中小企業の障害者雇用トラブルと予防法・解決法|2020年4月から認定制度開始


日本の民間企業のうち8割超を占める中小企業では、なかなか障害者雇用が進んでいません。大企業は全体として法定雇用率2.2%を達成していますが、300人未満の中小企業では2.0%未満です。

なぜ中小企業では障害者雇用が進みにくいのでしょうか。また、障害者雇用でトラブルが発生したら、どう対処すればよいのでしょうか。

しごとマガジン編集部のある就労移行支援事業所ルミノーゾでの支援事例や株式会社スタートラインによる障害者向けサテライトオフィスの情報とともに、トラブル予防法・解決法や障害者の新しい働き方を解説します。

日本の障害者雇用状況と課題

2019年12月に公表された障害者雇用状況集計結果によれば、民間企業全体での障害者雇用数は約56万人、実雇用率は2.11%。障害者の雇用数も実雇用数も過去最高となりました。1000人以上の大企業全体に限って見れば、法定雇用率の2.2%も達成しています。

しかし、従業員数が300人未満の中小企業における障害者の実雇用率は2.0%未満です。特に45.5人〜100人未満の企業では1.71%となっており、企業規模別に見た中で最も低い水準でした。100人以上300人未満の企業でも1.97%にとどまっています。

こうした結果から、中小企業における障害者雇用は、依然として大きな課題であることが浮き彫りになりました。

民間企業約10万社のうち中小企業は8割超を占めていますから、中小企業での障害者雇用促進が日本全体の障害者雇用促進にかかっているといえるでしょう。

(関連記事)
令和元年の障害者雇用数が過去最多に|障害者雇用状況報告書集計結果

中小企業で障害者雇用が少ない理由

なぜ中小企業での障害者雇用率は2.0%未満なのでしょうか。

まず、障害者を雇用するにあたり、事業所は障害者が働ける環境やマニュアルを整えなければなりません。身体障害者の場合は、作業場所だけでなく玄関・通路・トイレなどの整備も必要です。知的障害者なら、図や絵を用いた分かりやすい業務指示やスケジュール共有、本人に合った業務内容の設定が求められます。精神障害者の場合でも、分かりやすいマニュアルの整備と本人に合った業務内容を設定しなければなりません。

さらに、通院・薬の服用と仕事を両立できるよう、柔軟な勤務体制を整える必要もあります。

こうした従業員の仕事内容ややり方を改善する必要性と職場環境の整備にかかる経済的負担の大きさが、中小企業における障害者雇用率の低さの一因となっているのです。

企業側が雇用を想定している障害者のイメージと、実際に就職を希望する障害者が一致していないという問題もあります。具体的には、企業側が雇用したいと考えるのは「理解力や思考力に大きな問題のない身体障害者」がほとんどである一方、実際に就労移行支援などを利用して就職を希望する障害者は、知的障害や精神障害を持つ人が多いことです。

企業側のイメージと障害者就労支援の実状とに齟齬が発生し、雇用率が低くなっていると考えられます。

そもそも障害者差別禁止と合理的配慮提供義務について何らかの対応をとっているかどうかという点でも課題があります。

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下、機構)による2019年の調査によれば、障害者差別禁止と合理的配慮提供義務の両方について大企業では8割以上が何らかの対応(情報収集・社内点検・責任者の周知・社労士への相談等)をとっていたのに対し、300人未満の企業では、以下のように最大でも約74%にとどまりました。

<100人以上300人未満の企業>

  • 障害者差別禁止への対応:68.6%
  • 合理的配慮の提供義務への対応:73.8%

<50人以上100人未満の企業>

  • 障害者差別禁止への対応:50.7%
  • 合理的配慮の提供義務への対応:61.3%

全体として考えると、中小企業における障害者雇用に対する認知・理解の不足(あるいは関心のなさ)と環境整備にかかる負担が、中小企業で障害者雇用率が低い主な原因と言えるでしょう。

【参考】
研究報告書 No.114「中小企業における障害者雇用促進の方策に関する研究」|機構
障害者雇用制度の改正等に伴う No.143「企業意識・行動の変化に関する研究」|機構

障害者雇用でのトラブル予防法

企業の中には、実際に障害者を雇用したもののうまく指示を出せずに放置してしまったり、コミュニケーションがうまくとれなかったりしてトラブルになるケースが少なくありません。

どうしたら障害者雇用でのトラブルを避けられるのでしょうか。また、もしトラブルが発生したら、どう対応すればいいのでしょうか。

予防法(1)障害者支援は必ずチームで行う

まず、雇用した障害者への支援体制を整えるときは、誰か1人に支援を任せるのではなくチームで行うようにしましょう。

個人に任せきりにすると支援者自身が疲弊してしまい、結果として支援ができなくなってしまいます。障害者から見ても、支援してくれる相手が1人だけでは、その人が休んだ時の支援者がいなくなってしまいます。

障害者支援は決して簡単でもラクでもありません。支援者には、課題を共有し一緒に解決策を考えられる仲間が必要だということを忘れないでください。どのようなチーム体制をつくるかは障害特性にもよりますので、就労移行支援事業所やジョブコーチなどに相談してみましょう。

予防法(2)障害を持つ人の健康状態や特性、要望を知ろう

障害者雇用率の算出に関係する障害は、大きく分けて身体障害・知的障害・精神障害の3種類です。しかし、実際にどのような障害をもっているかは、1人ひとり異なるので注意してください。

障害者に対する大ざっぱなイメージは、偏見や障害者差別につながりやすいものです。「こんなこともできないのか」と理不尽な怒りを生むことさえあります。

したがって、障害者雇用のトラブル予防法の2つめは、何が障害者差別にあたるのか、どのような配慮があり得るのかを知り、さらに障害者それぞれが抱える障害の特性や特性に応じた要望を知ることと言えます。

障害者差別の禁止や合理的配慮の提供義務については、厚生労働省が2015年に指針を出しました。この「障がい者としごとマガジン」でも紹介していますので、参考にしてみてください。

(関連記事)
【概要編】まずは理解しておきたい!分かりやすい改正障害者雇用促進法(後編)

障害を持つ人は、障害のない人と同じ条件では働けないことがほとんどです。疲れやすい、コミュニケーションが苦手、複雑な作業が苦手、スケジュール把握に支援が必要、マニュアルの整備が必要等、具体的にどのような状態や特性で、どのような要望があるのか一人ひとり異なります。

障害者を雇用する場合、そうした状況や要望を丁寧にヒアリングする場を定期的に設けてください。伝えることが苦手な人もいるので、就労移行支援やジョブコーチ等を活用しつつ、業務遂行に必要な情報や要望を把握しましょう。

【参考】
改正障害者雇用促進法に基づく「障害者差別禁止指針」と「合理的配慮指針」を策定しました|厚生労働省

予防法(3) 障害者のプライバシーに配慮しよう

合理的配慮の提供にあたって、事業主や支援担当者(チーム)は障害特性をきちんと把握しなければなりません。合理的配慮にかかる措置を実施するために、障害者の上司や同僚に説明する必要も出てくるでしょう。

しかし、ここで障害者のプライバシーへの配慮を忘れてはいけません。

障害に関する情報は個人情報の1つであり、特に取り扱いに注意が必要なものです。事業主が合理的配慮の提供にあたってヒアリングできるのは、あくまで業務に関する範囲のみ。業務に関係ないことまで根掘り葉掘り聞くことは避けなければなりません。ヒアリングした情報についても、どう取り扱うのかなどを事前に障害者本人と合意しておきましょう。

<事業主と障害者本人、支援者とで合意しておくべきこと>

  • 何のために障害に関する情報を取得するのか
  • どのような情報が必要なのか
  • いつまでその情報を使うのか
  • 誰と共有するのか

厚生労働省は「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」を公表し、採用段階・採用後・障害の状態等の更新を行う場合の3段階について、把握・確認の手順と禁止事項しました。

下図に、ガイドラインに掲載されている禁止事項をまとめています。雇い入れや合理的配慮の提供、日常の業務などで障害者のプライバシーを侵害しないよう、十分に気をつけましょう。

予防法(4)障害の状態は変化する! 定期的に面談しよう

4つめのトラブル予防法は、障害をもつ従業員との定期的な面談を実施することです。

障害の状態は常に同じというわけではありません。障害の状態が変化すると、業務内容に変更が必要になる場合もあります。

障害をもつ人には、自分の状態の変化に気づかない人もいれば、気づいていても言い出せない人もいます。

障害者本人からの自己申告を待つのではなく、障害の状態が変化しているかどうか定期的に面談を実施しましょう。面談では、それまでの仕事でできたこと、課題になっていることを共有しつつ、仕事で困っていることはないか、仕事に関することで何か要望はあるかなどのヒアリングを。

困っていることや要望が出た場合は、合理的配慮の提供指針に基づいて解決策を講じましょう。

障害者雇用でトラブルが起きたら? ルミノーゾでの支援事例

予防策をとっていても、何からの原因でトラブルが発生することがあります。実際にトラブルが起きたら、どう対処すればいいのでしょうか。

しごとマガジン編集部のある就労移行支援事業所ルミノーゾでの支援事例も交え、3つの対応策をご紹介します。

解決法(1)事業主と障害者本人とで相談しつつ原因を探り、解決策を検討する

トラブル解決法の1つめは、まず何が原因なのかをきちんと探ることです。

原因は必ずしも本人にあるとは限りません。原因が1つとは限らない場合もあります。身体障害・知的障害・精神障害の3区分だけで考えず、本人の障害特性を踏まえて、どこまでできて、どこでつまずいたのかを丁寧に確認していきましょう。

この時、必ず本人と相談しながら検討することが重要。事業主が「これでいいだろう」と一方的に措置を講じると、障害者自身が抱える問題とはズレた措置になりかねないからです。障害者が問題点を伝えやすい、あるいは理解しやすい場を設けましょう。

ルミノーゾでの3つの支援事例

もしトラブルの把握や解決がうまくいかないなら、就労定着支援やジョブコーチの活用も検討してみてください。

職場の外に支援員がいることで、障害者が職場に言いにくいと感じていることでも把握し、解決策を講じることができます。逆に、職場から言ってもなかなか本人に伝わらなかったり本人が気づいていない問題が発生している場合、障害者の就労支援の専門家である支援員が間に入ることで障害者に伝え、問題を解決していくことが可能です。

就労移行支援と就労定着支援を行うルミノーゾでも、障害者と職場の間に入った支援を行ってきました。具体的にどのような原因でトラブルが発生し、どうやって解決していくのか、ルミノーゾ町田で実際に支援を行った事例を以下にご紹介します。

(注)以下の事例では、プライバシーに配慮し個人を特定できないよう事案の詳細を変更しています。

事例1:職場に欠勤連絡ができない

「体調不良の場合は遠慮なく休んでいい」と職場から言われていたAさん。しかし、実際に欠勤の電話をしようと思うと気が重くなり、電話をかけられなくなってしまいます。

うまく欠勤連絡ができないことに悩んだAさんは、ルミノーゾの支援員に相談しました。支援員が職場とAさんの間に入って調整を行い、電話ではなくメールを使うなど本人にとってハードルの低い連絡方法を提案。企業側もこれを承諾してくれました。

自分に合った連絡方法がとれるようになった安心感から、Aさんは安定して通勤できるようになりました。

事例2:振られたタスクをうまくこなせない

Bさんの場合、3か月後を目安に、慣れてきたら勤務時間を段階的に増やすという条件で入社し、1日3時間のシングルタスクで業務を行っていました。

Bさんの業務遂行能力が周囲の予想以上に高く、忙しい職場であったため、予想より早くBさんの勤務時間が増えることになりました。また、シングルタスクではなく複数の業務を一度に振られるようにもなってしまいました。

Bさんは「正直、タスクをこなせていない」と悩みながらも職場では断れず、ルミノーゾに相談します。

支援員が職場とBさんの間に入り、勤務内容をもとに戻してもらうことで解決しました。

事例3:仕事の遅れに本人が気づいていない

発達障害を持つCさんの場合、仕事の進捗が周囲を合っておらず同僚の方々が困っていました。原因は、職場でうまくコミュニケーションがとれていないこと、進捗が周囲とズレていることを本人が認識していないことでした。

そこで、毎月行っている定着支援で支援員が細かく面談し、タスク管理の方法(優先順位のつけ方)と仕事の手順を根気よく指導することに。現在も指導を継続中です。

解決法(2)事例集で解決法のヒントを得る

解決法の検討には、内閣府が出している「合理的配慮の提供等事例集」も役に立ちます。障害別に、困っている内容とそれに対する合理的配慮の内容が列挙されているものです。

候補となる解決法があるかどうか、障害をもつ従業員と一緒に検討してみましょう。

「合理的配慮 事例集」などの検索ワードでGoogle検索してみると、さらに多くの事例集が見つかります。

【参考】
障害者差別解消法【合理的配慮の提供等事例集】|内閣府

解決法(3)さまざまな外部支援や助成金を活用しよう

障害者雇用の経験がなかったり、トラブルが発生したりしてアドバイスや具体的支援が必要な場合は、外部機関による支援を活用しましょう。外部の支援機関には、就労移行支援事業所だけでなく、地域障害者職業センターや障害者職業・生活支援センターなどもあります。

仕事に関わる相談は、就労移行支援事業所や地域障害者職業センター、障害者職業・生活支援センターなどに相談可能。発達障害をもつ従業員については、発達障害者支援センターに相談すると有効な解決策の助言や支援を受けられるでしょう。

障害者雇用に関する経済的負担が大きい場合は、国や地方公共団体の助成金等の検討も重要です。基本的にはハローワークが相談・申請窓繰りになっていますので、ますはハローワークに問い合わせてみてください。

助成金等の情報をインターネットで大まかに調べるなら、機構や事業所のある都道府県の労働局のWebサイト等も便利です。

この「障がい者としごとマガジン」でも助成金に関する紹介や解説をしていますので、ぜひご活用ください。

(関連記事)
【事業主編】まずは理解しておきたい!分かりやすい障害者雇用促進法(後編)
障害者を雇用した場合に受け取れる助成金一覧|受給条件・対象者・支給額など

新しい働き方:障害者用サテライトオフィスの活用

経済的負担の大きさから事業所での環境整備が難しかったり、支援者確保が難しかったりする場合は、障害者向けサテライトオフィスの利用も便利。株式会社スタートラインが運営する障害者向けサテライトオフィスサービスは、日本テレワーク協会主催の第18回テレワーク推進賞で優秀賞を受賞し、大手企業にも導入実績のあるサービスです。

通勤が難しい障害者の負担にならない地域で安心して働けるのが、サテライトオフィス活用の1つめのメリット。スタートラインによるサテライトオフィスは、東京・神奈川・埼玉に複数あり、首都圏での就労に便利です。障害者支援に関する資格を持つスタッフを中心としたサポート体制が整っているのも特徴。障害をもつ従業員が必要な支援を受けながら就労できます。

2つめのメリットは、事業主の経済的負担が軽減され、質の高い合理的配慮を提供できることです。作業場や附帯施設(玄関・トイレ・廊下など)が初めからバリアフリーになっているため、事業主が自分で設備等を整える必要がありません。障害に詳しい運営者がサテライトオフィスを運営しているため、特性に合わせた設備・器具類の導入もしやすくなります。また、サテライトオフィス側のスタッフから障害者の就労に関する支援方法を学ぶこともできます。

スタートラインによるサテライトオフィスサービスの3つめのメリットは、障害をもつ従業員が他社の障害者と交流できることです。

「他の障害者はどうやって働いているんだろう」と思っても、周囲にそうした人がいないとなかなか直接話をする機会がありません。「障害を持たない従業員の中で自分だけ障害を持っている」と気後れする人もいます。

スタートラインのサテライトオフィスは、セキュリティのしっかりした各社専用のオフィスで業務を行い、休憩時間は共用スペースで過ごせるのが特徴です。共用スペースでは他社の障害を持つ従業員と話したり、一緒に食事したりできます。働く障害者同士の横のつながりができると共に、孤独感の解消にもつながるでしょう。

もし事業所が首都圏にあるなら、障害者向けサテライトオフィスの利用も検討するとよいでしょう。

【参考】
障がい者向けサテライトオフィスサービス|Startline

2020年新設の中小企業向け優良企業認定制度の活用

障害者雇用で問題を抱えて言える企業では、「どういうふうに職場環境を整備したらいいか分からないから整備していない」「何ができて何ができないのか上司・同僚が知らないので他の従業員と同じように業務を任せてしまう」といった状況が見られることがあります。

中小企業で障害者雇用が進みにくい要因には事業主にかかる経済的負担の大きさがありますが、同時にノウハウ不足も課題です。

現状、中小企業でどのような障害者雇用ができるのか、どのようにサポートしていけばいいかのロールモデルは多くありません。表彰制度はありますが、あまり一般に認知されているとも言いがたいでしょう。

そこで、2020年4月から改正障害者雇用促進法に基づき、中小企業の新しい認定制度が始まりました。

障害者雇用に関する取組・成果・情報開示の3つの観点から加点式で評価し、50点万点中20点以上を獲得すれば優良企業として認定される制度です。

障害者雇用の優良企業として認定されると、広報や商品等に認定マークを使えるようになります。認定マークをつけた中小企業は、障害者雇用の体制を整えノウハウを持っているとして、他の中小企業における障害者雇用のロールモデルになれるでしょう。

認定を受けることで、障害者雇用に意欲的な企業として世間に認知され、企業イメージのアップにもつながります。

また、障害者を雇用している企業であることを前提に採用活動ができますので、障害を持つ人と持たない人が一緒に働く職場であることが分かっている人を採用しやすくなるでしょう。

認定制度の詳細は、厚生労働省のWebサイトで公開されている資料などをご覧ください。

【参考】
障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案(令和元年法律第36号)の概要|厚生労働省
中小事業主の認定基準について|厚生労働省

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