【世界ALSデー】最新ALS治療薬「ロピニロール」とALS患者の現在地


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6月12日、東京都港区のトライセブンロッポンギにて、日本ALS協会と株式会社ケイファーマ(東京都港区、代表取締役社⾧:福島弘明)による対談会が行われました。この対談会は、6月21日の「世界ALSデー」に向けて開催されたもの。ALSの最新治療薬とALS当事者の現在地、これからの取り組みについて語られました。


画像提供:株式会社ケイファーマ、日本ALS協会

最新ALS治療薬「ロピニロール」は第Ⅲ相試験準備中

2024年6月12日、東京都港区にて、日本ALS協会と株式会社ケイファーマ(以下、ケイファーマ)による対談会が行われました。

日本ALS協会から恩田聖敬会長(オンライン参加)と伊藤道哉副会長、ケイファーマから福島弘明代表取締役社⾧と岡野栄之取締役CSO、司会としてケイファーマの松本真佐人取締役CFOが登壇。6月21日の「世界ALSデー」に向け、ALSの最新治療薬とALS当事者の現在地と、今後の取り組みについて語りました。

ケイファーマは、iPS細胞を用いた創薬(iPS創薬)と再生医療で注目される、慶應義塾大学発のバイオベンチャー。特にALS(筋萎縮性側索硬化症)に対する有効化合物をiPS創薬によって発見したことは世界初であり、アカデミアの研究成果を社会実装へとつなげています。

ALSは、運動ニューロンが何らかの原因で障害され、全身の筋肉が麻痺していく指定難病です。発症すると症状が進行し、それにつれて患者は人工呼吸器をつけるか否かという選択を迫られることになり、過酷な疾患として知られています。

現在、日本におけるALS特定疾患医療受給者証の所持者は約1万人。根本的な治療薬は見つかっておらず、患者の寿命を延ばす研究が進められてきました。

ケイファーマが治験を進めている最新の治療薬は「ロピニロール」(ロピニロール塩酸塩)です。ALS患者に対して実施された医師主導治験Ph Ⅰ/Ⅱaでは、安全性・忍容性・有効性が確認され、治験に参加したすべてのALS患者について、有害事象による中止なしに、最大容量(16mg)を服用できました。

病気の進行に関する評価では、ALS患者の日常生活における活動について、以下の12項目が用いられました。

【Ⅰ/Ⅱa相試験での活動に関する評価(ALSFRES-R)の項目例】

*各項目0〜4の5段階で評価

資料提供:株式会社ケイファーマ

これらの項目について、患者への聞き取りと実際の動作の観察を行い、各項目5点満点、合計48点満点で評価。得点の合計は「ALSFRES-R」として記録され、ロピニロール塩酸塩を服用した患者群とプラセボ群で比較を行いました。

1年間の治験期間を経て、プラセボ群ではALSFRES-Rが約18点低下したのに対して、ロピニロール塩酸塩を服用した患者群では7点程度の低下に抑えられたとのことです。結果、ロピニロール塩酸塩は病気の進行を約7カ月遅らせる可能性を示すとともに、最初の半年間で見ても、複数の筋肉における筋力低下や活動量低下が優位に抑制されたとのことでした。


資料提供:株式会社ケイファーマ

ロピニロール塩酸塩の治験で特徴的な点は、実験モデル動物を用いた薬効や安全性の確認を行う前臨床研究において、動物ではなくヒトのiPS細胞を用いた点にあります。

従来のやり方では、人間を対象とする臨床試験に至るまでに動物モデルを用いた試験が必要とされます。これには、大きなデメリットがありました。たとえ実験動物モデルで薬剤の有効性が確認されたとしても、人間とは薬効が異なるケースが多く、多大な時間とコストが無駄になってしまうことです。

一方、ヒトのiPS細胞(疾患特異的iPS細胞)を活用するケイファーマのやり方であれば、実験モデル動物を用いずに、直接試験管の中でヒトの細胞を用いた薬効確認ができます。実際、ロピニロール塩酸塩の前臨床研究では、ALS患者の血液細胞等からiPS細胞を樹立し、そこから運動ニューロンへと分化させて、治療薬の候補となる化合物のスクリーニングを行いました。これにより、大幅な時間とコストの削減ができたそうです。

現在ケイファーマは、新薬の申請・承認のひとつ手前の段階である第Ⅲ相試験にむけて、着々と準備を進めています。同時に、日本発のALS最新治療薬として世界の市場に展開すべく、外部アドバイザーとの連携や海外での特許取得も行いました。

ALSとは?初期症状と原因

先述の通り、ALSとは運動ニューロンが障害されて全身の筋肉が麻痺し、やがて呼吸機能も障害される指定難病です。現在、日本には約1万人のALS患者がいると考えられています。

ALSがどのような病気なのか、日本ALS協会の悉皆調査や今回の対談会の内容などから、確認していきましょう。

日本のALS患者に関する悉皆調査(日本ALS協会)

今回の対談会に登壇した日本ALS協会の伊藤副会長によれば、同協会には当事者858名、家族・親族が602名、合計3,300名が会員になっているとのことです。会員を対象に協会が実施した悉皆調査(2017年・2018年)によれば、患者の平均年齢や発症からの罹病期間、症状の重さなどは、下図のとおりでした。

【日本ALS協会による悉皆調査(2017年・2018年)】


資料提供:日本ALS協会
編集:障がい者としごとマガジン編集部

ALS患者の平均年齢は65歳程度、発症からの罹病期間は7.6年ほどです。重症度や障害程度の区分では、いずれも「重い」とされる患者が過半数を占め、人工呼吸器の装着率では、393例中48%が気管切開下陽圧換気(TPPV)であった一方、鼻や口にマスクを装着する非侵襲的陽圧換気(NPPV)は11%、人工呼吸器を装着しないことを選択した方は41%という結果でした。

他の調査項目には、ALS患者の療養場所や介護者の続柄などもあります。療養場所は、約8割が自宅療養を選択しており、1〜2人の家族が介護を行っていました。世帯人数が3人に満たない家族も多くあり、家族介護を前提とする環境になっています。

自身が罹病期間10年のALS当事者である日本ALS協会の恩田会長は、次のようにコメントを寄せました。

「現在、ALS患者の多くが人工呼吸器をつけずに死を選んでいます。医師も人工呼吸器をつけるかを意思確認するのが当然のように行われます。個人的にはこれは異常事態です。生きる術があるのに、それを選ばない患者の方が多いのです。医師も積極的には生きる方に誘導しません。一般論で考えても不思議な論理構成です。しかし、ALSでは、残念ながらこれが現在地です。当たり前に生きる選択が可能な社会を望みます」(恩田会長)

協会が2020年1月に実施した調査で「ALSの新薬にどの程度リスクを許容するか」と尋ねたところ、ALS患者の55.7%が「どんなリスクもいとわない」「リスクが高くてもかまわない」と回答しました。治療に有効な新薬が切に望まれています。

ALSの初期症状と病態メカニズム

ALSの初期症状は、どの部位に症状が出るかという観点から4つに分類されます。日本ALS協会の公式ページによれば、その分類と具体的な初期症状例は、下表の通りです。

【ALSの初期症状の例】

分類 初期症状の例
球麻痺型
  • 食べ物などを飲み込みにくくなる
  • 言葉を話しにくくなる
上肢型
  • 字を書きにくくなる
  • 箸がうまく使えなくなる
  • 腕をあげにくくなる
下肢型
  • 歩きにくくなる
  • 階段を登りにくくなる
  • スリッパが脱げやすくなる
  • こむら返りしやすくなる
呼吸筋麻痺型
  • 手足の筋力低下よりも、呼吸困難が先に現れる

出典:初期症状と診断|JALSA(日本ALS協会)

発症すると、大脳の運動ニューロン(上位運動ニューロン)と脊髄から口や手の筋肉につながる運動ニューロン(下位運動ニューロン)が障害され、次第に筋肉が動かなくなっていきます。

身体の違和感に気づいた患者は、最初はかかりつけ医や近隣の病院を受診したとしても、最終的には神経内科で診察・検査・診断を受けることになります。

ケイファーマの岡野教授は、この病態メカニズムには「前方障害仮説」と「後方障害仮説」の2つがあると説明しました。前方障害仮説は、上位運動ニューロンが過剰に興奮して細胞死に至るとする仮説。後方障害仮説は、下位運動ニューロンについて細胞死の前に軸索が変性するとする仮説です。また、ALS患者の5%には、認知機能異常(前頭側頭型認知症)も見られるとのことでした。

ALSの原因

ALSの原因は、まだ十分には解明されていません。遺伝するタイプとして「家族性ALS」が患者の1割ほどに見られますが、それ以外の9割は遺伝しない「後発性ALS」です。

家族性ALSのうち、約2割はSOD1(スーパーオキシド・ジスムターゼ)という遺伝子が原因で、他にFUSなどの遺伝子が関係している例があるとともに、原因遺伝子は人種や国でも異なるとされています。今回の対談会では、家族性ALSの原因遺伝子として、約30の遺伝子が言及されました。

後発性ALSについては、環境要因や非常に弱い遺伝的な要因が複数関与しているといいます。そのため、後発性ALSには多様性が見られます。

ただ、遺伝的な要因の中でも「RNAに結合するタンパク質を作るものは、凝集体を作りやすい」という共通の性質があるそうです。岡野教授によれば、これがALS全般に認められる異常であり、大きな原因になっているとのことでした。

ケイファーマが治験を進めるロピニロール塩酸塩は、後発性ALSの約7割の患者に対して有効性を示しました。臨床結果を用いた研究により、SREBP2依存性コレステロール生合成経路を抑制することが、ロピニロール塩酸塩が効果を発揮するメカニズムの一つであることもわかったそうです。

なお、「コレステロール」の合成を抑制すると聞くと、肝臓で合成される血中コレステロールのことを思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、ロピニロール塩酸塩が影響を及ぼすコレステロール生合成経路は、脳のアストロサイトにおけるものです。ロピニロール塩酸塩と血中コレステロールとの関係は不明であり、「コレステロールの高いものを食べないほうがいいという話ではない」(岡野教授)とのことでした。

待たれるALS治療薬の早期承認、患者の意思決定支援人材の育成


左:ケイファーマの福島社長
中:日本ALS協会の恩田会長(オンライン参加)
右:ケイファーマの岡野教授
画像提供(中・右):株式会社ケイファーマ、撮影(左)・編集:障がい者としごとマガジン編集部

ALS治療薬の研究・開発で、ケイファーマの岡野教授は多くのALS患者やその家族と接してきました。その中で、ALSの症状の進行や多様性に驚いたと岡野教授は言います。

「各々のALSの患者さんで、症状の進行の速さや、最初に現れる症状が非常に多様性があることに驚きました。多くの患者さんが病気と前向きに立ち向かって、とてもポジティブな姿勢を示されておられることに感動しました」(岡野教授)

ケイファーマがALS治療薬の開発を行う意義を問われた福島社長は、大手製薬会社では「やりたくてもできない」分野だからこそ、ケイファーマのようなスタートアップがアカデミアの知見を社会に実装する必要があると答えました。

「例えば社員数が1万人いる製薬会社でALSの治療薬を作るという話では、社員がご飯を食べていけない。だからこそ大学の画期的な発明をスタートアップが実用化することには、明らかな可能性と必要性があります。僕らは、まずはできることをやる。今回は、ALS治療薬の商品化を行い、患者様の元に届けられるような状況を作っていく。そして、いろいろな疾患についても、仲間たちと一緒にやっていければいいと思います。患者数が少ない疾患でも、困っている方がいらっしゃいますので、そこで対応していくことにケイファーマの存在意義があると考えています」(福島社長)

日本ALS協会の伊藤副会長も、「患者・家族の切なる願いは、ALSの画期的治療薬が開発され、薬事申請承認および薬価収載という一連のプロセスにかかる期間を半年ぐらいに縮められないか(日本ALS協会では「治療薬超速承認制度」と呼ぶ)ということです」と語ります。あらためて、こうしたALS治療薬への期待が非常に大きいことがわかりました。

一方で、伊藤副会長は、ALS患者を介護する家族、患者と家族を支援するヘルパーなどの重要性も指摘しています。

「家族介護を前提とした療養というのは、続かないわけです。生活の場が在宅であれば、介護保険のヘルパーの方、障害者総合支援法に基づくヘルパーの方に、ご家族の負担を軽減していただいている。その中で最も重要なのは、障害福祉の制度の重度訪問介護という制度です。
しかし、給付は市町村ごとの判断になっており、必ずしも給付が行われるわけではない。これが大きな課題となっております。
もう一つ、ALSの進行に伴って、ご本人の伝えたいことをきっちり読み取っていただくようなハイテクな機器類だけでなく、ローテクの人対人のやり取りを可能とする透明文字盤や口文字法といわれるコミュニケーション方法を担う人材の育成も大きな課題です。
ハイテクな機器類とともに、そうした人材の育成が強く求められていると思っています」(伊藤副会長)

患者との意思疎通、そして意思決定支援を担える人材を増やすため、「患者会としても努力を続けている」とのことです。こうした支援が強化されることで、ALS患者が社会により参加しやすくなり、また、活躍できる機会を増やせるのではないかと思いを語りました。

対談会終了後、編集部の取材に対して、恩田会長がALS患者の現在地とこれからについてコメントを寄せてくださいました。

【日本ALS協会 恩田会長コメント】
「ALSという病気が、極めて残酷な難病であるのは間違いありません。どれだけ強がっても、患者と家族は生活の中で絶望を感じることを避けられません。ALS前の人生を羨まずにはいられません。
しかし、人生の逆境は、決してALSだけではありません。あらゆる原因不明の病気で苦しんでいる当事者がおります。我々の希望は、ALSの根治薬を1秒でも早く服用することです。幸いにして、日本には国民皆保険があり、国が認めた薬なら自己負担を抑えて処方を受けることが可能です。
一方、薬の研究開発は世界中で進行しています。ALSも含めて、あらゆる病気の治療薬が、世界のどこで誕生しても、コロナワクチンのように可及的速やかに日本で保険適用される未来を求めて、国に訴えかけています。
みなさん応援よろしくお願い致します」

【取材協力、資料・画像提供】
株式会社ケイファーマ
一般社団法人 日本ALS協会

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