然泣き出すなど感情のコントロールが難しい

周囲への反応が乏しい場合もある

失語症 話そうとしても言葉が出てこない

相手の言っている言葉が分からない

文章が読めない

文字が書けない

他に、ご本人の左側にあるものだけ(または右側にあるものだけ)気づきにくくなる「半側空間無視」が現れることもあります。

こうした症状が複数組み合わされて現れるため、障害から生じる課題をどのように解消または軽減するかも、それぞれの人で異なります。適切なリハビリや支援につなげるには、実際に現れている症状・障害の内容を丁寧に確認していくことが不可欠です。

高次脳機能障害が原因となる生活や仕事での困りごとの具体例は、障害者職業総合センター(NIVR)が公開している「高次脳機能障害 特性チェックシート」や「対処策リスト255」が分かりやすいでしょう。以下のリンクにあるWEBページの「資料集」に掲載されていますので、ぜひご覧ください。

病院で行う医学的リハビリテーションとその他の訓練プログラム

高次脳機能障害をもつ方を対象とする訓練プログラムには、大きく分けて3つのプログラムがあります。医学的リハビリテーション、生活訓練プログラム、職能訓練プログラムです。

<高次脳機能障害をもつ方の訓練プログラム>

医学的リハビリテーション 医師の指示によって行われる

多くの場合、病院または身体障害者厚生施設で訓練を受ける

実施期間は最大6カ月

生活訓練プログラム 生活指導員が中心となって行われる(医師と連携)

社会的リハビリテーション施設での実施が多い

職能訓練プログラム 職能指導員が中心となって行われる(医師と連携)

障害者支援機関等などで実施

ご本人が障害について適切に理解し、就労への意思を明確に示しているとともに、必要な基礎的認知訓練がほぼ終了している段階で始めることが望ましい

まず、医学的リハビリテーションの訓練内容については、ご本人の症状の程度や目標によって異なります。記憶障害があれば記憶方法の工夫を行いながら、記憶力を高めたりメモの取り方を練習したりします。注意障害があるようなら、まずは刺激の少ない状況から練習を始めて少しずつ刺激を増やしながら作業する練習を行うでしょう。具体的にどのような道具や方法で訓練するかは、担当者と確認しながら進めていきます。

生活訓練プログラムは、基本的な生活リズムを確立したり、日課に沿って自分で行動できるようにするための訓練です。ご本人の将来の目標にあわせて、買い物や屋外での移動といった外出訓練や生活体験を通した社会生活技能を向上させるとともに、他者とのコミュニケーション力、障害の自己認識等を深めたり、必要な支援を検討したりするといったことも行います。

続く職能訓練プログラムは「職業リハビリテーション」とも言われ、就職や復職を目指す方を対象に行われます。高次脳機能障害をもつ方の復職に関しては、以下の関連記事で詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。

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リハビリで機能の向上や代替手段の発見・習得へ

今までできていたことが急にできなくなると、ご本人もご家族の方も大きな戸惑いを覚えるでしょう。各リハビリテーションでは、低下した機能を向上させたり、その機能を道具や別のやり方で補う方法を見つけたりしながら、新しい生活の仕方を身につけていきます。

現在残っている能力をしっかり生かし、新しいやり方を習得することが、安定した生活にはとても大切です。さまざまな場面でストレスや衝突があるかもしれませんが、じっくり一歩ずつ進んでいきましょう。

【参考】
高次脳機能障害情報・支援センター
支援・診療のための資料「高次脳機能障害者支援の手引き(改訂第2版)」|高次脳機能障害・支援センター
JEED『障害者雇用マニュアル6(コミック版) 高次脳機能障害者と働く』

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