2024/01/24
【就労系】令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の方向性は?
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2023年12月、「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」(以下、検討チーム)から、令和6年度障害福祉サービス等の報酬改定に向けた基本的な方向性が公表されました。資料には、障害のある方が地域生活に移行できる体制づくり、ご本人の意思決定支援の促進、実態に合った報酬体系の見直し、業務効率化などが示されています。
今回は、就労系障害福祉サービスとして、就労移行支援、就労継続支援、就労定着支援に関する項目をピックアップしてお伝えします。
もくじ
高次脳機能障害者支援、本人の意思決定支援促進へ
はじめに、就労系サービス全体に共通する方向性を見ていきましょう。これには、高次脳機能障害のある方の支援や障害者の意思決定支援の推進、一般就労中の一時利用や復職支援に関する利用条件の明確化、業務効率化に向けた施策などが含まれています。
高次脳機能障害者支援を評価、意思決定支援推進に向けた基準を明確化
まず、高次脳機能障害のある方の支援について、検討チームは支援推進を掲げました。これに基づき、高次脳機能障害のある利用者の人数が一定以上である事業所について、高次脳機能障害者支援に関する専門性を有する職員を配置した場合、新たに評価する方針です。
また、高次脳機能障害の方だけでなく、他の障害のある方についても、ご本人の意思決定をよりしっかりと支援したい考えです。相談支援及び障害福祉サービス事業者等の指定基準において、基準の明確化および基準への意思決定支援ガイドラインの反映を示しました。
具体例として、ご本人の心身の状況などやむを得ない場合でない限り、個別支援会議への障害者本人の参加を原則とし、意向を確認しながら検討を進めるよう求めています。
一般就労中の一時利用や復職支援の条件の明確化
一般就労中の障害者が就労継続支援事業を一時利用するケースの評価については、以下の2点が示されました。
【一般就労中における就労継続支援の一時利用の評価】
事業所の種類 | 評価について |
就労継続支援A型 | スコア評価項目となる平均労働時間から除外する |
就労継続支援B型 | 平均工賃月額から除外する |
あわせて、一般就労中の障害者が休職期間中に就労系サービスを利用する場合についても、現行の利用条件を確認するとともに、支給申請の際、利用条件に関連して、企業や主治医の意見書等を提出しなければならないとしました。
現行の利用条件とは、以下のとおりです。
【参考:一般就労中における休職中の就労系サービスの利用条件】
※以下の条件をすべて満たす。
- その休職者を雇用する企業、地域における就労支援機関や医療機関等によるリワーク支援等を利用できない
- その休職者本人が復職を希望し、企業および主治医が、復職に関する支援を受けることが適当だと判断した
- 休職者にとって、就労系サービスを利用することで、より効果的かつ確実に復職につなげられると、市区町村が判断した
出典:障害福祉サービス等指定基準・報酬関係Q&A|WAM NET(2024年1月17日閲覧)
業務効率化に向けた施策
福祉における人材不足や国全体のDX推進から、障害福祉サービス等全般で業務効率化が求められています。この施策の一環として、事務処理等の簡素化も提示されました。
具体的には、施設外就労の実績報告書提出義務の廃止、施設外支援における個別支援計画の見直し時期の変更などがあげられています。
施設外就労の実績報告書の提出義務廃止については、地方公共団体の事務負担軽減を目的として、報酬請求時に事業所が毎月提出していた施設外就労に関する実績報告書の提出が不要になります。
施設外支援に関する事務処理の簡素化は、施設外支援での個別支援計画の見直しを従来の1週間ごとから、月1回とするものです。
令和7年度(2025年度)から基礎的研修を開始
さらに、令和7年度から開始される「基礎的研修」について、
- 就労移行支援事業所の就労支援員
- 就労定着支援事業所の就労定着支援員
は、受講を必須とする旨を明示しました。
これは、現在JEEDで実施されている「基礎研修」に替わる研修であり、900分の受講内容となっています。基礎研修と異なる点は、企業に対する支援やアセスメントについてより多くの時間が割かれる点です。
ただし、令和9年度までは経過措置が適用され、基礎的研修を受講していない場合でも、受講したものとして取り扱うものとしています。より具体的な内容、受講に関する情報等は、今後発表されていく見込みです。
就労移行支援事業の方向性
ここからは、就労移行支援事業、就労継続支援事業、就労定着支援事業に分けて、基本的な方向性を見ていきましょう。
就労移行支援事業では、利用定員の見直しとサービス管理者が出席していない支援計画会議の加算条件が示されました。
安定的事業実施に向け「利用定員10名以上」が可能に
現在の就労移行支援事業の実態から、利用定員規模の見直しが行われました。これまでの「利用定員20名以上」から、「利用定員10名以上」に変更される見込みです。
就労移行支援事業所には、利用者の確保が難しいところも多く、決して小さくない課題となっていました。今回の見直しで、より実態に即した規模での実施を可能とし、支援の質の向上にもつなげるねらいです。
サービス管理者がいない支援計画会議も条件付きで加算
支援の質の向上と人材不足の両方の課題に対応するものとして、支援計画会議について、サービス管理責任者の代わりの者が出席する場合でも加算対象とすることを示しました。質の確保のため「会議前後にサービス管理責任者と情報共有する」などの条件があります。
不足しているサービス管理責任者が柔軟に動けるようになり、支援計画会議も実施しやすくなることが期待されます。
就労継続支援A型事業の方向性
就労継続支援A型の方向性では、大きな変更としてスコア方式による評価項目見直しと、各事業所のスコア公表があります。さらに、経営改善への取り組みを重視し、取り組み不足の場合は減点対象になるとしました。
スコア方式による評価項目の見直しとスコア公表へ
就労継続支援A型の大きな方向性は、経営状況の改善や一般就労への移行促進です。これを目的として、検討チームは、スコア方式による評価項目を次のように見直すと発表しました。
【スコア方式による評価項目の見直し方針】
項目 | 方向性 |
労働時間 | 平均労働時間が長いと点数がアップする |
生産活動 | 生産活動収支が賃金総額を上回ると加点、下回ると減点する |
経営改善への取組み | 「生産活動」の点数配分を高くする |
新規評価項目 | 利用者が一般就労できるよう知識・能力の向上に向けた支援を実施すると評価する |
同時に、各事業所のスコアも公表するとしています。
経営改善への取組み不足には自治体の指導や減点を適用
経営改善を大きなねらいとしていることから、経営改善への取り組みが不足している事業所に対しても、次の措置がとられる見込みです。
【A型事業所の経営改善への取組み不足について】
対象 | ● 経営改善計画書を未提出の事業所
● 数年連続で経営改善計画書を提出し、指定基準を見なしていない事業所 |
措置 | ● 自治体による指導を行う
● 新たなスコア方式による経営改善計画に基づいた取り組みを行っていない場合、減点する |
経営課題を放置せず、計画に基づく改善施策を着実に実施することが求められています。
就労継続支援B型事業の方向性
就労継続支援B型については、工賃のさらなる向上を目指し、平均工賃をもとにした報酬体系とするとしています。
例えば、平均工賃月額に応じた報酬体系の見直しにおいては、平均工賃月額の算定方法自体を見直します。重度障害や特性などから利用日数が少ない障害者を多く受け入れる事業所もより評価されるよう、平均利用者数を用いる算定式に変更するとのことです。
基本報酬についても、「利用者の就労や生産活動等への参加等」について、収支差率が考慮されます。
また、要望が多かった人員配置「6:1」も新たに加え、より手厚い人員配置に向けた報酬体系も設ける方針です。
目標工賃達成指導員配置加算が適用されているB型事業所については、工賃向上計画のもとで実際に工賃がアップした場合は、加算対象となります。
就労定着支援事業の方向性
就労定着支援の方向性は、スケールメリットを考慮した報酬体系とすること、ケース会議の実施を促進すること、定着支援終了時に適切な支援体制をしっかり行うことなどです。
定着率による報酬体系、ケース会議実施の促進へ
定着支援の報酬体系の見直しでは、実態に応じたスケールメリットを考慮し、就労定着率のみを用いて算定する報酬体系とすることが示されました。
加えて、定着支援連携促進加算の見直しも行われます。サービス管理責任者との情報共有を条件として、サービス管理責任者以外の者がケース会議に出席する場合でも加算対象になるとしています。
就労移行支援事業所との一体的な実施、および実施主体の追加
定着率向上に向け、就労定着支援と就労移行支援等との一体的な運営も促進する方針です。
具体的な施策として、職業指導員等の直接処遇職員が、就労定着支援に従事するケースで、その勤務時間を就労定着支援の常勤換算上の勤務時間に含めることができるようになります。
また、就労定着支援を実施できる事業者として、障害者就業・生活支援センター事業を行う者が追加されるとしました。
なお、現在の実施主体は、以下の要件を満たす事業者です。
【参考:従来の就労定着支援の実施主体】
※以下の要件をいずれも満たす。
- 就労移行支援、就労継続支援、生活介護または自立訓練にかかる指定障害福祉サービス事業者
- 過去3年間において、3人以上の障害者を通常の事業所に新たに雇用させている
支援終了の際の対応不足は減算対象に
定着率向上に向けた取り組みの評価は、定着支援終了時の支援体制構築にも適用されます。具体的に想定されているのは、職場でのサポート支援体制と、障害のあるご本人の安定した生活に向けた支援体制の構築への評価です。
十分な体制構築を行わないまま定着支援を終了すると、その後の職場での課題解決がうまくいかず、不本意な離職につながる可能性があります。そのため、定着支援終了時の対応不足は、減算対象になると発表されました。
定着支援が終了しても安定的な支援体制を維持できるよう、企業側の支援担当者や他の外部機関との連携、職場の上司や同僚などのサポートと負担を考慮した体制の構築が求められています。
実態を考慮した報酬体系と「支援の質」向上実現に向けて
就労系障害福祉サービスの全体の方向性は、現在の実態を考慮した報酬体系に向けて見直しを進め、同時に、支援の質の向上、経営改善や工賃向上、持続的な支援体制などを目指すものとなっています。
より具体的な内容は、「診療報酬や介護報酬における対応等を踏まえつつ、今後の予算編成過程を経て決定される」としており、2024年2月に改定案のとりまとめが、3月に関係告示の改正などが行われる予定です。
【参考】
令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の基本的な方向性について|厚生労働省
令和6年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた検討の進め方(案)|厚生労働省
就労系障害福祉サービスに係る横断的事項について≪論点等≫(令和5年10月11日)|障害福祉サービス等報酬改定検討チーム