障害者のためのテレワークの導入と継続のポイント


新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、感染予防対策として企業でのテレワークが普及しつつあります。その一方で、一度テレワークを導入してみたものの継続できないと判断する企業があることも分かってきました。

しかし、障害者にとって、テレワークは感染予防になるばかりでなく、仕事の能率を上げることにもつながる大事な選択肢。障害者がテレワークを行うメリットと注意点を解説します。

新型コロナ感染症拡大とテレワーク

2020年、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、多くの企業でテレワーク(在宅勤務)の導入が進められています。

テレワークとは、近年急激に発展する情報通信技術(ICT)を活用して職場以外で働く働き方のこと。自宅で働く場合を特に「在宅勤務」と呼びます。

感染症拡大防止策として「新しい生活様式」が専門家会議から示されましたが、仕事に関わる部分で推奨されていたのが、このテレワーク。初めて導入したという企業も多く、富士通やカルビーのような一部の企業では感染症終息後もテレワークを標準業務形態として定着させると発表しました。

一方、中小企業でのテレワークはあまり進んでいないというデータも出ています。

デル・テクノロジーズによる2020年6月〜7月の調査では、中堅企業の6割が新たにテレワーク・在宅勤務を実施したものの、テレワークを継続すると答えた企業は5割にとどまりました。中堅企業の1割がテレワークを断念しているのです。

東京商工リサーチによる6月〜7月の調査でも、テレワークを「実施したが、現在は取りやめた」と回答した企業が26.7%ありました。

テレワーク継続を断念する原因としては、主に次の5つが指摘されています。

  • セキュリティの問題
  • 社員の機器類の扱いや働き方に対する不慣れの問題
  • コミュニケーションのとりにくさ
  • ハンコや契約書のやりとりといった従来型の手続きの問題
  • テレワーク中の社員の勤務態度が分かりにくいという問題

【参考】
業務への支障で1割が「今後のテレワーク継続を断念」、デル中堅企業調査|ASCII
第6回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査|東京商工リサーチ

障害者雇用におけるテレワーク、在宅勤務のメリット

そもそも、テレワークは政府による「働き方改革」の中で推進されてきた働き方の1つ。障害者のテレワーク雇用も厚生労働省によって推進されてきました。

厚生労働省委託事業である「障害者テレワーク(在宅勤務)導入のための総合支援事業」では、複数の企業で実際に障害者のテレワークを導入し、事例集を作成。その中で、価値住宅株式会社の事例では「体を動かすことに制約があっても、 テレワークであれば働く意欲と能力がある人が働ける」ことが認められています。

また、感染症拡大時期においては以下のようなメリットもあるでしょう。

<感染症拡大時期における障害者テレワークのメリット>

  • 人ごみが怖い障害者が人ごみを避けて勤務できる
  • 感覚過敏がある障害者が、不快に感じるさまざまな刺激を避けて勤務できる
  • 体力がない障害者でも勤務でき、通勤による体力の消耗がない
  • 障害をもつ従業員を通勤や職場での感染から守れる
  • 「感染するかも」という不安を和らげることができる
  • 体調管理がしやすい

以下、各メリットを詳しく解説します。

【参考】
テレワークで障害のある方をより企業戦力に!|厚生労働省

人混みが怖い、感覚過敏がある、体力がない障害者も働ける

障害がある場合、ストレスをためやすかったり、障害特性から体力がなかったりするケースは珍しくありません。特に通勤にかかる身体的・精神的ストレスは重大です。満員電車での通勤は、人ごみが怖い人やにおいや大きな声が苦手な人、人と体が触れあうことが苦手な人にとって非常に大きなストレスとなります。体力がない人の場合、通勤ラッシュによる体力の消耗は無視できるものではありません。

テレワークができれば、そうした通勤に関係する問題がなくなります。業務開始前の身体的・精神的負担がなくなることで、これまでよりラクに業務を開始できるでしょう。

また、テレワークでは障害をもつ人が自分の障害に合った仕事環境を整えやすいというメリットもあります。身体障害者はベッドの上でも仕事ができますし、感覚過敏をもつ人は他の人に突然話しかけられたり周囲の人の声や動きが気になったりする状況が発生しません。出勤して働く場合と比べて、身体的・精神的に負担が軽減されます。

障害をもつ従業員を感染症から守れる

障害をもつ人の中には、感染症拡大防止に必要なマスクの着用が困難な人がいます。

専門家会議が示した「新しい生活様式」は、マスク着用ができたり、聴覚に障害がなく相手の口元を見て会話したりする必要がないことを前提に作成されたもの。これらが困難な障害者にとって、テレワークは、マスクを着用しなくても感染リスクを避けられる重要な選択肢です。

加えて、障害特性が原因で状況の変化が苦手で、感染拡大の緊張感から強いストレスを抱える人も多くなっています。感染する人が増えている時期においては、少しでも安心して働ける環境は重要です。

テレワークで働ければ、感染リスクが高いとされている「三密」を回避できます。人ごみ・通勤ラッシュ・事業所での感染リスクを抑えられるとともに、必要な時に休憩や服薬も可能です。

障害が原因で「新しい生活様式」に対応できない部分がある人でも、テレワークの実施によって解決策を得られることがあるのです。

障害者がテレワークで働く際の注意点

障害者がテレワークで働く場合、いくつかの点に注意しなければなりません。障害のない従業員にも当てはまることも多いのですが、障害者の場合は特に気をつけないとテレワークのメリットを十分に引き出すことができないでしょう。

テレワークを成功・継続させるポイントは、

  • 明確なルールづくり
  • 働きやすい環境づくり
  • 仕事とプライベートのメリハリをつける

という3点に集約されます。

障害特性に応じた配慮とあわせて、この3点に気をつけて実施していきましょう。

テレワークのポイント(1) 明確なルールづくり

障害者のテレワーク導入・継続の1つめのポイントは、明確なルールづくりです。テレワークを導入する目的に合った勤務制度、勤務日に必ず必要となる連絡や連絡方法、進捗管理のためのスケジュール共有方法などを明確に決めておきましょう。

体調を管理しやすい勤務体制を導入する

テレワークのメリットを活かす勤務体制の代表例は、フレックス制です。

フレックス制とは、1日の労働時間を定めずに1週間または1カ月単位で労働時間を定めるもの。業務の多い日は多めに働き、業務の少ない日や体調の悪い日は短時間だけ仕事をしたり仕事を休んだりするといった柔軟な働き方が可能になります。

原則として全社員が勤務する「コアタイム」があれば、ミーティングの設定や上司・同僚への連絡・報告・相談がしやすくなるでしょう。

フレックス制の導入が難しい場合は、業務の中断・中抜けを認めるようにするのも効果的です。これは、1日の合計労働時間が規定の時間に達していればOKとするルールです。中抜けや中断がしやすければ、急用や通院等に対応しやすくなり、従業員が働きやすくなります。

ただ、フレックス制を導入するにせよ中抜けOKとするにせよ、過度の残業や隠れ勤務には気をつけなければなりません。障害特性に過集中があったり、真面目な性格だったりする場合、就業時刻を大幅に超えて仕事を続けたり、時間外の業務指示が気になって隠れ勤務を行ってしまうことがあります。

長時間の時間外労働や不必要な時間外の連絡は体調に悪影響を与えかねません。生活リズムを崩さない範囲で業務を行い、しっかり休養がとれるよう、テレワークで働く従業員の勤務状況に常に気をつけてください。

始業と終業の連絡方法と相手を決める

テレワークで従業員の勤怠をきちんと把握するには、勤務日の始業時刻と終業時刻が分からなければなりません。そのため、勤務日は必ず始業と終業の連絡を行うように定めましょう。中抜けがある場合は、その時刻も報告するように定めましょう。

具体的な連絡方法としては、勤怠管理ツールの利用やメール等の活用があります。

勤怠管理ツールを利用する場合、勤務開始時と終了時、休憩の開始時と終了時に打刻することで、どの時間に業務を行っていかが分かります。管理画面を見れば各時刻や労働時間が一目瞭然なので、メール等での勤怠連絡を省略してもよいでしょう。リアルタイムで離席・在席が分かるようになっているツールもあります。

勤怠管理ツールを使用しない場合は、メールやグループチャット等で始業時と終業時に必ず報告を行います。誰に(どこに)報告するかも、事前にしっかり決め、報告テンプレートなどを作成・共有しておくとよいでしょう。

スケジュールの共有と声かけを行う

テレワークでは周りに同僚や上司がいないため、他の人のスケジュールやプロジェクトの進行状況が分かりにくいかもしれません。誰が何をする予定なのか、今プロジェクトのどの段階なのかを把握しやすくするために、グループウェアなどを使ってオンラインでスケジュールを共有しましょう。部署全体のスケジュールと進捗状況をいつでも確認できるようにすれば、テレワークでも仕事の見通しを立てやすく、混乱が少なくなります。

障害者が働いている部署では、指示を出す人からの適切な声かけも重要です。

進捗が遅れている場合は、何かトラブルが発生しているかもしれません。困りごとはないか声かけを行い、問題が生じているなら本人と一緒に解決策を講じましょう。本人のペースを重視しつつ、定期的にタスクの締め切り(「○月○日○時までに」など)をリマインドするのも効果的です。

テレワークのポイント(2) 働きやすい環境づくり

障害者のテレワークのポイント2つめは、働きやすい環境づくりです。具体的には、設備などのハード面と連絡・相談などのソフト面での整備が必要です。

特に仕事の指示やタスクの依頼では、障害のある従業員がマルチタスクにならないよう、十分気をつけてください。

仕事をしやすい環境づくり

在宅勤務で仕事に集中するには、仕事スペースの確保が大切です。椅子やデスク、照明器具の準備も軽んじてはいけません。

トラブルを予防したり、実際にトラブルが起きた時にすぐ対応したりできるよう、サポート体制も整えましょう。

気が散るものが見えないようにする

ハード面で効果的なのが仕事スペースの確保です。仕事専用スペースがあると、気持ちを切り替えやすくなります。立派な書斎である必要はありません。デスクワークの場合、最低2畳ほどあれば大丈夫です。

仕事スペースからは、ゲームやテレビ、漫画といった気が散りやすいものを見えないようにしましょう。布で覆ったり、別の部屋や箱の中に片付けたりします。片付けるのが難しいなら、別の部屋に仕事スペースを作ったり、仕事スペースの周りにパーティションを設置したりしましょう。

疲れにくい椅子・デスク・照明 を用意する

自宅にある椅子・デスクは、仕事向きとは限りません。ソファとコーヒーテーブルのような組み合わせはリラックスするには最適ですが、仕事で使用すると体を痛めてしまいます。椅子はしっかり足の裏が床についてかがみ込まずに済むもの、デスクは高すぎず低すぎないものを選びましょう。

照明については、机上で300ルクス以上の明るさが必要と言われます。しかし、感覚過敏の人にとっては、明るすぎる照明は負担になるかもしれません。本人の障害特性に合わせ、見やすくて明るすぎない照明を使いましょう。明るさを調整できる照明であれば理想的です。

必要な機器の貸与やセットアップ等のサポートを行う

仕事に必要なパソコン、スキャナ、プリンタ等を従業員本人が所持していない場合は、会社が貸与または支給する必要があります。もし従業員本人に準備してもらうなら、手当支給などを検討してください。

セキュリティ対策では、機密事項の漏洩に注意が必要です。VPN接続やウイルス対策ソフトを導入しましょう。それぞれの従業員がきちんと導入できるよう、サポートも必要です。

また、OSやソフト等のアップデートも適宜行ってください。アップデートのタイミングとやり方については、メールやチャットで従業員に指示を出しましょう。

その他、パソコンの扱い等を随時サポートできる体制が整っていると、テレワークでも安心して業務を行えます。

業務は1つずつ指示する

障害をもつ従業員の場合、業務遂行で最も気をつけなければならないのがマルチタスクです。原則として、マルチタスクになるような業務指示は行わないようにしましょう。

テレワークでは対面のコミュニケーションがないため、各従業員の抱えている業務量を把握しにくくなります。さらに、メールやチャットでの連絡は「とりあえず連絡しておく」「思いついたら送っておく」という状況が起こりやすいのも問題。これが放置されると、障害のある従業員にも複数のタスクが振られ、どんどん溜まっていくことになりかねません。

マルチタスク状態は混乱につながります。「たくさんあって、どれからやるべきか分からない」ため、精神的にも大きなストレスです。こうした事態を避けるために、1つのタスクが完了してから次のタスクの指示を出すようにしましょう。

適切にタスクを割り振るには、指示を出す人を決めておくとよいでしょう。「誰から指示をもらうか」「困った時に誰に相談するか」が明確であれば、障害をもつ従業員の抱えるタスクを把握しやすくなりますし、本人にとっても相談しやすい環境が整います。混乱や迷いが減れば、仕事の能率アップにもつながります。

相談しやすい環境づくり

メールや電話、グループチャット等で実際にどれを使うかは、障害特性に合わせて決めてください。精神障害者の場合、電話が苦手というケースも多く見られます。そうしたケースでは、メールやグループチャットをメインの連絡手段にするとよいでしょう。

相談しやすい環境とは、業務中は常にグループチャットなどの連絡ツールが立ち上げられていて、リアルタイムで連絡の送受信が行えるという状態が基本。ただ、常時接続だからといって「常にリアルタイムで」「頻繁に」連絡を取り合っていると、従業員の集中力を妨げてしまう恐れがあります。常時接続し、必要な時に必要な連絡のみを行うようにしましょう。

また、定期的なオンラインミーティングも重要です。自分から相談するのが苦手な従業員でも、相談する機会が設けられていれば話しやすくなるからです。仕事の進捗・できたこと・今後の予定などを共有し、困っている事がないかヒアリングを行いましょう。

一方で、必要最低限のコミュニケーションでは孤独感を抱える人もいるかもしれません。孤独感を緩和するには、仕事仲間同士の多少の雑談や、1日3〜4回のコミュニケーションが有効です。

テレワークの孤独感緩和に役立つツールでは「OKIワークウェルコミュニケータ クラウド」があります。特例子会社であるOKIワークウェルが自社で働く障害者のテレワークのために開発し、現場で使いながら改良してきたコミュニケーション支援ツールです。「『ちょっとちょっと』のコミュニケーション」がウリで、最大100名まで同時接続可能、機種やOSを問わず利用可能です。

【参考】
ワークウェルコミュニケータ|OKIワークウェル

テレワークのポイント(3) 仕事とプライベートのメリハリをつける

3つめのポイントは、在宅勤務で曖昧になりがちな仕事とプライベートのメリハリ。時間管理ツールの利用や生活習慣の形成、終業後の連絡ルールの明確化などが重要です。特に、太陽光を浴びることと終業後の連絡の制限は、生活リズムを整えるのに欠かせません。

起床時間、就業時間を守って生活リズムを整える

生活リズムを整えるには、まず人間の体の仕組みをうまく活用しましょう。たとえば、以下のように過ごすと睡眠を中心に生活リズムを整えやすくなると言われています。

<生活リズムを整えやすくする方法>

  1. なるべく同じ時間に起きる
  2. 朝、太陽の光を浴びる
  3. 適宜、体を動かす
  4. 夕食のあとは、なるべくテレビやスマホ、パソコンの光を見ない
  5. 就寝の1時間前に、ぬるいお風呂に入る

朝に太陽光を浴びるのは、ホルモンの分泌バランスを整えるためです。眠気を起こすホルモンが減り、夜の眠気に必要なホルモンの材料が作られると言われています。

日中に体を動かすことは、運動不足解消になるだけでなく、体温を上げて昼と夜のメリハリをつけることにも貢献します。ラジオ体操や軽い散歩などで十分です。気温の高い時間帯は熱中症に十分な注意を。基本的には、屋内や涼しい時間帯で行いましょう。

夜間は、強い光を避けます。強い光は眠気をさそうホルモンを減らしてしまうと言われているためです。また、ぬるいお風呂に入ると、出た後に適度に体温が下がって眠りやすくなります。熱いお風呂では交感神経が刺激されて目が覚めてしまうので気をつけてください。

障害者自立支援機器の活用

障害者が業務を遂行したり生活習慣を身につけたりするには、障害者支援機器の活用も有効です。

障害者支援機器にはさまざまなものがありますが、テレワークに使えるものとしては見やすいアナログのタイマーやiPadで使えるアプリなどがあります。

たとえば、「タイムタイマー」は手軽に使えるアナログタイマーで、残り時間が赤く表示されて視覚的に分かりやすいのが特徴です。タイムタイマーの最長時間は60分ですが、類似品では2時間まで設定できるものあり、作業時間や休憩時間の管理に使えます。

「指伝話」は、画像と文字を組み合わせて登録し、文字を合成音声で読み上げさせるアプリです。指伝話シリーズの1つ「指伝話ぽっぽ」はアラーム機能を備えており、指定した時刻に音楽や声で知らせてくれるため、スケジュール管理に便利。「指伝話プラス」を使えば、オリジナルのマニュアルやプレゼン資料も作成できます。

障害者自立支援機器については、以下の関連記事でも紹介しています。

(関連記事)
障害者就労支援における障害者自立支援機器活用のメリット
障害者在宅就労にも!障害者自立支援機器と好事例

導入ツールや制度づくりは厚労省の事例集を参考に

「障害者テレワーク(在宅勤務)導入のための総合支援事業」をはじめ、厚生労働省では多くのテレワーク事例集を公開しています。

最近公表された障害者雇用に関わるテレワーク導入事例集「都市部と地方をつなぐ障害者テレワーク事例集」の冒頭には、テレワーク導入や実施、労務管理などの実務的なガイドラインへのリンクも掲載。テレワークを前提として新たに障害者を雇用するのはもちろん、すでに従業員として働いている障害者に在宅勤務してもらう場合でも、とても参考になります。

これらの事例集には在宅勤務の一日の流れや体調管理方法について、現場の声も記載されています。

「これからテレワークを導入したい」「なんとかテレワークを続けたい」とお考えの事業主や人事担当者の方は、ぜひご覧になってみてください。

【参考】
都市部と地方をつなぐ障害者テレワーク事例集|厚生労働省

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