2022/08/02
アビリンピック過去問題|第40回全国(2020)義肢・歯科技工
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義足や義手、入れ歯などは、日常生活の支えとなると同時に見た目にも大きな印象を与える重要なもの。これらを製作する技能を競うのが、アビリンピック競技種目「義肢」および「歯科技工」です。高度な専門的技能を駆使し、限られた時間内で機能性・安全性・見た目の美しさなどを高めていきます。今大会では、「歯科技工」で新しい競技課題が出題されました。
もくじ
2020年度の「義肢」は昨年と同課題、「歯科技工」は新課題に
2020年度全国アビリンピックで行われた競技種目「義肢」と「歯科技工」は、どちらも失った体の一部を補うものを製作する競技。見た目の印象に大きな影響を与えるとともに、日々の使用に耐えられる丈夫さや機能性、安全性が重視されます。
「義肢」の課題内容は昨年と同じでしたが、「歯科技工」では新しい課題で競技が行われました。各競技の制限時間、競技で使用する材料や器具等を見ていきましょう。
「義肢」の制限時間・評価ポイント
全国アビリンピックの競技種目「義肢」では、毎年、義肢を使う際に失った脚の切断部分に装着する「ソケット」を製作する課題が出されています。支給される材料と会場側で用意される設備、選手が持参する道具を用いて製作を進めます。今年の競技課題も昨年の大会と同じ内容でした。
「義肢」の制限時間は、標準時間が4時間15分、打ち切り時間が4時間45分です。標準時間をオーバーすると減点対象となります。2020年度の大会では、前半が10:00-13:00、後半が14:00-15:45というスケジュールで実施されました。
「義肢」の評価ポイントは、
- 素材の特性を捉えて製作しているか
- ソケット本体の寸法精度は正確か
- 「注型法」の加工法の技術
- 強度は実用において十分か
- 美しく仕上がっているか
- 安全に作業を進められているか
などです。
競技本番前日には選手による会場の下見が行われます。下見では、会場側で用意される設備等の確認や調整、持参した工具類の確認、競技エリア内での移動経路の確認などを行いますので、選手は必ず下見を行う必要があります。
今大会の参加選手は3名。全員が規定時間内にソケットを完成させ、入賞は銅賞1名となりました。
「義肢」の課題概要と競技で使用するもの
義肢」の競技課題は、義肢を使用する際に最も重要となる「ソケット」の製作。例年通り、今年も下腿義足のソケット製作が課されています。義肢の使用者が安全に、かつ安心して義肢を使えることを常に意識しながら製作を進めていくことが最も重視される競技です。
下腿義足ソケット製作にあたっての仕様は、以下のようになっています。
<下腿義足(PTB式)ソケット製作の仕様>
項目 | 指示内容 |
陽性モデルの除圧部 |
|
陽性モデルの軟ソケット用スポンジ | 5枚以上に分割して貼る |
陽性モデルにかぶせるストッキネットとテトロンフェルト | ストッキネットは4枚
テトロンフェルトは2枚 |
積層加工 |
|
トリミング | 製作した下腿義足ソケットの上縁、軟ソケットは適切なトリミングをする |
ギボシの取り付け | ソケットにカフベルト用ギボシを取り付ける |
支給材料と会場に用意されるものは、以下のとおりです。
<支給材料>
品名 | 規格等 | 数量 |
陽性モデル | 完全乾燥したもの | 1 |
牛革 | リリーフ用
3×230×230 |
1 |
ビニルレザー | 0.7×400×400 | 1 |
スポンジゴム | 黄色のウレタンスポンジ
3×400×400 |
1 |
PVAフィルム筒 | 支給モデルに応じたサイズのもの
#6000 |
2 |
PVAフィルム | PVAフィルム筒のふた用
#6000 、200×200 |
1 |
アクリル樹脂 | 硬性80%、軟性20%で混合済 | 適量 |
硬化剤 | アクリル樹脂用 | 適量 |
ストッキネット | 70×3000 | 1 |
テトロンフェルト | 400×400 | 2 |
ギボシ | 義肢用 | 2 |
<会場に用意されているもの>
品名 | 規格等 | 数量 |
作業台 | 1 | |
カービングマシンまたはサンディングマシン | 2人で共有 | 1 |
万力 | 作業台に取り付け済 | 1 |
電動ドリル | 2人で共有
3.2mm、4.0mm、各2本付 |
1 |
ミシン | 2人で共有 | 2 |
真空ポンプ | 1 | |
台ばかり | 1kg用・2人で共有、樹脂用 | 1 |
紙コップ | 500ml程度、樹脂用 | 1 |
PVAフィルム用接着剤 | 適量 | |
タルク | 適量 | |
アセトン | 500cc | |
直尺 | 300mm程度 | 1 |
巻尺 | 1500mm程度 | 1 |
ビニルテープ | 1巻 | |
研磨紙 | 1 | |
ひも(丸うち) | φ3mm、長さ600mm | 1 |
タオル | 1 | |
接着剤 | 150g程度
スポンジ接着用、へらと刷毛付き |
1 |
ガラス板 | 150mm×150mm | 1 |
割箸 | 樹脂かくはん用 | 必要量 |
麻糸 |
一方、選手が持参する用具類も多いため、忘れ物がないよう十分に確認してください。
<選手が持参するもの>
品名 | 規格等 | 数量 |
裁ちばさみ | 1 | |
裁革刃 | カッターナイフでも可 | 1 |
ドライバー | +、− | 適宜 |
ハーネスクランプ | 義肢用クリップ | 5 |
たがね等 | ソケットせっこう割出し用 | 1 |
ハンマ | 金工用 | 1 |
樹脂ハンマ | ゴムハンマでも可 | 1 |
角度計 | 1 | |
ギプスカッター | 1 | |
ヒートガン | 1 | |
チョークまたは鉛筆 | スポンジゴムに転写できるもの | 1 |
千枚通し | これに類するものでも可 | 1 |
パイプホルダー | 1 | |
油粘土 | ソケット安定支持用 | 適宜 |
センタポンチ | 1 | |
スケール | 300mm程度 | 1 |
巻尺 | 1500mm程度 | 1 |
ずは4時間半の中でソケットを完成させるための工程や時間の管理、安全に製作を進めるためのポイントなどを押さえましょう。
大会での講評では、実用に耐えるソケットづくりに向けて技術を高めるため、限られた時間の中、各工程で丁寧に作り込んでいくことが大切であるというアドバイスがありました。
「歯科技工」の制限時間・評価ポイント
2020年度の全国アビリンピック競技種目「歯科技工」では、昨年と異なる課題「硬質レジンジャケット冠」と「部分入れ歯」の製作が出題されました。特徴的な歯の形をしているため、これまでにない難しさを感じた選手もいたかもしれません。
参加選手には事前に模型などが送付され、それを用いて選手は練習を行うことができます。模型は本番当日でも使用するものです。
競技の制限時間は5時間。最後の30分間に作品提出を行います。2020年度は前半9:00-12:00、後半13:00-15:00で競技が行われ、作品提出ができるのは14:30-15:00でした。
ただし、スチームクリーナーによる模型洗浄作業は15:00以降も可能です。
「歯科技工」の評価ポイントは
- 歯並びの状態や形が自然に仕上がっているか
- 顎が動いても邪魔にならないか咬み合わせになっているか
- 歯を失って痩せてしまった歯茎の形態を回復させているか
- 美しく仕上がっているか
などです。
本番で使える器具類の中には、自分が使い慣れたものを持ち込めるものもあります。競技前日の会場下見で、それらの器具類の確認とセッティングを選手自らが行います。
今大会には歯科技工士免許を取得した5名の選手が参加し、1名が金賞を受賞しました。
「歯科技工」の課題概要と競技で使用するもの
今大会の「歯科技工」の競技課題は、「硬質レジンジャケット冠」と「部分入れ歯」の製作。「硬質レジンジャケット冠」の製作では、処置が施された部位3か所に硬質レジンを盛り上げます。一方、「部分入れ歯」の製作では、歯を失った部分に人工歯を並べて咬み合わせるという内容です。
選手には競技の1か月前に咬合器と材料が送付されるため、それらを用いて「競技課題A」に記載された課題内容にそって練習を重ねます。競技課題Aの内容は、硬質レジンジャケット冠は21|4支台歯模型上に製作、部分床義歯は|567欠損部のレジンプレート上に製作するというもの。競技本番に配布される「競技課題B」でも、同じ部分について製作する内容が出題されました。
ただし、練習用の硬質レジン臼歯は2種類が送付されます。本番で使う硬質レジン臼歯は、事前練習で用いたうちの1種類のみ。どちらが配布されてもよいように両方で練習するほうがよいでしょう。
<本番1か月前に送付されるもの>
- 咬合器
- 松風ハンディⅡA
- 模型(咬合器に装着)
- 21|4可撤式支台歯模型
- マージン部赤鉛筆で印記、石膏表面硬化剤塗布しているもの
- レジンプレート
- 光重合型硬質レジン
- 硬質レジン臼歯2種類競技当日の課題内容は、事前課題よりもやや細かく仕様が指定された内容となっています。<競技当日の課題概要・要件等>
項目 指示内容 製作する物 硬質レジンジャケット冠(21|4支台歯模型上に製作) 部分床義歯(|567欠損部のレジンプレート上に製作)
支台歯模型 赤色でマージンライン印記済 石膏表面硬化剤塗布済
硬質レジンジャケット冠 シェードA3、単冠で製作 艶出し研磨 バフまたは光重合滑沢硬化剤のどちらも使用可 粘膜面は研磨不要
|4 |5の隙間 作品評価の対象外 レジンプレートの適合 作品評価の対象外 咬合接触 咬頭嵌合位において前歯の強い接触は避ける 咬合様式は指定なし(ただし削合調整して下顎運動を考慮する)
使用人工歯 松風ベラシアSA ポリステア 形態:S34
色調:A3
咬合器は競技本番でも使用するため、忘れずに持参してください。なお、競技本番前に製作したものは一切使用できないため、競技時間内で全て製作する必要があります。効率的に製作を進められるよう、選手は以下に認められる範囲内で普段使い慣れた器具類を持ち込むことも可能です。
<競技本番用に選手が持参するもの>
品名 規格等 数量 咬合器 主催者から送付されたもの 1台 レジン築盛、形態修整、研磨等に必要な器具類 バー、ポイント、ダッペングラス、筆など 任意 その他 必要なもの
分離剤、研磨剤、ワックスなど 任意 その他 持ち込みが認められるもの
光重合型硬質レジン、常温重合レジン、拡大鏡、仮重合器、技工用エンジンなど 任意 今大会で競技本番用に支給された材料と会場に用意された設備等は、以下のとおり。練習の際もこれらの材料、設備等を念頭に置きながら製作しましょう。
<本番で支給された材料>
品名 規格等 数量 上下顎石膏模型 主催者が製作したもの 1組 上顎レジンプレート 主催者が製作したもの 1組 上顎臼歯部 硬質レジン人工歯 松風ベラシアSA 1組 常温重合レジン 松風プロビナイスファスト 8S 粉液 適量 光重合型硬質レジン 松風ソリデックス A3B、59 松風ソリデックス A3オペーク
各1本 光重合型滑沢硬化剤 GC ナノコートラボ 1本 咬合紙(赤) アルティフォル咬合フィルム 片面22mm 適量 コア用シリコーン GC ラボコーンパテ 適量 インレーワックス GC スティック グレー ソフト 適量 <会場に用意される設備類>
技工作業机・OAチェア ゴミ入れ用ビニル袋 電気スタンド(卓上式) 電気スタンド(クランプ式) 技工用ハンドエンジン スチームクリーナー エアーダスター (スプレー式)
ポータブルガスバーナー (カセットボンベ式)
湯沸かしポット 光重合器 研磨ボックス デンタルタオル マスク 雑巾 金賞を受賞した方は、日頃の製作で得た助言などをもとに技術を磨き、経験を積み重ねてきたとのこと。また、職場での支援や家族の応援で安心して競技に臨めたと語りました。