しなやかに、前向きに「パラリンアートカップ2022」受賞者インタビュー


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2023年3月16日、浜離宮朝日ホールにて「パラリンアートカップ 2022」の表彰式が開催されました。当日はグランプリを受賞したサトウモトコ(桃太郎)さん、日本寄付財団賞を受賞した今脇健太さんらが登壇。表彰式を控えたお二人のアーティストにお話を伺いました。


写真提供: 山本倫子 Noriko Yamamoto

3月16日「パラリンアートカップ 2022」表彰式を開催

2023年3月16日、東京都中央区の浜離宮朝日ホールにて、一般社団法人障がい者自立推進機構が主催する「パラリンアートカップ 2022」の表彰式が行われました。7回目となる今回のテーマは、『「SUPER START」圧倒的スタートを切って今動き出す!』
全国から154点もの力強い作品が寄せられました。

グランプリに輝いたのは、サトウモトコ(桃太郎)さんの「全身全霊」です。準グランプリには、Sioさんの「虹音キックオフ」と阿部貴志さんの「先制ダンク!試合スタート」の2作品が選ばれました。また、協賛の一般財団法人日本寄付財団からは、今脇健太さんの「波を乗りこなす」に日本寄付財団賞が贈られました。


作品画像提供:パラリンアート運営事務局


作品画像提供:パラリンアート運営事務局


作品画像提供:パラリンアート運営事務局

受賞した各作品がスクリーンに大きく映し出されると、その迫力やユニークさがより強く迫ってきます。『キャプテン翼』の作者である漫画家・高橋陽一さんが選ぶ高橋陽一賞には2年連続でDAIKIさんの作品が選出。その細かな描き込みと全体の色鮮やかさには特に大きな声があがりました。

当日は、受賞者としてサトウモトコ(桃太郎)さんと今脇健太さんのほか、障がい者自立推進機構理事の中山秀征さん、協賛社代表である日本寄付財団代表理事の高丸慶さんやプレゼンターの蝶野正洋さん、審査員の櫛野展正さん、高橋陽一さん、北澤豪さん、参議院議員の今井絵理子議員とそのご子息である今井礼夢さんらも登壇。アウトサイド・キュレーターとして障害者の芸術表現に20年以上携わってきた櫛野さんは、「まるで表現の泉のすぐそばにあるかのような、そんな魅力が障害者アートにはある」「一人ひとり違う個性を持った画風というのは、一人ひとり異なる自分をそれぞれ認めていくこと。それが、今後、多様性あふれる豊かな社会の実現に繋がっていく」と述べました。


撮影:編集部

表彰式後半のトークセッションでは、中山さんは「発表の場があることで見てもらえることが大切」、蝶野さんは「全体的にレベルの高いものになっているので、線一本から出品できるようなフラットな大会があってもいいかもしれない」と話しました。

編集部では、表彰式を控えるサトウモトコ(桃太郎)さんと今脇健太さんにインタビューを実施。お二人が作品に込めたメッセージや、アーティストとしての活動について伺います。

サトウモトコ(桃太郎)さん、新体操の美しさと躍動感「しなやかに頑張る」


写真提供: 山本倫子 Noriko Yamamoto

――グランプリの受賞、おめでとうございます。今、どのようなお気持ちですか?

受賞が決まったというお話をいただいたときは、驚きました。嬉しかったです。

――今回、「SUPER START」というテーマでしたが、アイデアはすぐに出てきましたか?

そうですね、今までのパラリンアートさんのコンペ作品でもテーマが決まっていたので、発想の感覚はつかめていました。

――今回のモチーフは新体操ですか?

そうですね、新体操が美しいなって。美しさとか女性のしなやかさっていう部分です。戦うエネルギーというのでも、しなやかさを出したかったので、新体操を選びました。
(新体操の選手のうしろに)不死鳥を描いて、力強い動きのあるエネルギーみたいなものも表現したかった。画像は動いてないので、動きを出すイメージに見えるように、不死鳥を配置しました。

――不死鳥の翼の角度や選手の脚の角度などが調和していて、躍動感があります。

伝わってました? 嬉しいです。

――今回、特に大切にされている要素は?

頑張ってる人がたくさんいる中、ちょっと「しなやかな頑張り方ってないかな」と思って。どうしても、頑張ると戦いがちなので、「ちょっと違う表現ができないかな」と思いました。

――制作期間は、どのくらいでした?

1週間くらいです。どうしたら動きを出せるかなっていうことを考えていました。


作品画像提供:パラリンアート運営事務局

――作家としての生活はいかがですか?

作家さんで生活するっていうのは、芸術の大学に行ってる方でも簡単ではない。どこまで自分ができるかは分からないですけど、(障害者)手帳を持っているということで、(パラリンアート事務局のような)団体さんみたいなところがあって、サポートしてくださるスタッフがいらっしゃる。そこに自分も甘んじるばかりじゃなくて、何かできることの中に絵を描けるということがあり、そこで何か楽しいことが生まれていったらと思います。

私自身が楽しいなと思いながら、今は、そういった方たちのサポートを受けながら、描かせていただいてます。

――絵を描き始めたのは、いつ頃ですか?

幼い頃から好きなんですけど、「描いて何かにならないかな」とか、「人に見てもらったり、お仕事につながったりしないかな」と思ったのは、10年くらい前ですね。体調を崩して、「本当に本腰でやろう、これしかもうないかも、年齢的に」と思ったのは、5年くらい前。元気である限り、これをずっとやってみようと思いました。

――さきほど、アイディアは比較的すぐ出てくるというお話でしたが、アイディアが生まれやすいきっかけなどは、ありますか?

すぐアイディアが湧くわけではないんですよ、結構苦しんで生み出すタイプです。それをまた形にするっていう、その技術のスピードに早い遅いはありますが、生み出すこと自体はメンタル的にそんなに簡単ではありません。

ただ、やっているうちに、訓練みたいな感覚も出てきました。この調子で描き続けることが大事、描き続けることでアイディアが湧きやすくなって、形にしやすく、表現しやすくなると思います。絵を習っていたとき、絵の先生に「続けたらいいよ」って言われました。「形がどんどん変わっていって、自分のものにできるよ」って教わったので、それを続けています。

――制作で好んで使う画材や色やパターンなどは、あるのでしょうか?

あまり固定しないで、いろいろ挑戦したいと思っています。いろいろ刺激を受ける作家さんの作品などを見て、その刺激に対して、自分でオリジナルでやるなら、どうやってできるかなって。自然に、天使とか羽のついたものを描きがちです。でも、あまり固定しないようにしてます。

平面に限らず、立体というか、レリーフみたいなものも作ってます。あまり絵にこだわってはいません。いろんなものができる作家として、「こういうのなら、この人に任せてみようか」っていうものができたらいいなと思います。障害者さんたちのアートを集めた展示会などを行う、アールブリュットの動きが北海道にあって、そうしたところの展示会とかに参加させていただいてます。この前まで展示していただいたのは、新巻ざけが入っているような発泡スチロールの箱を使った作品です。捨てるようなものをリサイクルして作ろうっていう作品でした。

――いろいろな刺激を受けて、そこからインスピレーションを得たものを表現していくというのが、一番大事なことなんですね。

それを大切にしています。またきっと変わってくるんだと思うんですけど、今はそれが楽しいなという感じです。

今回、(普段は扱わないスポーツというテーマに挑戦してみて)面白いなって思いました。私の思想っていうか、今までの経験からの考え方を表現するのは楽しいなと思える。(野球とか陸上などのメジャースポーツは)得意な方がいっぱいいると思うので、それは得意な方にお願いして、私は私流でやろうと思います。

――最後の質問です。これからパラリンアートに挑戦したいという方に向けて、作品制作を続けていくコツやヒントがあれば、教えてください。

描けないなと思っても、描きたければ描いたほうがいいし、どうせなら楽しく描いたほうがいいと私は思っています。学校で習ったようなやり方じゃなくてもいい。好きなタイプの作家さんがいて、どんな表現をしてるのかって気になったら、真似から入ってもいいと思う。

何か行動に移すことが大切です。そこから、もしかしたら次につながるかなって。きっかけがあれば、あるいはきっかけがなくても、自分の時間の中で「描く」っていう時間を作るとか。何か行動を変えてみるといいです。

今脇健太さん、「前向きにあらがう人」を描いた朝焼けのサーフィン


写真提供: 山本倫子 Noriko Yamamoto

――日本寄付財団賞の受賞、おめでとうございます。今のお気持ちは?

率直に嬉しいです。同時に、賞を目指してこられる方のほうが多いので、賞に対する重みと責任を感じています。

――作品を拝見したときに、中央の光の縁のようなところが特に印象的でした。これはどのような意図で描かれましたか?

エネルギッシュさを表現しています。選手やサーフィンをしている方から出ているエネルギーもありますし、自分の場合は支援の輪っていうのがありまして、支えてくれる方がかなり多いので、その人たちのエネルギーという意味合いも込めています。

――すると、今回の作品で一番大事にしているポイントは、このエネルギーの表現ですか?

実は、太陽ですね。自分は遅咲きのアーティストで、40歳をきっかけに始めて、今年で3年目なんですよ。それまで、いろんな会社を転々としてました。どこも長続きしないんですよね。

20代の頃に、ある会社を解雇されて。その帰りにスクラップ工場に寄ったんです。そこの社長さんに「働かせてもらえないか」って飛び込みで行ったんです。「うちはとってないから」って言われて、「そうですか」って。スクラップ工場には、大量のスクラップがある、そこに断られた。ショックでした。でも、その帰り際、ふっと後ろを振り返ったら、すごく夕焼けがきれいで。それが、僕の原点だと思ってるんです。

(この作品でサーファーの後ろに)朝焼けの太陽が、ちょうど先に見えると思うんですけども、それを重ねて描かせていただいたっていうか。


作品画像提供:パラリンアート運営事務局

――これまでのご経験や支援など、いろいろなメッセージや要素が入った作品なんですね。どのくらいの期間で制作されました?

1日くらいです。デジタルでやるので、画像を組み合わせていきます。その後、ブラッシュアップに1週間。今回の場合、結構かかりました。

――なぜサーフィンだったのでしょうか?

自分のテーマなんですけど、「あらがう人」を描けたら、納得できるんですよ。サーフィンって、一歩間違えば波にのまれちゃうじゃないですか。でも、そこを前向きにあらがうことで、コントロールすることさえできるんですよね。そういう意味で、本当に夢とか希望、この時代の中で必要なのは、そういう前向きにあらがっていく場所を探すことなんじゃないかって僕は考えます。それでサーフィンを選びました。

――影響を受けたアーティストというのは、いらっしゃいますか?

独学なんです。絵を描くっていう感覚もなくて、素材を選んで組み合わせていく。だから、キャンバスに描くアーティストさんとはまた別のやり方、手法です。

――コンテストなどで作品を作るときにアイデアを生み出していくのは、素材を組み合わせていくことと並行で進められたりするのですか?

もちろん最初にコンテストの趣旨を理解して、それに合った画像を直感で選びます。その際に使うのが、やっぱり自分の障害の特性だと思ってます。

――具体的には?

以前、いろいろな病院へ行っていました。そこで、特殊な記憶能力があるかもしれないとおっしゃる主治医の先生がいました。断定はされてないんですけども、他の方より、多分自分は画像処理が早いのかな、と。それをうまく使ってるんだと思います。

――素材などの組み合わせるものを選んでいくときに、よく選ぶモチーフや色、パターンなどはありますか?

ないです。考えてやることはないと思う。考えてやると、後から迷いがどんどん出てきちゃうんで。作品づくりでは、直感を大事にしています。

――最後の質問です。今、絵を描き始めていたり、これから描いていきたいという方は、どのようにすれば作品づくりを続けたり、挑戦を続けられるでしょうか? 何かコツやヒントがあれば教えてください。

自分の場合、40歳で独学でデジタルでっていう、トリプルの要素があって「ある種、奇跡に近いね」って言われて。(その中で、)どれだけ支えてくれる方を信じて、自分を信じて、やれる限り続けるかだと思ってます。

支えてくれる方というのは、アーティスト活動を支えてくれる方はもちろんなんですが、やっぱり最後は家族です。周りの方と自分を信じて、作品を作っています。

挑戦を続けるアーティストたち


写真提供: 山本倫子 Noriko Yamamoto

今回インタビューしたお二人は、ともに「しなやかな頑張り方」や「あらがう人」など、未来へ向けて自分のやり方で進んでいこうとする姿を描きました。ご自身の作品づくりにおいても、新しいモチーフやテーマに挑戦し続けています。

現在、アール・ブリュットの展示会やイベント、商品パッケージやカレンダー、工事現場の壁の装飾など、障害のある方々の作品を発表、活用する機会が増えています。障がい者自立推進機構の中山理事は、障害のある方にとってアート作品を発表できる場があることの意義を繰り返し語ってきました。

うまく言葉にできないと感じている方の中には、「何を思っているのか」「何を見てきたのか」「どのような世界を見ているのか」などをアートによって豊かに表現できる方もいらっしゃるのではないでしょうか。多様な方が、多様な手段で表現できる場のひとつが、パラリンアート。パラリンアート事務局では、毎月さまざまな企業や団体とともにコンテストを開催しています。「描いてみよう」と感じるテーマを見つけたら、ぜひ挑戦してみてください。

取材協力:
パラリンアート運営事務局
サトウモトコ(桃太郎)さん
今脇健太さん

【参考】
一般社団法人障がい者自立推進機構 公式サイト
サトウモトコ(桃太郎)さんのプロフィール|Paralym Art
今脇健太さんのプロフィール|Paralym Art

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