2023/01/10
「職場適応促進のためのトータルパッケージ(TP)」とは?
本ページはプロモーションが含まれています
障害者の職業リハビリテーションにおける支援技法に、NIVRが開発した「職場適応促進のためのトータルパッケージ」があります。これは、ワークサンプルなどを用いて得意な作業・苦手な作業・課題を確認し、段階的に作業遂行能力を高め、最終的な目標としてセルフマネージメントできるように支援するというもの。トータルパッケージの概要と目的、支援技法を学べる公式の教材などをご紹介します。
「職場適応促進のためのトータルパッケージ(TP)」とは
「職場適応促進のためのトータルパッケージ」(以下、TP)は1999年度に障害者職業総合センター(NIVR)が開発した、障害者を対象とする職業リハビリテーションの支援技法です。「TPツール」と呼ばれる各種補助ツールを使いながら、アセスメントやトレーニングを進めていきます。
まずはTPの概要や目的を見ていきましょう。
TPの概要と目的
TPの目的は、「セルフマネージメントスキルを活用しつつ、必要な支援を受けながら自立した職業生活を送れるよう支援すること」。より具体的には、障害をもつ支援対象者が以下を習得できるようにすることです。
<TPの目的>
- 作業遂行力の向上
- 仕事を継続する中で生じるストレスや疲労に対する対処行動の獲得
- 個々の障害状況に応じた職場適応に必要な補完手段・補完行動の獲得
- セルフマネージメントスキルの獲得
こうしたスキル等の獲得に向けて、基本的には次のような流れでTPは進められます。
<TPの大まかな流れ>
- 障害状況・ストレス・疲労のサイン・障害受容等の基礎情報の把握
- スケジューリングの訓練の要否を判断(必要な場合はメモリーノートで集中訓練)
- さまざまな補助ツールを活用しながら、作業遂行力を向上させる訓練を実施
- ストレスや疲労への対処方法などを獲得
- セルフマネージメントできるようトレーニングを実施
TPの中では以下のような補助ツール(TPツール)が使われます。
<TPツールの例>
- ウィスコンシン・カードソーティングテスト
- メモリーノート(幕張版)
- ワークサンプル(幕張版)の簡易版と訓練版
- 幕張ストレス疲労アセスメントシート
- グループワーク
TPツールで特によく活用されているのが「ワークサンプル(幕張版)」です。ワークサンプルは、特定の業務(作業)をサンプルとして実施できるよう作業課題や使用する素材などがまとめられたもの。支援対象者がどのような作業や職域に興味や適性があるのか、あるいは苦手だと感じるのかを特定するためのツールです。
ワークサンプルの簡易版では、得意・不得意の傾向や作業が障害の状態に与える影響を予測するなどの目的で使えます。一方、訓練版では、支援対象者と相談して取り組むワークサンプルを決定し、できる作業課題から始めて段階的にステップアップさせていくトレーニングとして活用できます。
- ワークサンプル(幕張版)の例
ワークサンプルやメモリーノートなどは購入する必要がありますが、幕張ストレス・疲労アセスメントシートはNIVRの公式ページからダウンロード可能です。
TPの実施状況
では、実際のところ、TPは全国でどのくらい活用されているのでしょうか。
NIVRはTPの実施状況を知るため、TPを実施していると考えられる機関やTPツール購入機関に対して質問紙調査を行いました。回答したのは地域障害者職業センター、就労移行支援事業所、就労継続支援事業所などで、合計231件です。
質問紙調査から見えてきたのは、TPツールについては多少知っていても、実際に支援現場で活用しているケースがあまり多くないということです。支援内容自体を見ても、TPの最終目標である「セルフマネージメントスキルの獲得」を想定した「スケジュール管理」の支援について、「まれにしかしなかった」または「しなかった」と回答した機関が全体の3割を超えました。TPの目的が十分に理解されないまま実施されていることが伺えます。
この質問紙調査と同時期に、NIVRはTPの概要を理解している支援者約20名に対して面接調査でより詳しい聞き取りを行っています。
面接調査でわかったのは、
- TPに関する研修について情報提供を求める声が多いこと
- TPを実践するには高い分析スキルが必要であるという難易度の高さが課題だが、支援としては効果的であること
- 支援対象者の特性に応じた支援方法に関する情報が必要であること
などでした。
全体として、TPがどのような支援技法なのか、TPをどのように活用していけばよいのかなどについて、より理解しやすい情報の提供や研修の実施が必要な状況であることがわかりました。
TPの具体的なやり方・実践例
事例集では、アセスメント機能に特化した就労支援機関と、アセスメントとトレーニングの両方を行う就労支援機関を中心に、TPの活用例を紹介しています。
<事例におけるTPの進め方(一部)>
- 個別面談後、登録前の「初期評価」で実施
- TPツールを用いて半日〜3日をかけてアセスメントを実施
- 10〜20分程度、同じ作業を行ってもらう
- 習熟性や作業耐性を確認する
- コミュニケーションの様子を観察する
- 登録後の「体験参加(アセスメント)」で実施
- TPツールにある「数値チェック」「物品請求書作成」「作業日報作成」「OAワーク」を活用してアセスメントを実施
- TP結果をどのようにアセスメント結果につなげていくか、朝の申し送りやミーティング時に確認
- TP結果をもとに「雇用支援プログラム作成」を行い、利用者のプランを検討
- 就労移行支援におけるアセスメントと作業訓練で実施
- TPツールを用いてアセスメントを行う
- ワークサンプルを体験してもらい、作業への興味・関心、訓練への動機付けを喚起する
- 補助ツールにある作業課題から実務作業4種、事務作業3種、OA作業3種に絞り込んで活用
- できた・できないよりも、支援対象者の特性等を把握して、できるレベルに至るまでの状態を想定できるようになることを重視
- TPツールの結果をもとに、支援対象者の情報をまとめ、関係機関を交えたケースカンファレンスで共有、多角的な視点で方向性を検討
- 一定期間の作業訓練を実施後、職場体験や就職を前提とした職場実習などに移行
事例からわかるように、TPはTPツールを使うことで高い効果を発揮します。そのため、どのようなTPツールをどのような目的で活用していくかが、TPを進める際のポイントになるでしょう。
TPについて学べる教材と研修
画像出典:マニュアル、教材、ツール等 No.75トータルパッケージ学習テキスト/伝達プログラム講師用手引|NIVR
TPについて学ぶ際は、NIVRが作成した公式の学習テキストを利用すると便利です。このテキストは、TPを実践する際に必要な知識を学べる「TP伝達プログラム」という研修でも使われるもの。研修だけでなく個人学習でも活用できます。
TPの学習テキストと講師用手引
効率的にTPの基礎知識や進め方を学習できる「トータルパッケージ学習テキスト/伝達プログラム講師用手引」(以下、TP学習テキスト)は、NIVRの公式サイトからダウンロード可能です。各機関の研修、勉強会や支援者の個人学習などに使えます。
TP学習テキストの内容は、以下の2部構成となっています。
<TP学習テキストの内容>
第1部 | TP実施マニュアル | TPの全体像
MSFASの基本と使い方(※) MWSの基本と使い方(※) メモリーノートの基本と使い方 |
第2部 | ストレス・疲労の対処方法獲得への支援 | MSFAS・MWSを活用した支援
特性把握の意義と方法 自己理解の促進 作業場面での支援のあり方 |
※MSFAS … 幕張ストレス疲労アセスメントシート
※MWS … ワークサンプル幕張版
第1部については、「TPツールマニュアル動画」というNIVRが公開している動画を視聴しながらの学習が効果的です。動画で見逃したところや理解しにくかったところなどをテキストで再確認することで、定着率を高めることができます。NIVRは、支援現場にテキストやその一部をコピーしたものを持って行き、必要に応じて参照するという活用方法も提案しています。
第2部は、テキスト単独での学習以外に、NIVRが2010年に発行したマニュアル「MSFASの活用のために」と「ワークサンプル幕張版 MWSの活用のために」を併用して、より深く学ぶ方法もあります。
いずれも、まずはざっとTP学習テキスト全体を確認し、支援現場で特に必要と考えられる部分をじっくり学習していくとよいでしょう。
「TP伝達プログラム」(研修)
先述したNIVRが行ったTP実施状況の調査では、実際にTPを進めようとする際に情報が不足しているという課題が見られました。これを受けてNIVRが開発したのが、「TP伝達プログラム」です。
TP伝達プログラムには、以下の5つの特徴があります。
<TP伝達プログラムの特徴>
特徴 | 概要 |
TPの支援技法 | 初学者でも理解しやすいよう、TPの支援技法を実践的かつ具体的に解説
基本的技法である応用行動分析の解説あり |
各支援機関に応じた学習内容 | 「アセスメント」「作業訓練」「セルフマネージメント」の3テーマで構成
各機関の中心的な機能に合わせて学習できる |
情報共有しやすい資料 | 具体例を使って支援方法をイメージしやすい構成
職場の他の支援者に情報共有しやすい内容 |
事例検討や演習 | 実際の支援現場における事例を用いた検討
獲得度テストを用いた演習 |
既存マニュアル等の情報 | TPに関する既存のマニュアルや報告書の情報を整理
プログラム受講後も閲覧できるようURL等を表記 |
TP伝達プログラムはテーマにごとに全3回で実施するよう設計され、プログラム内で使えるスライド資料もNIVRから提供されています。スライドには、アイスブレイクから基本的な情報の伝達、グループワーク、事例紹介、役立つ資料の紹介など、多彩な項目があります。その主要項目を列挙したものが、下表です。
<TP伝達プログラムの流れ>
第1回
アセスメント (約3時間) |
TPの基本的な考え方
高次脳機能障害・精神障害・発達障害に共通する課題 TPの目的 MWSによるアセスメントのポイント 作業の特性の現れ方、作業遂行能力の把握 課題分析(演習) 補完手段・補完行動等の適切な形成 就労支援機関でのアセスメントのポイント ストレス・疲労の対処状況をアセスメント 就労支援機関でのアセスメントの進め方 MWSによるアセスメントの実際 事例検討 関連する既存資料の情報提供 |
第2回
作業訓練 (約3時間) |
TPの基本的な考え方・TP支援のポイント
MWSによる訓練のポイント 特性の現れ方、作業遂行力の把握 段階的なトレーニングの実施 補完手段・補完行動等の適切な行動を形成 ストレス・疲労への訓練のポイント 十分にフィードバックする ストレス・疲労への対応を行う 効果的な支援に向けた意見交換 MWSを支援の中で効果的に使うために |
第3回
セルフマネージメント (約2時間半) |
作業遂行能力を向上させるセルフマネージメント
セルフマネージメントとは TP支援の重要ポイント セルフマネージメントトレーニングの流れ ストレス・行動の対処 事例紹介・質疑応答・意見交換 就労支援機関からのよくかる質問 事例検討 問題行動をアセスメントするための視点 機能分析とは 事例検討 |
いずれのテーマも100枚以上のスライドがあり、所要時間も休憩込みで3時間程度の分量。研修で一気に学ぶ方法もありますが、まとまった時間をとりにくい場合は、自機関に特に必要な項目を踏まえて研修内容や進め方を検討してみるとよいでしょう。
TP伝達プログラムの活用方法
TP伝達プログラムは、さまざまな形で実施できます。NIVRでは、OJT、Off-JT、SD(自己啓発)での活用などを提案していますので、必ず集合研修で行わなければならないというものではありません。
たとえば、各実施場面において、次のようなプログラムの活用方法が考えられます。
<TP伝達プログラムの実施・活用例>
OJT | 実践的な知識・スキルを身につける
TP実施経験の浅い支援者が「TP学習テキスト」から必要箇所を印刷し、支援者間で確認しながら進めていく等の方法で実施 |
Off-JT | TPを活用している機関や支援者と集合研修を行ったり、オンライン学習を行ったりする
研修の中で、既にTPを実践している支援者(講師等)に質問する、参加者同士で意見交換や検討を行う等の方法で実施 TP学習テキストを用いた勉強会なども含まれる |
SD | 支援者が自発的に実施する
TP学習テキストやJEEDに掲載されている映像教材等を用いて個人学習を行う 実践事例集を参考にして自機関のTP導入のあり方を再検討する 学習した内容を機関内の他の支援者と共有していく |
NIVRは、TP伝達プログラムの実施にあたって
- どのような経験をもつ支援者に、どのような内容を、どのような方法で学んでもらうかを検討する
- 学習計画を立てる
- 業務時間内に学習時間を組み込む、学習場所を確保する等の学習環境を整える
といったポイントを押さえることが重要としています。
また、Off-JTなどの座学だけでは「知識としては知っているけれど実践につながらない」という課題が見られるものです。座学で学んだ内容を現場で活用できるようOJTの内容をOff-JTに合わせて設計したり、受講後の実践を現場でも意識づけたりするとよいでしょう。
作業遂行力アップはTPをヒントに
これまでも、アセスメントや訓練、事業主との調整などにおいて、障害特性の把握、課題への対処策、業務遂行ができるようなスキルアップに取り組んできた支援機関は多いでしょう。しかし、意識的にTPを活用している機関はまだ少ないかもしれません。
もし支援対象者の作業遂行力が伸び悩んでいる、どのようにアセスメントをしてよいかわからないなどの課題があるなら、あらためてTP活用による支援を検討してみてはいかがでしょうか。
TPが何か、どのような目的で、どうやって進めるかについては、TP伝達プログラムの資料やTP学習テキストで学べます。実践においては、テキスト通りに全てを行うよう取り組むこともできますし、事例集にあるように部分的にTPツールを活用する方法もあります。
まずは、TPがどのような支援技法かを知ることが大切です。TPツール活用の場を広げていくことで、課題解決の糸口も見えるかもしれません。支援対象者の作業遂行力向上とセルフマネージメントスキル獲得に向けて、さまざまな視点でサポートしていきましょう。
【参考】
調査研究報告書 No.164障害の多様化に対応した職業リハビリテーションツールの効果的な活用に関する研究|NIVR