2022/12/16
【高次脳機能障害】休職したらどうする? 復職ためにやること・向いてる仕事の見つけ方
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けがや病気を原因とする脳損傷によって生じる認知障害は、高次脳機能障害と呼ばれています。それまでできていたことができなくなることがあるため、高次脳機能障害をもつ方には「また仕事に戻れるのかな」と大きな不安を抱える方も多いでしょう。今回は、高次脳機能障害をもつ方の復職の流れや、ご本人が復職のためにやること、向いている仕事の見つけ方を解説します。
もくじ
高次脳機能障害とは? まずは病院でリハビリを
高次脳機能障害とは、けがや病気で脳が損傷したことで起こる認知障害全般のことを指します。失語、失行、失認、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが主な症状です。
高次脳機能障害になると、それまでできていたことができなくなり、ご本人やご家族の方は困惑することが多いでしょう。特に記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などは、日常生活や社会生活に大きな影響を与えるケースが報告されています。
「早く日常生活に戻りたい」と感じるかもしれません。しかし、高次脳機能障害は脳の損傷が原因ですので、まずはそのけがや病気の治療が最優先。その後、検査等によって高次脳機能障害であると診断された場合は医学的リハビリテーションを行いながら、機能回復を目指して訓練を重ねていきましょう。
具体的なトレーニングの目標ややり方は個人差が大きいため、ある人に当てはまることが別の人には全く当てはまらないということも多いものです。そこで、医学的リハビリテーションでは、ご本人がもつ障害の状態や課題に合った訓練が段階的に実施されます。そうした訓練の一例が下表です。
<高次脳機能障害の医学的リハビリテーションの例>
分類 | 症状の例 | 訓練の例 |
記憶障害 | 約束したことを忘れる 物の場所がわからなくなる 作り話をする 同じ質問を何度もする 新しいことを覚えられない など |
反復訓練 環境調整 内的記憶戦略法 外的補助手段 その他の方法 |
注意障害 | イスや車椅子で寝ていることが多い 他人の部屋に入っていく 他人にちょっかいを出す 周囲の状況を考えない 作業を長く続けられない など |
最初は刺激を制限する 少しずつ刺激を増やす パズルを解く まちがいさがしをする カルタやトランプをする 電卓や辞書を使う 校正作業や集計作業を行う |
遂行機能障害 | 約束の時間に遅れる どの仕事も途中で投げ出す 誤った場所にメモする など |
行動や動作の組み合わせを練習する 解決方法や計画を一緒に考える 行動をパターン化する |
社会的行動障害 | 興奮して大声を出したり暴力を振るったりする 他人につきまとう 支援者に交際を強要する 不潔・だらしない行為をする 自傷行為をする 自分中心でないと満足しない など |
静かで疲れない環境の整備 問題に対してどう対処するか一緒に考える 適切な行動をとった場合に褒める・励ます 大声を発する場合、数分間大声を出し続ける 不適切な行動をとった場合、その時点でリハビリ担当者がしばらく姿を消すか、本人に訓練室の外に数分間出てもらう |
これらの訓練を通して機能を回復したり、失った機能を補う方法を習得したりしながら、新しい生活に慣れていきます。
高次脳機能障害でも復職できる? 復職準備は何をする?
高次脳機能障害となって休職した場合、医学的リハビリテーションを経て生活が安定すれば、復職に向けた準備を進めることができます。退院後、復職に向けた一般的な流れは、だいたい以下のようになります。
<高次脳機能障害をもつ方の一般的な復職の流れ>
- 在宅生活を安定させる(食事・トイレ・移動・生活リズムなど)
- ご本人の障害特性・課題を整理する
- 職業生活に向けて生活リズム(睡眠リズム)や健康管理を安定させる
- 仕事で必要な作業や行動を練習する・代替手段を習得する
- 集中力や注意力、コミュニケーションの方法など、仕事で必要になる能力を向上させる・代替手段を見つける
- 職場に配慮してほしいこと(指示の出し方、仕事内容、職場環境、労働条件など)を整理する
- 主治医、産業医、支援スタッフ、事業所の担当者などと相談・調整しながら職場復帰時期を検討する
- 可能であれば、リハビリ出勤を1カ月程度行う
- 事業所が本格的な職場復帰の可否を判断する
- 復職する
復職に向けた流れの中で、特にご本人が「何ができて、何ができないか」「やりたいことをできるようにするには、どのような工夫が必要か」を整理し、必要な作業や行動を習得したり、代替手段を習得したりすることが、とても重要です。
なお、障害の種類と課題への対処方法については、ある程度「こうすればできる」というパターンが知られています。それをまとめたのが、障害者職業総合センター(NIVR)で発行している「対処策リスト255」です。全ての方に当てはまるわけではありませんし、他にもさまざまなやり方が考えられますが、ひとつの参考としてぜひ確認してみてください。
<対処策リスト255に掲載されている工夫の例>
障害の種類 | 課題のタイプ | 対処策の例 |
注意障害 | ミスを減らす | 注目が不要な箇所はロールふせんで隠す
箇条書きの手順書を準備し、進んだところに目印(マグネットなど)を置く |
記憶障害 | 定型化 | 1日のスケジュールをできるだけ固定して過ごす
作業手順などは、繰り返して習慣化する |
遂行機能障害 | 作業の工夫 | 抱えている仕事とその期限の一覧表を作り、優先順位について目で見てわかるように整理する
作業の具体的な見本を机においておく |
半側空間無視 | (自己対処の工夫) | 全体を見直す習慣をつける
左側に物を置くと置き忘れがちな場合は、右側に道具の定位置を定める |
失行・構成障害・失認 | (環境調整の工夫) | 衣類の前後・表裏が分かりやすくなるような目印をつける
書字が難しくてもキーボードで入力できる場合は、できるだけキーボード入力を用いる |
易疲労 | (環境調整の工夫) | 休憩時刻を意識するためのメモを机に置いたり、アラームを活用したりする |
失語 | (自己対処の工夫) | ローマ字と仮名の対応表や50音配列のソフトキーボードを活用する
音声入力や読み上げ機能を使う 言葉のカードを会話場面で提示し、意思を伝える |
社会的行動障害 | ストレス対処法の習得 | 行動する前に心の中で1秒数え、待ってから行う習慣をつける
いったんその場から離れる |
ご自身ができること、何らかの工夫があればできること、やるのは難しいことなどを把握・整理しておくことで、事業所の担当者や上司の方もどのような仕事を任せられるかの適切な判断にもつながるでしょう。
ご本人やご家族だけで障害の状態や対処策の整理に取り組むのは大変ですので、できれば支援機関の復職プログラムなどを利用してみてください。どのような機関で高次脳機能障害をもつ方向けの復職プログラムを実施しているかは、本記事の終わりにあらためてご紹介します。
自分に向いている仕事を見つけるには
高次脳機能障害をもつ方がどのような仕事ができるかは、障害の状態や使える代替手段、職場環境、作業に必要なスキルとご本人が使えるスキルのバランスなどによって異なります。そのため、復職に向けた職業リハビリテーションの中で「何ができるか」を見極めていくことが重要です。
ただ、仕事を検討する上でいくつかのポイントはあります。以下の3つのポイントを押さえた業務であれば、比較的取り組みやすくなるでしょう。
<高次脳機能障害をもつ方向けの仕事のポイント>
- ルーチン化した手順で遂行できる
- 支援メンバーや同僚のサポートを受けやすい環境がある
- 手順を覚えやすい
具体的には、
- 判断基準が明確か、複雑な判断が不要な仕事
- 過去に経験があり、慣れている仕事
- 専門知識がなくてもできる仕事
が候補になりやすいでしょう。
復職プログラムなどにおける訓練をとおして「できること」を強化しつつ、その能力で遂行できる作業にはどのようなものがあるかを探していきましょう。
職業センター「復職プログラム」、就労支援機関のリワーク支援の活用も
復職への準備をするには、NIVRの職業センターで実施している高次脳機能障害をもつ方を対象とする「職場復帰支援プログラム」や「就職支援プログラム」の利用が便利です。利用をご検討の際は、地域の障害者職業センターに問い合わせてみるとよいでしょう。
他には、一部の病院や就労移行支援事業所、就労継続支援事業所などでも、高次脳機能障害をもつ方の復職(リワーク)を支援しています。
- 生活リズムを整える
- 使える能力を活かした作業を見つける
- 苦手な部分をさまざまな工夫によって補う
- 仕事に役立つ資格を取得する
- 事業所との調整や面接の準備をする
など、事業所ごとに得意なことがありますので、まずは利用したい病院や事業所の窓口に相談してみてください。就労支援事業所については、当編集部でも一部をリンク集としてまとめています。
この「障がい者としごとマガジン」の編集部がある「ルミノーゾ」でも、東京都や神奈川県で高次脳機能障害をもつ方の復職を支援しています。ぜひお気軽にご相談ください。
【参考】
NIVR『実践報告書No.40 高次脳機能障害者の復職におけるアセスメント』
JEED『障害者雇用マニュアル6(コミック版) 高次脳機能障害者と働く』
高次脳機能障害情報・支援センター