2023/01/05
【高次脳機能障害】支援者のための復職支援の流れと資料作成のポイント
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高次脳機能障害者の復職支援では、障害特性や配慮が必要な事項について適切に把握し、復職先にきちんと伝える必要があります。障害者職業総合センター(NIVR)職業センターの高次脳機能障害者向け復職プログラムをもとに、職業リハビリテーションの流れや事業所との情報共有で用いる資料作成のポイントを見ていきましょう。
高次脳機能障害者の休職と復職までの流れ
最初に高次脳機能障害をもつ方(以下、支援対象者)が職業リハビリテーション(以下、職リハ)を始めるところから本格的な職場復帰へ至るまでの大まかな流れを見ていきましょう。下図をご覧ください。
職業リハは、支援対象者のけがや病気が回復し、医学的リハビリテーションを経て在宅生活ができるようになってから始めます。生活リズムの安定性や基本的な日常動作(食事・移動・トイレなど)がどのくらいできるかには個人差があり、職リハでも支援やトレーニングが必要かもしれません。
復職に向けたプログラムでは、支援対象者が抱える課題の明確化、トレーニングの実施、対処策の工夫などを中心に行います。支援対象者が在籍する事業所に対しても、障害特性や必要な配慮事項の共有、職域の検討に使える情報(ガイドブック、マニュアル、事例など)の共有が必要です。
復職時期が近づいたら、復職プログラムで取り組んできた内容とその成果、復職後にできそうな職域、課題に対して支援対象者自身ができる対処策、事業所でサポートが必要なことなどをまとめます。その上で、支援対象者・事業所と連絡会議を行い、配属先・担当業務・労働条件・復帰後の支援などの調整を行いましょう。必要に応じて、支援者が配属予定部署のメンバー等に障害特性や指示の出し方などを理解してもらう研修を行うケースもあります。
さらに、復職前に「リハビリ出勤」を行う事業所もあります。本格復帰に向けて時短で取り組みやすい業務から始め、体を慣らすための期間です。リハビリ出勤期間終了後は支援対象者や産業医などの意見をもとに、復帰時期や職域等の最終調整を行います。
本格的に職場復帰したあとも、支援対象者が安心して働き続けられるよう、継続的な支援が求められます。
支援対象者と事業所への支援ポイント
復職プログラムでの取り組みについて、より詳しく見ていきましょう。今回は、NIVRの職業センターが実施している高次脳機能障害者向けの復職プログラムに基づいて、流れをご紹介します。
高次脳機能障害をもつご本人への支援
高次脳機能障害をもつご本人に対しては、主に次の5つの項目について支援を行います。
- 障害特性を整理し、職業生活上の課題について理解を深める
- 生活リズムを整える・健康管理を行う・通勤の練習を行う
- 課題への対処策の習得を図る
- 復職後の職務に必要な作業遂行力の向上を図る
- 職場に依頼する配慮事項を整理する
障害特性の整理や課題の理解では、主治医の見解や特性チェックシートの結果などをもとに、復職に向けた支援課題をにして支援計画を立てましょう。これらを支援対象者と一緒に行うことで、対象者自身の自己理解も深めていきます。
生活リズムの安定化・健康管理・通勤練習では、復職準備性の向上に取り組みます。具体的には、
- 職業生活に合った睡眠覚醒リズムを整える
- 決まった出勤日・時間に継続して就労できるようにする
- 作業による疲労を翌日に持ち越さないような対処策を習得する
- 通勤時間帯にひとりで安全に通勤できるよう練習する
などです。これらは、復職プログラムに入る前に、医療機関でのリハビリテーション、就労支援事業所、地域障害者職業センターにおける職業前訓練の中で取り組むことも可能です。
課題への対処策を習得していく際は、低下した機能を補うための道具の使い方や日課、作業手順などを習得するとともに、注意を向けたり思い出したりしやすくするための環境整備をサポートします。具体的な対処策の一部をNIVRが「対処策リスト 255」をまとめていますので、ぜひ参考にしてください。「対処策リスト 255」に記載されたもの以外にも有効な方法が考えられますので、支援対象者に合ったやり方を見つけられるよう支援していきましょう。
復職後の仕事内容や能率に直結する作業遂行力の向上は、模擬的な就労場面などで取り組みます。作業遂行能力とは、注意力や集中力、作業耐性、作業能力などです。事業主にとって、どういった作業でどのくらい作業遂行能力が向上したかは配属先と業務を検討する重要な情報ですので、支援対象者と一緒に具体的なデータを記録しましょう。
職場に依頼する配慮事項の整理は、復職にあたって事業所に希望する配慮をまとめ、支援対象者と事業所を交えて検討するために行います。主に検討すべき配慮事項の項目には、次の4つがあります。
- 職務内容・配属先の変更
- 職場の環境整備
- 職務の負荷の調整
- 指示の出し方
必要な配慮内容を事業所に具体的に提示し、対応可能の可否や対応が難しい場合の代替手段などについて話し合いましょう。
復職先となる事業所への支援
事業所への支援では、対象支援者に関する情報共有、障害理解・合理的配慮などに役立つ情報提供、復帰にあたって重要な項目の検討・調整などを行います。具体的には以下の3項目です。
- 障害特性・就労上配慮が必要なことを確認する
- 復職後の職務・配置・労働条件の検討を行う
- 復職を想定している部署に障害特性や必要な配慮の説明を行う
障害特性・必要な就労上配慮の確認では、事業所が障害特性や配慮事項とそれらの職務遂行への影響について確認できるように、次の3点を意識しながら情報共有を進めましょう。
- 一般的な高次脳機能障害の障害特性について情報提供を行う
- 高次脳機能障害者の職場復帰支援のポイントなどの情報提供を行う
- アセスメント結果をふまえて、支援対象者とともに個別の特性やどのような配慮が必要かを具体的に伝える
職務・配置・労働条件の検討では、事業所が復職後の業務体制や安全配慮、労働条件などを考慮しつつ職務や配置を検討しやすいよう、支援対象者の状況をふまえて情報の提供を行います。復職に向けた事業所のスケジュールや手続き考慮しつつ支援を進めましょう。事業所に提供する情報には、主に以下のものがあります。
- 高次脳機能障害者が対応しやすい職務内容
- 合理的配慮の考え方と具体例
- 支援対象者の状況に合うと考えられる職務内容・配置・労働条件など
これらの情報をもとに、事業所とより具体的な業務内容、配置する部署、勤務時間、休憩時間などを調整してください。
高次脳機能障害者が復職後に安定して働き続けるには、職場の環境整備や現場の支援が欠かせません。したがって、復職時期や配属予定の部署が決まったら、支援対象者が仕事で関わるであろう従業員に対し、障害者本人のプライバシーに配慮しつつ障害特性や必要な配慮を説明する必要があります。
こうした従業員等への説明に関して支援者が行うことには、以下の4項目が考えられます。事業所だけでは対応が難しい場合や事業所からの求めに応じて、必要な支援を行いましょう。
- 職場のメンバーにとって理解しやすい高次脳機能障害に関する資料を提供する
- 支援対象者と一緒に作成したレポートをもとに、配属予定の部署などで説明会を実施する
- 社員研修を実施したり、提案したりする
- 復職後の支援として、ジョブコーチ支援の利用などを提案する
なお、職場の上司や同僚への情報提供にあたっては、説明する内容や対象について、あらかじめ支援対象者から同意を得てください。
復職前の連絡会議に必要な資料と作成ポイント
NIVRは支援で活用できるシートやフォーマットを複数提供しています。その中から今回は特に、初期のアセスメントや復職前の事業所との連絡会議で利用できる5つのツールをご紹介しましょう。
高次脳機能障害 特性チェックシート
1つめのツールは、「高次脳機能障害 特性チェックシート」です。NIVRが2022年3月に発行した『実践報告書No.40 高次脳機能障害者の復職におけるアセスメント』(以下、『実践報告書No.40』)の巻末資料に収録されています。
特性チェックシートは、支援対象者の障害特性を整理し、自己理解を深める相談ツールや事業所への説明資料として活用できます。先述した「対処策リスト 255」もあわせて使えば、具体的な対処策や環境整備のヒントになるでしょう。
特性チェックシートの特徴は、職業生活の場面において主な症状別に障害特性がどのように現れるかを具体的な質問として記述されていることです。基本的には、全ての質問に回答してもらいます。もし負担が大きいようであれば、複数回に分けて実施したり、相談の中で聞き取って支援者が記入したりしても構いません。必要に応じて、支援対象者のご家族や支援機関に回答を依頼することもできます。その際は、特性チェックシートを用いる目的や留意事項を十分に説明し、支援対象者の同意を得てください。
回答後は、その内容をチェックしながら、以下のポイントを意識しつつ詳しく確認しましょう。
- 回答結果を用いた相談と対象者が診断を受けている主な症状が一致する場合
… その項目について、具体的なエピソードをより詳しくヒアリングする - 「あてはまらない」と回答している項目について
… 行動レベルで現れている課題がないか、課題をどう捉えているのかを詳しく確認する
アセスメントシート
2つめのツールは、「高次脳機能障害者の職場復帰支援 アセスメントシート」です。『実践報告書No.40』に資料③として収録されています。
アセスメントシートは、高次脳機能障害者の職場復帰支援に関わる多様な情報を収集・整理するためのツールで、ストレス・疲労に関するサインや対処方法の検討に活用します。
アセスメントシートには次の6種類のシートがあり、シートごとに関連する情報を整理できることが大きな特徴です。
<アセスメントシートの構成と内容>
シート名 | 内容 |
フェイスシート | 氏名・住所・生年月日・家族構成・学歴などの基本情報 |
シートA | 生活習慣・健康状態に関する情報 |
シートB | ストレス・疲労が生じる状況や対処方法に関する情報 |
シートC | 日頃の相談相手や利用している支援機関・制度、家族の障害理解、経済状況など、サポートに関する情報 |
シートD | 身体的制限、精神疾患、検査結果、服薬状況などの障害(病気)に関する情報 |
シートE | 事業所の名称や所在地、本人がこれまで従事していた職務、復職手続き、復職に対する希望や事業所の考え方などの事業所情報 |
アセスメントシートは複数枚にわたるシートですので、情報収集・整理にも時間がかかるでしょう。しかし、復職支援で必要な情報を網羅的に把握できるとともに、支援対象者や家族、事業所の認識も確認できます。不足している情報が空欄として目に見えますので、たとえばアセスメントシートのシートCで、相談できる支援者や支援機関を記入できない場合は、サポート体制の確立が支援課題であることがわかります。
リファレンスシート
「リファレンスシート」は、復職に向けて障害特性・対処策・事業所に求める配慮などをまとめるためのツールです。復職1カ月前に実施する連絡会議の資料として、事業所や関係機関との調整に使えます。
リファレンスシートは、支援対象者と支援者が話し合いながら作成します。特性チェックシートから行動レベルで「はい」「ときどき」と回答した項目を書き出し、ひとつずつ対処手段や必要な配慮を検討しましょう。あわせて、どれを事業所に伝えるかも相談しながら決めていきます。対処策の検討にあたっては必要に応じて「対処策リスト 255」も参考にしてください。
リファレンスシートの作成時期は復職プログラムから復職前の連絡会議前まで何回かあります。支援対象者のスキルが向上したり新しい対処策が見つかったりなど、状況の変化に合わせて内容をアップデート。その最終版を連絡会議で使用することになります。
連絡会議資料
職業センターの復職プログラム終了の約1カ月前に実施には連絡会議が行われますが、そこでは支援者が作成する報告資料(後述)だけでなく、支援対象者が自らが作成しプレゼンする「連絡会議資料」も重要な検討材料になります。
連絡会議資料を作成する目的は、プログラム実施状況・障害特性・対処策・必要な配慮等を事業所と共有すること。ご本人が作成しプレゼンすることで、自己理解の度合いを確認したり、職場にどのような配慮を求めるかをご本人が伝えたりすることができます。
連絡会議資料は、必要な情報が記載されていればフォーマットの厳密性は問われません。作成に使うアプリケーションも、PowerPointやWordなど、使いやすいもので大丈夫です。どのような形式、内容で作成するか分かりやすいよう、支援者側で事前に連絡会議資料の見本を3種類ほど用意して、対象者に説明を行いましょう。
作成には、準備からプレゼンの練習までいくつかの工程があります。資料作成の段階では、レファレンスシートで記載した内容をもとに項目や記載内容を検討しますので、あらかじめレファレンスシートを記入・アップデートしておきいてください。
連絡会議資料に記載する項目と作成手順は、以下のようになっています。
<連絡会議資料に記載する項目>
構成・見出し | 記載内容 |
表紙 | 「連絡会議資料」、会議実施日、氏名 |
受障の経過 | 受障の日付、受障の状況、退院日、その後の経過 |
プログラム受講までの経過 | 診断の日付、支援機関名や最初の相談日、受講に至る流れ |
障害の概要 | 大分類ごとに、障害の状況を具体的に記載 |
復職プログラムにおける作業の概要 | どのような作業に取り組み、どのような成果や課題があるか |
補完方法: 対策、工夫したこと | 取り組んだ作業で課題となったことに対して、どのような対策が効果があったか |
その他の工夫・改善点 | 時間管理、作業環境、健康管理、ストレスマネジメントの具体的な方法など |
復職に際してお願いしたいこと | コミュニケーション上の留意点、指示・指導の仕方、休憩の取り方、職場環境の調整など |
復職に臨んで | 事業所へのメッセージや意気込みなど |
<連絡会議資料の作成手順>
- 連絡会議の約1カ月前に、支援対象者に連絡会議の目的を説明する
- 支援対象者に連絡会議資料の見本を3種類提示する
- 見本にある記載項目を参考にしながら、支援対象者にとって作成しやすい形式で作成することを伝える
- 見本を参考にしながら、対象者がレファレンスシートの内容をもとに作成をする(必要に応じて作成をサポートする)
- 支援対象者が伝えたい内容が適切に伝わる表現になっているか、他に記載するほうがよい内容はないかなどを確認しながら、作成を進める
- 連絡会議資料がひととおり完成したら、支援対象者からの希望に応じてプレゼン練習を実施する
- プレゼン練習を行った場合、プログラムの他の受講者や支援スタッフから、プレゼンの「良かったところ」「改善するとよい点」をあげてもらう
- フィードバックをもとに、会議資料を修正する
資料には個人情報が含まれますので、プレゼン練習はご本人からの実施希望がない場合は実施しません。実施する場合は、動画を撮影して見返してもらう、時間を計測してフィードバックするなども含めて支援するとよいでしょう。プレゼン練習に参加した人に配付した資料は練習後に全て回収しましょう。
『実践報告書No.40』には連絡会議資料び見本が掲載されています。
報告資料(支援者が作成)
連絡会議のために支援者が自ら作成するのは「報告資料」です。支援者から見た客観的な状況を事業所に伝えることを目的としており、リハビリ出勤や復職後の支援方針を話し合うための重要資料となります。資料内容は、事前に支援対象者、必要に応じてご家族にも提示し、内容・表現に関して同意を得ておきましょう。
報告資料に記載する主な項目は、以下の5つです。
<報告資料に記載する主な項目>
項目 | 記載内容 |
出席状況 | 実施期間の出席状況
欠席の理由など |
体調について | 生活リズム(睡眠時間など)
体調、気分の状況 集中力・作業耐性などの復帰プログラムの受講状況 通院・服薬の状況(通院先、通院頻度、自己管理の有無など) 復職に関する主治医からの意見など |
職場復帰支援プログラムの実施状況 | 復帰プログラムで実施した作業と結果のデータ
復職プログラムから把握される現状(症状の解説、課題と対処手段、今後の支援で取り組む内容など) |
復職にあたって必要な配慮など | 課題とご本人による対処方法、復職にあたって配慮が必要と思われること |
検討事項 | 復職後の勤務条件
復職までのスケジュール その他、検討が必要と思われる項目 |
『実践報告書No.40』に掲載されている報告資料の見本は2ページ程度の構成で、各項目を箇条書きで記載しています。プログラムで実施した検査結果については、検査の名称・概要、結果、所見をそれぞれ記載。作業実施状況については、作業名・レベルとあわせて正答率・同世代健常者平均・ご本人の結果、作業の仕方、能率、課題に対する対処策も示されています。
復職にあたって必要な配慮などの項目では、課題を具体的に示し、ご本人が自分でどのように対策しているか、職場ではどのようなサポートが必要か、今後習得を目指していること、望ましい具体的な職場環境や職務内容などを記載しましょう。
リハビリ出勤と復職後の支援
ここまで、復職に向けた準備と資料作成についてお伝えしてきました。最終的な調整が済めばいよいよ本格的な職場復帰となります。ここで、最後に復職までの流れの中で登場した「リハビリ出勤」についても、あらためてご紹介しましょう。
本格的な職場復帰の前にリハビリ出勤の期間を設けることには、次の5つのメリットがあります。
- 支援対象者が職場の仕事のリズムにご自身の体を慣らしていくことができる
- 職場の状況を実際に確認しながら復帰の準備ができる
- 配属される部署の上司や同僚が指示やコミュニケーションの仕方を確認できる
- 職務内容の細かい調整ができる
- ご本人に合った部署に配属しやすくなる
リハビリ出勤を始めるにあたり、仕事でご本人に関わる従業員を対象とする勉強会や研修を開催して高次脳機能障害の特性や配慮事項の説明などを行ったり、人事担当者と部署の上司を中心に雇用管理体制を整備したりすると、よりスムーズに進められるでしょう。
リハビリ出勤の実施期間には個人差がありますが、先述したように1カ月がひとつの目安となります。最初は焦ったりコミュニケーションがうまくいかなかったりと課題が発生する可能性がありますので、必要に応じて支援者が現場でサポート行ってください。
本格的に職場復帰したあとは、事業所がジョブコーチ支援を活用したり外部支援機関との連携を続けたりしながら、職場定着を図ることが重要です。連絡会議、リハビリ出勤、最終調整などの機会に、どのような支援をどうやって続けていくかを事業所の担当者と具体的に検討しておきましょう。
【参考】
NIVR『実践報告書No.40 高次脳機能障害者の復職におけるアセスメント』
JEED『障害者雇用マニュアル6(コミック版) 高次脳機能障害者と働く』
高次脳機能障害情報・支援センター