2020/07/08
マスクをつけられない人・病気とは? 中学生が意思表示カードを考案
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新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、マスクをつける人がこれまで以上に多くなりました。「マスクをつけるのが当たり前」と考えられるようになったためか、着用していないと突然怒られる、入店を断られるなどの事態も起きています。一方で、病気が原因でマスクをつけられない人がいることへの理解は、まだ十分に広まっていません。
マスクをつけられない人にはどのような事情があるのでしょうか。また、マスクをつけられないことを周囲の人に知ってもらうには、どうすればよいのでしょうか。
マスクをつけられない人、つけられない病気とは?
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、マスク着用を求められることが多くなった2020年。緊急事態宣言が出されている間は、道行く人もスーパーですれ違う人も皆マスクをつけていました。
緊急事態宣言が解除された6月・7月でも、マスクの着用が基本となっています。
しかし、「マスクをつけていない人」の中には「マスクをつけられない人」がいることは、まだあまり理解されていません。
発達障害と感覚過敏、マスクをつけられない人々
マスク着用が求められることが多い状況下、「マスクをつけていない人」はとても目立つ存在になっています。マスクを着用していない人が強く叱られたり、マスクをつけていないと入店できなかったりすることも増えました。
しかし、「マスク着用」という言葉に苦しんでいる人たち、いわゆる「マスクをつけられない人」たちがいます。単なるわがままや努力不足ではない「マスクをつけられない人」の代表例は、発達障害をもつ人々です。
発達障害は決して珍しいものではありません。発達障害者支援センターの1年間の支援件数は2015年に17万件を突破しています。
この発達障害でよく見られる特性が、「感覚過敏」なのです。
感覚過敏があると、他の人が気にならないような感覚刺激がとても強い刺激に感じられます。そのため、他の人には何でもない音・光・匂い・味・肌触りなどが原因となって生活に支障を来したり、体調を崩してしまったりします。他の人には刺激の強さが分からないため、感覚過敏を抱える人が何に困っているのかを理解してもらうのも大変です。
しかし、感覚過敏という障害特性を持っていない人でも、自分の記憶や周りの人の行動を思いだしてみると、感覚過敏に近い経験にたどりつけるかもしれません。たとえば、以下のような経験です。
- 徹夜明けの朝に感じる痛いような朝の光
- 電車やトイレにこもった化粧品・香水・芳香剤のもわっとした匂い
- 背中や脇腹に触れられた時の強烈なくすぐったさや鳥肌が立つ感じ
- 襟元がチクチクしてセーターを来ていられない感覚
- 髪をきつく縛ったあとに感じる頭皮の痛みや頭痛
こうしたことが、ことあるごとに発生するのが感覚過敏だと思ってください。
マスク着用が苦手なのは特に触覚の感覚過敏がある人、マスクのゴムや顔に触れる布の感触に悩まされている人々です。
(関連記事)
大人の発達障害 ~特徴を知る~
【参考】
発達障害の理解|厚生労働省
感覚過敏[かびん]と鈍麻[どんま]─発達障害にともないやすい感覚の特性|子ども情報ステーション by ぷるすあるは
マスクをつけられない他の原因と求められる周囲の理解
マスクをつけられない原因は、発達障害だけではありません。発達障害以外でも、体質や病気などが理由でマスクをつけられない人がいます。
<マスクを付けられない人・病気の例>
- 体温調節が苦手な体質
- 喘息や肺の病気がある(喘息の場合は発作時など)
- HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)
- 脳の病気
- 認知症
- 原因不明の感覚過敏
「大変な状況なんだから、マスクくらいつけて当たり前」と思う人もいるかもしれません。しかし、要求に応じてマスクを着用できることは、決して「当たり前」ではないのです。
大切なのは、マスク着用が求められる場合でも着用できない事情が存在することを知り、理解すること。発達障害に伴う感覚過敏にせよ他の原因にせよ、その人がマスクをつけていないのは「わがまま」や「我慢が足りない」せいではないということです。
マスク着用が推奨される状況でマスクをつけていない人を見たら、まずは「何か事情があるのかもしれない」と考えてみてください。
【参考】
マスク着けられない子どもたちがいます 市川市が意思表示の缶バッジ配布へ 熱中症対策にも|東京新聞
感覚過敏の人がマスクをつけると、どうなる?
感覚過敏があると、多くの人が気にならない程度の感覚刺激が非常に強い刺激になってしまいます。感覚過敏は、触覚だけでなく、嗅覚や視覚、聴覚、味覚でも生じ得ます。
では、感覚過敏でマスクをつけられない人が無理にマスクをつけるとどうなってしまうのでしょうか。
人によって症状の強さや内容は異なりますが、たとえば強い痛みを感じたり体調が悪くなってしまったりするケースが多く見られます。具体的には、
- ゴムや布が触れている部分の肌が痛くなる
- 締めつけや匂い、布地の感触、呼吸のしにくさなどで吐き気がする
- 過呼吸になる
- 頭が痛くなる
といった症状です。
マスクだけでなく、フェイスシールドでも同様の支障が生じることがあります。
さらに、感染症拡大防止のためにマスク着用が推奨されている場合、マスクをつけていないと白い目で見られるという体験も珍しくありません。買い物や銀行など生活に欠かせない場所で入店を断られる場合もあります。そうした人の目や「マスク着用必須」という注意書き自体も、感覚過敏をもつ当事者をとても悩ませています。
【参考】
感覚過敏とは|感覚過敏研究所
マスクできない理由分かって 感覚過敏の娘、「『着けろ』と怒鳴られないか…」母の不安な日々|京都新聞
【体験談】マスクのできない私のキモチ|感覚過敏研究所
感覚過敏の人が使える意思表示カード
感覚過敏が原因でマスクをつけられない人は、意思表示カードを携帯するのがおすすめです。
「感覚過敏のためマスクがつけられません」と描かれている意思表示カードを考案したのは、「感覚過敏研究所」所長を務める中学生の加藤路瑛(かとうじえい)さん。感覚過敏をもつ当事者として、感覚過敏研究所で感覚過敏の説明や意思表示カードの配布を行う他、当事者・関係者・支援者のためのコミュニティ運営なども行っています。
意思表示カードは、名刺サイズで6種類。マスク、フェイスシールド、マスクおよびフェイスシールドの3パターンがあり、それぞれ「つけられません」と「苦手です」の2パターンが用意されています。
当事者の立場から作られた意思表示カードは、可愛らしいデザインで柔らかい色合い。携帯しやすく見やすいサイズです。利用者は、フェイスシールドの上に「感覚過敏のためマスクがつけられません」を貼る、首から提げる、社員証などを入れられるケースに入れてバッグに付けるなど、それぞれの仕方で意思表示を行っています。
【参考】
感覚過敏でマスクやフェイスシールドを付けられない人向けの意思表示カード|感覚過敏研究所
中学生考案!感覚過敏でマスクが付けられない人のための意思表示カード(株式会社クリスタルロード)|PR TIMES
マスクをつけられない人ができる感染予防
マスクをつけられない人の場合、感染拡大を防止するにはどうすればよいでしょうか。
マスク着用以外の感染拡大防止方法については、国立障害者リハビリテーションセンターの公式サイトが具体的なやり方を示しています。
<マスクをつけられない人ができる感染予防方法>
- 毎朝、体温計で熱をはかる
- ふだんより体温が高い場合や、かぜの症状がある時は家で休む
- 買い物や散歩は人の少ない時間に行く
- マスクが必要な場所では、ハンカチやタオルなどで口元をおさえる
- 人との距離は、約1~2メートル(両うでをひろげたくらい)あける
- 外から帰ってきた時、トイレに行った後、食事の前など、こまめに手を洗う
- せっけんを使って、指・指の間・指先・手のひら・手の甲・手首を、30秒かけて洗う
- 咳やくしゃみをする時は、腕の内がわやハンカチ、タオル、ティッシュなどを当てて、つばなどが飛ぶのを防ぐ(使ったティッシュはすぐにゴミ箱にすてる)
これらの予防方法は、新型コロナウイルス感染症以外の感染症でも有効。一気に全てを実践するのは大変かもしれませんので、まずは手洗いや人との距離など、できることから始めていきましょう。
【参考】
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の関連情報|国立障害者リハビリテーションセンター