【障害者雇用代行ビジネス】厚労省が規制・指導の方針、何が問題か?


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障害者雇用を代行し、雇用する企業の事業所以外の場所で障害者を就労させるという、いわゆる「障害者雇用代行ビジネス」について、厚生労働省が新たな規制や利用企業に対する指導の方針を検討しています。

2025年12月1日「第11回 今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」で示された障害者雇用代行ビジネス事業者および利用企業の実態と問題点を解説します。

農園イメージのアイキャッチ画像。 「厚生労働省、障害者雇用代行ビジネス規制・利用企業指導の方針、障害者雇用代行ビジネスの4つの問題点」

障害者雇用代行ビジネスとは?なぜ増加しているのか

障害者雇用代行ビジネスの実態に関するまとめ図。詳細は、以下本文。

障害者雇用代行ビジネスは、障害者の実雇用率を上げたい一般企業と働きたい障害者をターゲットとするビジネスモデル。障害者の採用・就業場所提供・業務割り当て・現場支援などを代行し、利用企業側が現場の指揮監督や障害特性に応じた支援をほとんど行わない点に特徴があります。

はじめに、障害者雇用代行ビジネスとは何か、厚生労働省が把握するビジネスモデルをもとに確認していきましょう。

障害者雇用代行ビジネスとは

企業における本来の障害者雇用は、企業が障害者を雇用し、雇用された障害者は在籍企業の事業所で働くという形で行われます。

障害者の業務内容は、自社の事業活動における各種業務から、本人の障害特性や得意・不得意、希望を考慮して決定されます。スキルの習得によって職域拡大を目指したり、服薬・通院などの体調管理と仕事を両立させるために休憩時間を調整したりするのが、一般的な進め方です。

職場での支援を行うのは、企業で雇用される担当者やジョブコーチ、同じ職場の上司や支援メンバーなど。必要に応じて、産業医や主治医の意見も仰ぎます。

障害者雇用代行ビジネスは、“利用企業が障害者を雇用する”という雇用契約の締結を除き、障害者の採用・就労に関わるほとんどの活動を代行するビジネスモデルです。例えば、次のような活動があります。

【障害者雇用代行ビジネスが代行する業務例】

  • 求人情報の作成
  • 採用する障害者の選定
  • 就業場所の設置(利用企業の事業所以外の場所)
  • 障害者の就業場所の決定
  • 障害者の労働時間・業務内容の決定
  • 障害者の賃金基準の設定
  • 就業場所での業務の指揮監督
  • 障害者に対するスキル研修

これらの代行内容から推測される通り、障害者雇用を一般企業で進める際に必要な多くのプロセスが、利用企業の外で行われることになります。実態として、代行業者にほぼ“丸なげ”にしている企業もあるようです。

厚生労働省資料の引用。障害者雇用に関するビジネスモデルの例の図解。
画像出典:「事務局説明資料 障害者雇用の質について(いわゆる障害者雇用ビジネスについて)」(厚生労働省)

企業側の社員と雇用された障害者が顔を合わせる機会は少なく、企業側に障害者雇用のノウハウが蓄積されません。会う機会が少ないため、企業の事業所で働く従業員との関係性も築かれない例が多く見られます。障害者雇用が目指す「障害の有無にかかわらず働きやすい職場づくり」は、絵に描いた餅のまま。その一方で、企業は法定雇用率を達成できるという仕組みです。

なぜ障害者雇用代行ビジネスは増加しているのか

障害者雇用代行ビジネスは、この2023年3月末から2025年10月末の間で約2倍の事業者数となり、厚生労働省が把握しているだけでも、のべ1,800社以上の一般企業が利用しているといいます。なぜ、これほど多くの企業が利用しているのでしょうか。

障害者雇用代行ビジネスが増加する理由として厚生労働省があげたのは、法定雇用率達成のハードルの高さです。具体的には、障害者を対象とする採用活動、職務選定・創出、合理的配慮の実施、本人に合う育成方法などでつまずいていることが多いようです。

要因は、障害特性の十分な把握やノウハウ不足であると指摘されています。世界的なインクルージョンの要求に対応できるような知識・スキルのインプットと実践が、企業の現場ではなかなか達成されない状況が続いているといえるでしょう。

こうした障害者雇用で乗り越えなければならないハードルを自社で乗り越えるのではなく、「他の事業者に任せてしまおう」という発想から、障害者雇用代行ビジネスに注目が集まっています。

障害者雇用代行ビジネス利用の実態(厚生労働省の調査から)

「第11回 今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」では、障害者雇用代行ビジネスの実態調査について、直近の調査結果も共有されました。障害者雇用代行ビジネス事業者や就業場所の数、産業別の利用企業数などです。

「障害者雇用代行ビジネス事業者の実態」に関する図解。内容は、以下本文。
参考:「事務局説明資料 障害者雇用の質について(いわゆる障害者雇用ビジネスについて)」(厚生労働省)

障害者雇用代行ビジネス事業者の実態

障害者雇用代行ビジネス事業者の数は、2023年3月末では23事業所だったところから、直近の調査結果である2025年10月末には46事業者に増加しました。2年足らずの短期間で2倍となっています。

事業者が設置する就業場所は、全国で221カ所。約7割が農園(153カ所)、約2.5割がサテライトオフィス(56カ所)です。58カ所の就業場所を運営している事業者も見られました。

就業場所の設置数を都道府県別に見ると、最も多いのが埼玉県、次が東京都や神奈川県となっています。

【障害者雇用代行ビジネスの就業場所設置数が多い都道府県】

  都道府県 就業場所
合計設置数
(農園設置数) (サテライトオフィス
設置数)
1位 埼玉県 37カ所 29カ所 6カ所
2位 東京都 26カ所 15カ所 9カ所
3位 神奈川県 26カ所 18カ所 7カ所
4位 大阪府 24カ所 15カ所 5カ所
5位 千葉県 23カ所 22カ所 1カ所

第6位以下には愛知県(14カ所)、福岡県(12カ所)が並んでおり、都市部とその近郊で拡大していることがわかります。

利用企業の実態

障害者雇用代行ビジネスの利用企業についても、産業別や企業規模別の数が報告されています。ただし、利用企業数については厚生労働省が把握したのべ企業数であることに要注意。一部の就業場所については利用企業数を把握できなかったり、同一企業が複数の就業場所を利用している関係で重複計上されていたりします。

そのうえで利用企業数を見ていくと、2023年3月末の時点では1,081社だったものが、2025年10月末には1,800社以上に増加。厚労省が把握した中で利用企業数が最も多かった就業場所では、29社が利用していました。また、複数の障害者雇用代行ビジネスを利用する企業が6社あったとのことです。

企業規模別に見ると、従業員数が多い企業ほど障害者雇用代行ビジネスを利用する企業の割合が増えています。例えば、従業員数100人未満の企業が利用企業に占める割合は3.4%であるのに対し、1,000人以上の大企業は38.9%と最も大きな割合となりました。

産業別では、製造業の企業による利用が最多であり、次に卸売・小売業、情報通信業と続きます。

【障害者雇用代行ビジネス利用企業の産業別割合】

  業種 利用企業に占める割合
1位 製造業 24.9%
2位 卸売・小売業 17.1%
3位 情報通信業 10.9%

なお、産業全体に占める割合と比較すると、障害者雇用代行ビジネス利用企業に占める割合が大きい産業に、金融・保険業が見られます。2024年の障害者雇用状況報告における産業別割合では全体の1.3%に過ぎません。しかし、障害者雇用代行ビジネス利用企業の中では、それを上回る5.0%を占めました。

障害者雇用代行ビジネスの4つの問題

障害者雇用代行ビジネスの利用には、大きく分けて4つの問題が指摘されています。

【障害者雇用代行ビジネスの4つの問題】

  • 障害者雇用によるインクルージョンが進まない
  • 成果物による収益がほとんど見込まれない
  • 障害者の能力向上や戦力化に支障を来す
  • 障害者に就職先の選択権がなく、無期転換ルール回避に悪用される

順番に見ていきましょう。

障害者雇用によるインクルージョンが進まない

障害者雇用の推進は、障害があることを理由に差別が起こる社会をなくし、障害の有無にかかわらず共に働ける環境の実現を理念としています。しかし、障害者雇用代行ビジネスの利用は、障害のない従業員と障害のある従業員を別の場所で働かせ、自社では共に働くための環境づくりを行わないことを常態化させやすいことが課題です。

雇用企業の事業活動の内容に応じた業務の切り出しが行われることは少なく、農園型であれば、どの利用企業の従業員であっても農業に関わる業務を行うことになります。雇用されている企業の従業員との接点はほとんどなく、その職場を知る機会も非常に少ないでしょう。

労働時間は、雇用企業の規定ではなく、障害者雇用代行ビジネス事業者が設置した就業場所の営業時間および送迎バスの運行時間に合わせて決定されるようです。賃金についても、障害者雇用代行ビジネス事業者が、同一就業場所で働く他の利用企業の従業員と格差が生じないよう助言・推奨しており、必ずしも雇用企業の賃金規定が適用されるわけではありません。

そして、現場の業務指示は障害者雇用代行ビジネス事業者のスタッフが行い、雇用企業の管理者はあまり顔を見せません。しかも、複数の利用企業の労働者が混在した状態で働いており、就業場所の出勤者全員で作業を分担しているといいます。

結局、雇用とは名ばかりであり、障害者が特定の場所に集められ、雇用企業の本業とは関係のない作業を所属にかかわらず一緒に進めている状況です。

成果物による収益がほとんど見込まれない

障害者が生み出した成果物も、雇用企業の事業活動にはあまり活用されていません。農園型であれば、成果物は農作物。利用企業の社員に配付するなど福利厚生の一環として利用されることもありますが、残念ながら利用されずに破棄される例も見られます。

現在、企業の多くは仕事における「やりがい」や従業員の「ワーク・エンゲージメント」に心を砕いています。ところが、障害者雇用となると「成果物を捨てる」「事業では重要度の低い仕事として扱う」ことは、あまり問題にされていないようです。

こうした姿勢は、「成果物を事業活動に利用する」という意識を遠ざけてしまいます。厚生労働省の言葉を借りれば、障害者雇用が「ただのコスト」になってしまうのです。

障害者雇用の促進によって「誰もが働きやすい職場づくり」のノウハウを得る考え方がないため、「コストでしかない障害者雇用は、外注してしまえばいい」という悪循環を加速させる恐れがあります。「中長期的な我が国の障害者雇用の進展にとって負の影響をもたらすことが懸念される」と、厚生労働省も述べました。*

* 出典:「事務局説明資料 障害者雇用の質について(いわゆる障害者雇用ビジネスについて)」(厚生労働省)p.13

障害者の能力向上や戦力化に支障を来す

障害者の「やりがい」や「ワーク・エンゲージメント」を無視する雇用は、一人ひとりの能力に合う業務の割り当てやキャリア形成の重要性も無視してきました。障害者の多くは、安定的な雇用や能力向上、自身が発揮するパフォーマンスへの評価・処遇への反映を望むとともに、「周囲の人や社会の役に立ちたい」と考えています。*2

しかし実態は、障害者雇用代行ビジネス事業者による固定的な業務内容の割り当てと利用企業による“丸投げ”。障害者の能力向上や戦力化が進まない原因を自ら生み出しているといえるでしょう。

*2 出典:「事務局説明資料 障害者雇用の質について(いわゆる障害者雇用ビジネスについて)」(厚生労働省)、p.18

障害者に就職先の選択権がなく、無期転換ルール回避に悪用される

最も残念な問題が、障害者雇用代行ビジネスの利用が障害者の“たらい回し”に使われる例があることです。

例えば、障害者雇用代行ビジネス事業者の一部の公式サイトには、以下のような記述が見られたといいます。

【障害者雇用代行ビジネス事業者の公式サイトの記述例】

  • 障害者に対して「就職先の企業は選べません」と述べる
  • 利用企業に対して「無期転換ルールの適用へのリスクがない」と述べる

後者の例については、雇用契約期間が5年に達しないうちに契約を終了し、対象障害者は別の利用企業へ転職させるという形をとることがあります。

また、厚生労働省の資料にあった例は、最初の1年間について雇用契約を結び、その後は代行ビジネス事業者が障害者にパソコン研修を受講させ、研修終了後に利用企業が雇用継続の有無を判断するというものもありました。利用企業が雇用を終了する場合、対象障害者はやはり他社へ転職することになります。

障害者雇用では、障害者の安定した就労を実現することも重要な施策の1つ。それにもかかわらず、障害者雇用代行ビジネスにおいては、対象障害者の雇い止めを提案し、転職を繰り返させるビジネスモデルを掲げるところがあるということです。

厚生労働省はガイドライン作成と規制・指導の方針

障害者雇用の理念とは正反対の効果を見せている障害者雇用代行ビジネス。問題の大きさと中長期的な悪影響への懸念から、厚生労働省は障害者雇用代行ビジネス事業者と利用企業に向けたガイドラインを作成する方針です。

具体的な内容は検討中ですが、無責任な障害者雇用の丸投げや法定雇用率達成のみを目的とする雇用契約などを規制する施策も。そこには、利用企業への指導も含まれます。

障害者のディーセントワークを実現し、障害の有無にかかわらず共に社会の一員として働ける日本とするために、今改めて障害者雇用の「質」が問われています。

【参考・データ出典】
「事務局説明資料 障害者雇用の質について(いわゆる障害者雇用ビジネスについて)」(厚生労働省

【素材提供】
農地写真:nanohana/ PIXTA(ピクスタ)
日本地図:ちべ/ PIXTA(ピクスタ)

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