“AI×脳科学”BMIでパソコン操作を可能にする、アラヤの開発事業にPwC財団が助成


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“AI×脳科学”で「人類の未来を圧倒的に面白く」をスローガンとする株式会社アラヤ(以下、アラヤ)のBMI開発事業が、公益財団法人PwC財団(以下、PwC財団)の「助成事業2024年春期 人間拡張」に採択されました。

アラヤが開発するBMIの特徴、患者への身体的・経済的負担などについて、取締役・CRO(Chief Research Officer)の笹井俊太朗さん、サイエンスコミュニケーターの宮田さんに伺いました。


画像提供:株式会社アラヤ

アラヤのBMI開発事業とPwC財団による助成

PwC財団は、持続可能な社会の実現に向けて、社会課題に取り組む団体への助成を行っています。その中で「2024年春期 人間拡張」の助成では、BMIの活用により身体障害のある方や高齢者の身体機能の拡張、介護者の負担軽減を目指す活動を対象とし、1年間で1,000万円の助成を行います。

今回採択された3社の一つであるアラヤは、神経科学者である金井良太さんが2013年に創業。“AI×脳科学”でソリューションを提供するAI開発事業を展開しています。2020年から、内閣府ムーンショット事業のプロジェクトとして他の研究機関のメンバーとともに、BMIの実用化に取り組んできました。

アラヤが開発するBMIの特徴と想定ターゲット


アラヤ開発BMIの概要(「念ポチ」は仮称)
画像提供:株式会社アラヤ

「BMI」とは「ブレイン・マシン・インターフェース」の略で、脳とコンピュータをつなぐ機器・システムのこと。脳波を利用することで、身体を動かさなくてもパソコンやスマートフォンといった外部機器(インターフェース)の操作ができるようにする技術です。アラヤは、「困っている方々の課題をBMIで解決できないか」という問題意識から開発を続けています。

アラヤのBMIが最初にターゲットとするユーザーは、重度身体障害で身体が動かなくなってしまった人々、パソコンを使う際に多くの人が使用しているマウスやキーボードを使えない人々です。具体的には、脊髄損傷、脳卒中、ALS、多発性硬化症、脳性まひなどの患者を想定しています。

アラヤのBMIの特徴は、ユーザーの視線と脳波から、AIで視線の行き先とクリックするであろう場所を推定するシステムです。ユーザーの目線はカメラで追跡し、脳波はユーザーの頭に装着する機器で取得します。AIによる推定がプロセスに加わることで、ユーザー自身が「クリックしよう」と考えたとき、従来よりスムーズなクリックが可能になるとのことです。

これまでも、重度身体障害のある人向けに視線入力やグライドカーソルといったシステムが利用可能でした。しかし、「ずっと見ておかなければならない」「ずっと待っておかなければならない」などの課題があり、使いにくさが指摘されています。

アラヤのBMIではAIによる推定があるため、「ずっと待つ」時間が軽減されます。従来の視線入力のスピードは1分間あたり20キー(20回のクリック)ですが、アラヤはその2倍以上となる40キーの達成を目指しています。文章入力の場合、「予測変換と組み合わせれば、より速くなるだろう」と笹井さんは語ります。

こうしたスムーズな入力は、プレゼンテーションやオンラインでの会話にかかる時間を短縮し、円滑な操作・コミュニケーションを実現します。ユーザーが「こうしたい」と考え、その後間もなく操作が実現されることで、ユーザー自身の自己効力感を高めることにもつながるでしょう。

アラヤでは、こうした「考えるだけでクリックできる」BMIとともに、ユーザーの脳内の言葉を解読する技術も開発中です。昨年より、長時間の実験データを計測するために研究開発協力者をチームに迎えて行ってきた実験では、500個程度の候補文から開発協力者がどの文を頭の中で話しているかを当てるというものを実施。現段階で、70%程度までに正答率を高めることに成功し、世界的にも高く評価されました。

開発が進めば、日本語の50音について、ユーザーが「あ」と考えたら「あ」を入力できるようなシステムにしたいとのこと。現在開発しているBMIではユーザーの視線の追跡が必須ですが、50音の解読ができるBMIであれば、視線を動かせないユーザーでも使えるようになります。

アラヤ開発BMIのユーザーの負担・安全性・意思決定

社会実装されればパソコンやスマートフォン、タブレットなどを操作しやすくなるアラヤのBMI。ユーザーにかかる身体的負担、金銭的負担はどのくらいなのでしょうか。ユーザーの意思決定を尊重する仕組みについても伺いました。

ユーザーの身体的負担

ユーザーの身体的負担については、あまり大きくはありません。アラヤが開発するBMIは、脳波計を頭皮に装着するものであるため、侵襲度が低く、安全な構造となっているからです。

笹井さんによれば、脳波計を頭部に埋め込むほうが、圧倒的にきれいなデータが取れるとのこと。一方で、そうしたデータの「質」はデータの「量」でカバーできることも分かってきたそうです。

アラヤが実施するようなユーザーの脳内の言葉を解読する実験は、もともと埋め込み型BMIでなければ全くできず、外部に脳波計を装着する形で当てられるのは5%程度でした。しかし、ユーザーの脳波と発話の対応関係を分析するためのデータ量を10時間程度から100時間に増やしたところ、正答率が大きく向上。現在メインで開発を進めているクリック操作を行うBMIであれば、より簡単なタスクとなるため、高精度で実現できるとしています。

100時間分のデータは、一見非常に多くの時間がかかるように感じられます。ただ、1日5時間ほどパソコン・タブレットを使うとすれば1カ月に過ぎません。「脳波計を装着した状態で普段の生活をしてもらえれば、クリックに関するデータが取れる」と笹井さんは説明しました。

さらに、「多くのユーザーから取得したデータを使って訓練したAIを構築できれば、他のユーザーのBMIにも使える見込みがある」とのこと。AIの転移学習を利用するもので、基盤となるAIに新規ユーザーの脳波で再訓練・調整を行うというものです。

製品化の段階では、「ユーザーが耐えられる現実的な訓練時間で使えるようにしていきたい」としています。

ユーザーの経済的負担

ユーザーの経済的負担については、開発に使用しているものよりも安価な機器を想定しています。

現在、開発に使っている脳波計は、取得するデータのクオリティを担保するため、100チャンネルほどある高価な機器。しかし、そのままでは施設や個人が購入することは難しく、発売しても限られた人しか使えません。

アラヤでは、脳波計のチャンネル数を10チャンネル程度に減らし、かつ装着が簡単なものを開発したいとしています。データのクオリティについては、10チャンネル程度であっても「大体同じことができることが分かってきた」そうです。チャンネルを絞ったウェアラブルデバイスとして、数万円で入手できる機器の開発を想定しています。

意思決定を尊重する仕組み

アラヤのBMIは、AIによる推定を行うことが大きな特徴です。しかし、AIが推定してそのままクリックを実行してしまえば、ユーザーのやりたいこと(意思)と食い違ってしまうケースもあるでしょう。

このようなユーザーの意思を無視する事態を避けるため、本当にクリックするか否かについて、ユーザーの判断を待つ仕組みを導入しました。

例えばショッピングサイトで買い物をする場合、ユーザーの視線の動きと脳波から、選択される商品をAIが推定し、ユーザーが「クリック」と考えたときにスムーズにクリックされるようにカーソルが動きます。しかし、そのあとは「本当に買いますか?」などのダイアログを表示し、ユーザーの意思に反する場合は選択の取消し・やり直しができるようにします。

並行して開発を進めているBMIによる50音入力についても、ユーザーが「あ」と考えればカーソルが「あ」の部分に移動するものの、そこで自動入力することはありません。ユーザーが「クリック」と考えるなど、入力確定の信号を検出した際に入力を実行する2段階システムを採用しています。

アラヤによるBMIの開発背景

アラヤが開発するBMIは、パソコンやタブレットを操作する一般的な機器であるマウス、キーボード、あるいは指によるタッチなどを使えない重度身体障害者の方々に新しいコミュニケーションツールの選択肢として提供することを目指しています。従来の視線入力やグライドカーソルによる入力では「うまくクリックできない」「時間がかかり、目が疲れてしまう」といった課題を解決するために、BMIによる操作を実現しようとしてきました。

パソコンやタブレットは、現在のビジネス環境において欠かせない機器。ただ、これらを“健常者のように扱えない”ことが、重度身体障害者の就労、社会参画のハードルにもなっています。

こうした人々が「もう少し自由に社会参加できる」ためのシステムとして、視線入力やグライドカーソル以外の選択肢になり得ると考えたものが、BMIを使った“考えるだけで操作できるインターフェース”でした。

開発では、当事者の方々の声を大切に進めていきます。その第一歩として重度身体障害の当事者である小野克樹さんに研究開発メンバーとして参加してもらいました。小野さんが提供する脳波などの各種データやフィードバックを活かしながら、より使いやすいものを目指して開発を進めています。それには、脳波計を着けっぱなしにしても気にならないような「非常にカンファタブルで生体適合性が高いようなハードウェアの開発」も含まれていると笹井さんは語りました。

PwC財団がアラヤの開発事業に助成する理由も、こうした明確な問題意識と当事者の声の反映にあります。第一の評価は、重度身体障害の当事者である小野さんにインタビューをして、「マウスクリック」という課題に焦点を絞った開発をしていること。次に、BMIによる円滑なマウス制御がユーザーのコミュニケーションの即時性を高め、就労や社会参画、ひいては自己実現につながることです。また、コミュニケーションが取りやすくなったりユーザーによる自立的なマウス制御が可能になったりすることで、介護者の負担軽減にもなることも期待しています。

インタビューの終わりに、今回の取材に応じてくださったアラヤの笹井さん、宮田さんからメッセージをいただきました。

「我々の目標は、やはり皆様の助けになりたいということ。そのために一番大切にしているのが、何に困っているかを我々がちゃんと知り、ニーズ分析を行うことです。しかし、身体を動かせないことでコミュニケーションが取りにくいという現実がある。第一歩として、そうしたコミュニケーションの負担を軽減したいと思っています」(アラヤ・笹井さん)

「今、社会にある障害が多すぎて、アラヤのBMIが社会実装されたときに『どんなふうに使いたいか』を想像しにくいのではないかと思っています。また、同じ障害を感じている方でもテクノロジーをどのように使っていきたいかは一人ひとり異なります。まずは、この技術で社会にある障害・ハードルをどんどん下げていきたい。その先に、『こんなことしたい、あんなことしたい』ということが見えてくる気がしています。皆さんと一緒にコミュニケーションを取りながら、一人ひとりが自由に生きられる社会をつくっていければと考えています」(アラヤ・宮田さん)

現在、アラヤでは製品化に向けたプロトタイプの製作に取り組んでいます。これに関連して、実際にプロトタイプを使い、脳波のデータや使用感などの感想を提供してくれるテストユーザーを募集中。より多くのデータが集まれば、より精度の高いシステムの開発につながります。

プロトタイプの完成は2025年3月末頃を予定。完成前あるいは完成後にテストにご協力いただける当事者の方は、ぜひ以下のアラヤ公式ページからご連絡ください。

▼BMI実験参加者募集ページ
https://herp.careers/v1/arayainc/NlXz1yTDk72n

【取材協力】
株式会社アラヤ
公益財団法人PwC財団

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