2022/09/08
【企業編】障害者の超短時間労働の実態調査 企業にとっての4つのメリット・デメリット
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障害者雇用で重要な選択肢である短時間労働。その中で週20時間未満は超短時間労働と呼ばれ、法定雇用率の算定対象になりません。しかし、障害者雇用を進める企業には超短時間労働の障害者雇用を行うところもあります。なぜ超短時間労働で障害者を雇用しているのでしょうか。NIVRの調査報告書から、企業にとってのメリット・デメリットを探ります。
NIVRによる障害者の短時間労働に関する実態調査
働く障害者の中には、週20時間未満という超短時間労働で雇用されている方がいます。
障害者雇用促進法に基づく障害者雇用率制度では、従業員数43.5人以上の民間企業には、法定雇用率2.3%以上の障害者の雇用が義務づけられています(2022年8月現在)。しかし、障害者雇用率の算定対象は週所定労働時間が20時間以上の障害者のみで、週所定労働時間20時間未満の障害者雇用は算定対象ではありません。
超短時間で働く障害者が一定数いること、障害者雇用において重要な雇用形態であることから、超短時間労働に関する支援制度として特例給付金制度が2020年から始まりました。しかし、週所定労働時間20時間未満での雇用を希望する障害者や企業のニーズ、超短時間雇用の実態、課題は制度運用後も明らかになっておらず、特例給付金制度自体もあまり活用されていません。
超短時間での障害者雇用にこうした制度を活用してもらうには、どのような要件や支援、あるいは新たな制度が必要なのでしょうか。
障害者職業総合センター(NIVR)は、超短時間労働での障害者雇用の実態を把握すべく「障害者の週20時間未満の短時間雇用に関する調査研究」(調査研究報告書 No.165)を実施しました。調査方法は就労継続支援事業所へのアンケート調査やヒアリング調査、超短時間労働での障害者雇用を行う企業へのヒアリング調査、専門家へのヒアリング調査です。
今回は、同研究結果における企業へのヒアリング調査を中心に、障害者の超短時間労働に関する企業にとってのメリット・デメリットを確認しつつ、その実態や求められる支援制度を見ていきましょう。
企業にとっての超短時間労働 4つのメリット
障害者の超短時間労働が企業にもたらす最大のメリットは、「週所定労働時間20時間未満だからこそ、雇用しやすく働き続けてもらえる」ということでしょう。もう少し詳しく見れば、4つのメリットがあります。
メリット1: 障害者雇用をしやすくなる
1つめのメリットは、企業での障害者雇用をしやすくなることです。
中小企業では、事業内容や規模を考えると障害者雇用をするのは難しいと考えることも珍しくありません。週20時間以上働いてもらうには、それが可能な障害者を見つける必要があるからです。しかし、安定的に週20時間以上働くことができない障害者も一定数おり、特に近年雇用者数を伸ばしている精神障害者では、超短時間労働でないと体調を崩してしまう方がいます。
また、週20時間以上働ける障害者がいたとしても、職域開発が間に合わず、その労働時間に見合う量の業務を振り分けることが困難な場合もあるでしょう。
週20時間未満で働いてもらう形であれば、任せる業務量の調整がしやすく、長時間働くことが困難な方も雇用できるようになります。
メリット2: 職場定着しやすくなる
メリットの2つめは、職場定着のしやすさです。
障害者本人の健康管理と労働時間は、切っても切り離せない関係にあります。無理をせず長く働き続けるには、本人の体調や体力に合った働き方ができる環境が必要です。
無理に長時間働くことで体調を崩して休職、離職せざるを得なくなる状況を回避できるため、週20時間未満で働けることは、体調を崩しやすかったり疲労しやすい特性をもっていたりする方にとって、とても重要な選択肢の1つとなります。
実際に、今回のヒアリング調査に応じた企業からは
「無理をせず働いてもらうことで、長く続けてもらえている」
「本人の能力が十分発揮できる勤務時間」
といった声が寄せられました。
メリット3: 職域開発に時間をかけられる
3つめのメリットは、職域開発に時間をかけやすいことです。
メリット1でも述べましたとおり、障害者雇用を進めようと思っても「何を任せたらいいのか分からない」と頭を抱える企業は少なくありません。障害者雇用で多く取り組まれている職域として軽作業や清掃、PC作業といった分野があるものの、障害特性によっては遂行が難しいケースもあります。
本人に合った職域を見つけるには、それなりに時間がかかるものです。はじめから週30時間以上で障害者を雇用する場合、慣れていない企業では「どのような仕事をやってもらうか考えているうちに、どんどん時間がたってしまった」「障害をもつ社員が手持ち無沙汰になってしまった」ということもあるでしょう。
しかし、週20時間未満の超短時間労働から雇用できれば、業務の検討や調整をじっくり行うことができます。障害者自身の特性に合った職域を創出することで職場定着しやすくなるとともに、「できた」という本人の達成感にもつながるでしょう。
メリット4: 能力を発揮しやすい環境で「欠かせない存在」になる
体調管理がしやすく本人の特性に合った職域を任せられることで、職場での業務をしっかりこなせるようになることが、4つめのメリットです。
ヒアリング調査では「職場にとって欠かせない存在」と評価する企業が複数見られるとともに、中小企業からは「(誰かがやってくれれば助かる仕事を)短時間で集中してこなしてくれる人がいると助かることも多い」といった声も聞かれました。
さらに、「多様な働き方を認めることで、職場において助け合いの雰囲気が醸成されている」という点を評価したコメントも寄せられています。
企業にとってのデメリットは法定雇用率達成につながらないこと
超短時間労働での障害者雇用のデメリットは、法定雇用率の算定対象となっていないことでしょう。週20時間未満は、法律の点から見て障害者雇用をしていないこととほぼ同じ扱いになってしまいます。
また、週所定労働時間20時間未満の障害者雇用を対象とする特例給付金制度が設けられたとはいえ、その支給要件には
- 週10時間以上20時間未満での雇用である
- 支給上限人数は週20時間以上の雇用障害者数(人月)
という2点があり、中小企業に多い「初めての障害者雇用」が週所定労働時間20時間未満である場合は支給対象とならない点も現在の大きな課題です。
こうした法律や支援制度自体に前提されている週20時間以上の労働(できれば週30時間以上)という条件により、超短時間労働での障害者雇用は各種制度の恩恵を受けにくいのです。
それでも超短時間労働の障害者雇用を続ける理由
超短時間労働での障害者雇用は、現在の制度では企業にとって重要な法定雇用率の達成には寄与しません。超短時間雇用を対象とする特例給付金制度も企業にとってそこまで大きなメリットとは言えないようです。では、それでも超短時間労働の障害者雇用を続けるのはなぜなのでしょうか。
障害者雇用を進める企業では、法定雇用率達成を1つの目的としながらも、障害者本人にとって働きやすい環境を積極的に整備していく姿勢が見られます。今回のNIVRによる調査結果では、障害をもつ社員が働き続けられるよう労働時間を調整する、本人のワークライフバランスを尊重する、本人の状況に応じて柔軟に労働時間を調整するといった対応により、障害をもつ社員の職場定着を達成できた例が多く見られました。
週20時間未満の障害者雇用に法律や制度面での課題があったとしても、「短時間なら働ける」「超短時間労働でも能力を発揮できる」といった点が企業の現場で重視されているのです。
こうした働き方の多様性の重視や環境整備は、障害者の自立や社会での活躍にとって、とても大きいもの。週20時間以上の障害者雇用だけでなく、より幅広い労働時間を考慮することが、実態に即した制度づくりには欠かせません。
障害者雇用を進める現場のこうした姿勢や実態をより評価できるよう、障害者雇用に関わる制度の支給要件の見直し、支援制度の拡充が望まれます。
【参考】
調査研究報告書 No.165 障害者の週20時間未満の短時間雇用に関する調査研究|NIVR