医療現場で活用されるBMI、LIFESCAPESが老健・自費リハ向けに低価格帯を開発中


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脳卒中患者のリハビリ向けに、脳の「可塑性」を引き出すBMIを開発している株式会社LIFESCAPES(以下、LIFESCAPES)。介護老人保健施設や自費リハビリテーション施設でもBMI活用のリハビリができるよう、低価格帯モデルを開発中です。

公益財団法人PwC財団(以下、PwC財団)の「助成事業2024年春期 人間拡張」に採択された同事業の特徴や強みについて、LIFESCAPES事業戦略部の廣瀬遼太郎さんに伺いました。


画像提供:株式会社LIFESCAPES

LIFESCAPESとは?BMI開発事業がPwC財団の助成事業に採択

LIFESCAPESは、2018年に設立されたBMIによるリハビリテーション機器の開発・製造・販売を手がける企業です。代表取締役は、神経科学・リハビリテーション医療などを研究する慶應義塾大学の牛場潤一教授。慶応義塾大学医学部との長年にわたる共同研究の成果を社会実装するために設立されました。

同社の事業の特徴は、BMIを活用して脳の「治る力」を引き出し、重度まひの治療につながる技術開発を行っている点です。

かつては病気やケガで脳が損傷すると「もう治らない」と考えられていました。しかし、現在は脳に「治る力」があることが明らかになっています。新たなネットワークを形成して機能を再構築する脳の性質は、脳の「可塑性」と呼ばれます。同社のBMI技術は、脳の可塑性を引き出し、重度麻痺の残る患者の効果的なリハビリテーションにつなげるもの。このリハビリで、製品を体から外した状態でも患者の意志で麻痺した手を再び動かせるようになることを目指します。

そうした研究により、2024年3月に認可を受けて6月に発売したのが、アプローチが難しい手指麻痺に使用できるリハビリテーション機器です。

今回、PwC財団の助成事業に採択されたのは、発売済みの製品をより使いやすく低価格に設定した製品を開発・実証する事業です。現在のものは高額である点が課題となっており、「使いたくても使える施設が少ない」という状況。これを解決すべく、老健や自費リハ施設でも使いやすいリハビリ用BMIの開発を目指します。

PwC財団による助成は、持続可能な社会の実現に向けて社会課題の解決に取り組む団体が対象です。その中で、「2024年春期 人間拡張」の助成事業では、BMIの活用により身体障害のある方や高齢者の身体機能の拡張、介護者の負担軽減を目指す活動を対象とし、1年間で1,000万円の助成を行います。

LIFESCAPESは、BMI活用による脳卒中患者の身体機能の回復、および介護者の負担軽減の実現につながる事業として評価され、採択されました。

LIFESCAPES開発BMIの想定ターゲットと特徴


LIFESCAPESが販売する現行モデル
画像提供:株式会社LIFESCAPES

LIFESCAPESのBMIの主な対象者は、運動まひがある脳卒中患者です。過去に慶應義塾大学で実施された臨床研究では発症から半年以上経っている慢性期の重度まひの方を対象とした検証も行っており、BMI活用によるリハビリの効果が認められました。

6月から発売している現行モデルは、保険適用の医療機器であり、次の3つの機器で構成されています。

  • 頭部に装着する生体信号を計測するヘッドセット
  • 取得した生体信号をワイヤレスで受信して解析するソフトウェア
  • 解析結果に応じてまひした手の動きをアシストする電動装具

高額でありながらも、発売から2カ月の時点で受注台数20台を突破しました。

このモデルを活用したリハビリの流れは、以下のようになっています。

【LIFESCAPES BMI(現行モデル)のリハビリの流れ】

患者 BMI
1 まひした手を開くイメージをする 手を開こうとする生体信号を取得する
2 取得した生体信号を解析する
3 意図した生体信号が検出されたタイミングで麻痺部に装着したロボットを駆動させる
4 手の動作がアシストされ、その確認のために電気刺激を前腕に与える

こうした動きのイメージから手へのフィードバックまでを繰り返すことで、製品を体から外した状態でも患者の意志で麻痺した手を再び動かせるようになることを目指します。

慶應義塾大学を中心に実施された臨床研究では、慢性期・重度まひの74%の患者の方で、筋肉の反応が改善したとのこと。1日40分の訓練を10日間実施した例では、重度まひから「物をつかんで離す」という動作をできるようになった方もいました。

ただ、現行モデルには、前述のように「高額である」という課題が残っています。現在導入している施設は、脳卒中発症から間もない方が入院する急性期病院や回復期リハビリテーション病院のみ。運動まひのリハビリはその後も必要ですが、退院後の患者がLIFESCAPESのBMIを使える施設は、まだ多くはありません。

こうした問題を解決すべく、LIFESCAPESは「構成要素を減らす」という形で価格を下げた製品の開発を進めています。

具体的には、

  • ヘッドホン型の脳波計
  • 脳波を受信・解析し、視覚的にフィードバックするタブレット

という2つで構成されるシステムです。

電動装具によるアシストがない状態での効果については、大学研究室と共同で研究を進めています。

ユーザーの負担と安全性

LIFESCAPESのBMIでは、患者の頭にヘッドホンを装着する形の脳波計を採用。現行モデルでも侵襲性は低く、身体面での安全性は高いものと考えられます。

さらに、低価格帯のモデルでは、現場でリハビリを行う療法士や患者の方々にとって使いやすいよう、高いユーザビリティにも注力しています。現在、老健や自費リハ施設でのBMI活用はなかなか見られません。こうした施設では、BMIの操作や脳波を参照しながらのリハビリを経験したことがある作業療法士・理学療法士の方も非常に少ないと考えられます。だからこそ、価格を下げるだけでなく、現場での使いやすさにもこだわるのです。

「使いやすさを向上させることで、普段脳波の計測を行っていない方々にとっての負担を軽減し、継続的な訓練につなげられれば」と廣瀬さんは語りました。

導入先施設の経済的負担(価格)については、検討中とのこと。それでも、老健や自費リハ施設にとって入手しやすい価格帯を目指しているとしています。

LIFESCAPESのBMI開発の背景と社会実装のインパクト


画像提供:株式会社LIFESCAPES

これまで、脳卒中によって生じた運動まひは、なかなか回復しないとされてきました。しかも、脳卒中を発症すれば、約半数の患者に何かしらの運動まひが残ると言われます。世界的に見ても「要介護」となる原因の第2位は脳卒中です。

軽度まひや中程度のまひであれば、効果的な治療法があるものの、重度まひについては有効な治療法がなかなか見つかっていません。利き手がまひしてしまった場合、医師から「利き手交換をしてください」と言われることもある状況です。

PwC財団は、LIFESCAPESによる低価格帯モデルの開発は、社会的インパクトが非常に大きく、医療だけでなく福祉の領域においても重要な取り組みであると評価しています。老健や自費リハを利用する、いわゆる「リハビリ難民」と呼ばれる方々がBMIを活用した治療を受けられる機会の拡大につながることが期待できるためです。ひいては、患者の方々の身体機能の回復・維持によるご本人のQOL改善、そして介護者の負担軽減にもつながるでしょう。

「6月に発売したBMIの医療機器は、発売前からご参加いただいた患者様、導入先でご使用いただいた患者様、医師の方々から、期待や効果実感の声を非常に多くいただいています。そうした声を受けて我々もとても嬉しく感じています。一方で、現時点では導入施設が限られ、まだまだBMIによる治療の認知度を上げていかないといけません。このような技術があること、可能性があることを患者様や医師・療法士の先生にぜひ知っていただき、『諦めていたことを諦めなくてよくなる」、そういった未来の当たり前を一緒につくっていきたいと思います」(LIFESCAPES 廣瀬さん)

片手を全く使えない状態だったとしても、BMIを用いたリハビリによって
「物を押さえられる」
「自分で服を着られる」
「両手でペットボトルのふたを開けられる」
「職場復帰ができる」
といった事例が出ています。

LIFESCAPESは、より多くの方の運動機能の回復・維持に貢献し、ご本人の自尊心の回復と介護者の負担軽減を実現していきたいとしています。

【取材協力】
株式会社LIFESCAPES
公益財団法人PwC財団

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