【障害者雇用代行ビジネス】厚労省の方針、「質」の中心的要素とガイドライン案


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企業の障害者雇用について、採用から現場の指揮監督・雇用管理まで代行する、いわゆる「障害者雇用代行ビジネス」。利用企業側の“丸投げ”による影響への懸念から、厚生労働省は新たに代行事業者と利用企業に向けたガイドラインを策定する方針です。

2025年12月1日「第11回 今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」の資料から、障害者雇用の「質」を確保するために重要なポイントとガイドライン等の方向性をご紹介します。

障害者雇用代行ビジネスが急成長、問題点が浮き彫りに

障害者雇用ビジネスの問題点の図。詳細は、以下本文。

障害者雇用代行ビジネスは、障害者を雇用したい一般企業と働きたい障害者をマッチングし、就業場所の提供や現場支援、雇用管理などを代行するビジネスモデル。2025年10月末の実態調査では、この1年半で事業者数が2倍となり、全国に設置された就業場所は221カ所にまで増えたといいます。就業場所の約7割が農園です。利用企業の数は、厚生労働省が把握する範囲でのべ1,800社以上に増加しました。

障害者雇用代行ビジネスで問題視されている点は、大きく分けて次の4つです。

【障害者雇用代行ビジネスの4つの問題】

  • 障害者雇用によるインクルージョンが進まない
  • 成果物による収益がほとんど見込まれない
  • 障害者の能力向上や戦力化に支障を来す
  • 障害者に就職先の選択権がなく、無期転換ルール回避に悪用される

障害者雇用代行ビジネスでは、「雇用」の契約をしてはいるものの雇用する企業と障害者の接点は少ないという実態があります。

雇用する企業が行う事業とは無関係に、雇用代行ビジネス事業者が用意する業務が障害者に割り当てられるケースさえ見られます。特に農園型でこの傾向が強いようです。雇用する企業側における障害者雇用の意識づけや働きやすい環境整備、支援ノウハウの蓄積は進みません。

障害者が働くことで得られた成果物(農産品など)は、雇用する企業で福利厚生の一環として利用されることもあれば、使われないまま廃棄されることもあります。雇用する企業の事業として収益につながっている例は少ないといえるでしょう。

日々の雇用管理や業務の指示も雇用代行ビジネス事業者のスタッフが実施するうえに、就業場所が雇用企業の事業所と別の場所であるため、実質「隔離」に近い状況となっています。障害者のキャリア形成という視点はほとんど見られません。

厚生労働省は、こうした手法が障害者雇用の理念に反していることを認識しているものの、現段階で違法行為が見られるケースは少ないとも指摘。とはいえ、現状を放置すればインクルージョンの実現は進まず、「障害者雇用=コスト」という長期的な悪循環を招くことへの懸念ももっています。

こうした事情から、厚生労働省は、障害者雇用代行ビジネス事業者と利用企業のそれぞれに向けたガイドラインの策定を進めています。2025年12月1日「第11回 今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」では、その内容案が示されました。

障害者雇用の「質」として重視すべき中心的な要素

障害者雇用「質」の中心的要素をまとめた図。詳細は、以下本文。

厚生労働省では、障害者雇用が単なる法定雇用率達成を目的とする施策に終始することに眉をひそめています。そこで重視されているのが、障害者雇用の「質」の中心的要素です。

厚生労働省がいう「質」の中心的要素は、5つあります。

【障害者雇用の「質」の中心的要素】

  1. 能力発揮の十分な促進
  2. 能力発揮による成果の事業活動への十分な活用
  3. 適正な雇用管理
  4. 発揮した能力に対する正当な評価と処遇への反映
  5. 能力発揮にふさわしい雇用の安定

簡単にいえば、

  • 一人ひとりの障害特性と業務のマッチングおよび知識・スキルの向上支援
  • 自社における役割とやりがいの確保
  • 計画的な採用活動および環境整備
  • 透明性の高い公平な人事考課
  • 安定した雇用

となるでしょう。

これらをより理解するには、障害のない社員のワーク・エンゲージメントや職場定着を高めるための一般的な施策との比較が役立ちます。

障害のない社員を対象とする施策という視点で5つの要素を見ると、以下のようになります。

1つめの能力発揮の十分な促進は、社員一人ひとりの知識・スキルの向上に向けたOJTや研修・セミナー実施、本人の能力・適性・希望を考慮した配置です。どのような企業でも、自社の事業を理解してもらい、ビジネスパーソンとしての振るまいを学ぶためにいくつかの研修を実施します。

2つめの事業活動への十分な活用は、「この仕事で会社に貢献できている」という実感を得られるようにするための施策にあたります。例えば、上司との定期面談や日頃のコミュニケーションにおける次のようなポジティブフィードバックです。

「あなたが獲得したA社の契約のおかげで、今期の予算達成へ大きく近づいた」
「あなたの丁寧で正確な業務が、事務処理の効率化に大いに貢献している」
「細かなミスに気づいてくれるおかげで、大きなトラブルを防げている」

3つめの適正な雇用管理についても、自社が求める人材像をもとに採用・教育を進め、法令による労働時間やハラスメント予防措置のルールを守ることは一般企業にとって“当たり前”のことです。育児・介護との両立支援、フレックスタイム制の導入、在宅勤務制度の導入、各種相談窓口の設置など、働きやすい環境づくりを進めている企業も好事例としてよく共有されています。

4つめの正当な評価と処遇への反映も、障害のない社員を対象とする施策において重視されるポイント。どのような条件をクリアすれば昇給・昇格するのかを定め、その基準の通りに評価し、昇給・昇格できるようにすることが、社員の意欲を高めつつ自律的な学びやキャリア形成を促せるからです。

5つめの安定的な雇用は、人材不足が叫ばれる現在、人材の離職防止施策として実施される例が多く見られます。

こうした「障害のない社員に対する施策」として一般に行われているものが、障害者雇用では軽視されやすいのが現状です。その大きな原因は、企業側の障害理解や支援・指導ノウハウの不足です。

「どうすればいいかわからないから、放っておく」
「どうすればいいかわからないから、とりあえず簡単な仕事だけ与えておく」
「本人の成長には期待せず、とにかく就業時間に何かしてもらっていればいい」

こうした現状維持の姿勢では、障害のある社員の側も、伸びる能力を伸ばせず、なかなか組織の戦力になれません。会社への貢献や成長の実感がなく周囲との関係構築も進まなければ、職場は「居づらい場所」になってしまいます。仕事のやりがいも生まれにくいでしょう。

障害のない社員に対して行われる“当たり前”の施策だからこそ、障害者雇用の「質」を向上させる中心的な要素にもなるのです。

厚生労働省のガイドライン案と政策の方向性

厚生労働省は、「質」の中心的な要素を踏まえた障害者雇用代行ビジネスのガイドライン案を示しています。ガイドラインは、障害者雇用代行ビジネス事業者向けと利用企業向けの2種類が作成される予定です。2025年12月現在でわかっている方向性をご紹介します。

障害者雇用代行ビジネス事業者に対する方針

障害者雇用代行ビジネス事業者向けのポイントをまとめた図。詳細は、以下本文。

障害者雇用代行ビジネス事業者に向けたガイドライン案では、現場支援の基盤となる支援者の知識・スキル向上、利用企業に対する適切な支援、情報開示などが示されました。

【障害者雇用代行ビジネス事業者向けのポイント】

  • 障害特性を十分に理解し、障害者雇用に精通した一定の資格者等を配置する
  • 支援スタッフへの教育訓練等を実施する
  • 利用企業に対して、以下の支援メニューを提供する
    • 成果物が利用企業自身の事業活動で活用されるようにする
    • 利用企業の事業活動における障害者雇用の業務切り出し、創出を行う
    • 最終的に、利用企業が自社の就業場所で障害者雇用を実施できるようにする
      (企業側の担当者育成支援、自走開始後の助言など)
  • ガイドラインに沿った運営を行っていること、実際にどのような支援メニューを行ってきたのかなどの情報を開示する

簡単にいえば、障害者雇用代行ビジネス事業者への“丸投げ”を容認するのではなく、利用企業がいずれ自ら障害者雇用を進められるようなノウハウの伝達と環境整備支援を行うことが重視されるということです。

障害者雇用代行ビジネスの利用は、利用企業が自走できるようになるまでの期間を中心に行われるべきであり、障害者雇用代行ビジネス事業者が用意する就業場所でずっと働くことを前提とすべきではないという考え方がうかがえます。そして、障害者雇用代行ビジネス事業者にも、障害のある労働者には適切な支援・指導を行える知識・スキルをもった支援スタッフの育成を求めています。

加えて、質の低い障害者雇用を拡大させないためにも、適切なノウハウと実績をもった障害者雇用代行ビジネス事業者の選定に役立つ情報公開も求める方向です。

なお、「一定の資格者等」の内訳は明記されていないものの、障害福祉に関連するものでいえば

  • 介護福祉士
  • 社会福祉士
  • 精神保健福祉士

などの国家資格取得者が典型でしょう。障害特性に応じたきめ細やかな支援に向けて、手話通訳士・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・公認心理師なども候補となり得ます。

利用企業に対する方針

障害者雇用代行ビジネス利用企業向けのポイント。詳細は、以下本文。

利用企業に対する方針では、ガイドライン案と制度の面からのアプローチが提案されています。

まず、ガイドライン案で示されたのは、障害者雇用の「質」として重視すべき中心的要素を土台とする、適切な障害者雇用代行ビジネスの利用です。

【障害者雇用代行ビジネス事業者向けのポイント】

  • 障害者雇用の「質」として重視すべき中心的要素を踏まえた障害者雇用を行う
  • ガイドラインに沿っていない運営を行う障害者雇用代行ビジネス事業者の利用は望ましくない
  • 障害者が仕事で生み出した成果物は、利用企業自身の事業活動において、有為に活用すべきである
  • 一定期間の利用後は、利用企業自身の事業活動の中で障害者雇用を進める
    • 自社の事業活動に関わる業務の切り出し・創出等を行う
    • 障害者本人の希望を踏まえつつ業務の割り当てを行う
  • 障害者本人の希望を踏まえつつ、障害者雇用の就業場所を自社へ移行させていくことが望ましい

はじめのうちは障害者雇用代行ビジネスを利用する期間があったとしても、そこで“丸投げ”をするのではなく、自社に雇用・支援ノウハウを蓄積し、最終的には自走できるようにすることを求める内容です。ただ雇用契約を結ぶだけでなく、障害者の戦力化を目指して育成施策を講じていく必要があります。

それを実現するには、業務の切り出し・創出および現場での支援について、しっかりとノウハウをもつ障害者雇用代行ビジネス事業者を選ばなければなりません。

国としてこれを後押しするための施策では、

  • 「もにす認定制度」の基準見直しや大企業への拡大
  • 経済的負担の軽減に向けた助成金の充実
  • および毎年6月に行わなければならない障害者雇用状況報告における障害者雇用代行ビジネスの利用に関する報告

なども検討しているとのことです。

障害者雇用状況報告書で報告する内容として、厚生労働省は以下をあげました。

【障害者雇用代行ビジネス利用に関する報告内容の案】

  • 就業場所
  • 障害者雇用代行ビジネス事業者の情報
  • 障害者が従事する業務内容
  • 利用予定期間等の適正な雇用管理に係る情報

もし不適切な利用が懸念される場合は、関係機関から必要な指導・監督が行えるよう、体制を整備していく考えです。

「わからないから丸投げ」よりも「知らないことを学ぶ」ことが好循環に

障害者雇用では、障害種別の把握と障害特性への理解が欠かせません。そして、これまで「なんとなく」で扱ってきた事柄を言語化し、「どのような課題があるのか」「どのような手段を講じるのか」を継続的に丁寧に話し合い、実践していかなければなりません。

就職前の就労移行支援、就職後の職場定着支援、ジョブコーチやトライアル雇用、各種助成金など、障害者雇用の推進を支援する制度はこれまでも活用されてきました。しかし、そうした具体的な制度の活用について情報をもっていなかったり、煩雑な手続きから敬遠していたりする企業もあるでしょう。

障害者雇用は、「知らないことを学ぶ」ところから始めなければならないことが多いものです。それは、これまでマイノリティとして排除されやすかった人々について“知る”ことであり、知ることで“考える”ことができるようになるための第一歩となります。

障害者雇用のノウハウの蓄積は、障害の有無にかかわらず働きやすい職場づくりにも大きく貢献します。それまで障害のなかった社員が中途障害者となった場合も、退職ではなく「調整しながら働く」という選択肢を選べるようになるでしょう。既存社員の定着率もより高めてくれるはずです。

雇用した障害者本人とコミュニケーションをとり、障害者の就労に関わる支援機関にも相談しながら、誰もが働ける職場づくりを目指していきましょう。

当マガジンでも、障害者雇用の採用担当者向けのコラムや実際の雇用事例をお届けしています。ぜひ現場の支援にお役立てください。

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【参考・データ出典】
「事務局説明資料 障害者雇用の質について(いわゆる障害者雇用ビジネスについて)」(厚生労働省)

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