【合理的配慮好事例・第27回】安全に避難できる?車椅子使用者と聴覚障害者に必要な災害対策ポイント


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災害発生時は、状況に合わせた迅速な対応が求められます。障害者雇用の現場では、自力で情報に基づいて避難する訓練や環境整備以外に、「きちんと情報を伝える」「他の人が移動を支援する」ための施策も必要。今回は、車椅子使用者と聴覚障害者が災害時に適切に避難するために必要な災害対策ポイントをご紹介します。

災害発生時、障害をもつ社員も安全に移動・情報取得ができる?

災害に備えて避難訓練を実施する際、
「思ったよりも時間がかかる」
「うまく避難できず困ってしまう社員がいた」
ということはありませんか。

障害のない社員にとっては、災害が発生したという情報を得て、指示された経路で避難をすることは、あまり難しくないかもしれません。しかし、障害をもつ社員の場合は、それらに困難を抱えていることがあります。

今回ご紹介する事例は、車椅子使用者や聴覚障害者がきちんと情報を取得し、安全に避難するための対策を行った企業の例です。どのようなポイントに気をつける必要があるのか、順番に見ていきましょう。

車椅子使用者のための災害対策2事例

車椅子使用の社員がいる場合、通常の環境で自分の力だけで避難するのは困難です。他の社員が移動を支援や、自力で避難できるような事前の環境整備が求められます。

支援者の負担軽減で安全・迅速な避難へ(オムロン太陽株式会社)

オムロン太陽株式会社では、災害発生時における車椅子使用社員に対する移動支援で課題を抱えていました。

もともとは、車椅子使用の社員が避難する際、避難支援担当者の一人が車椅子を後ろから押し、もう一人が車椅子の前輪付近に紐をくくりつけて牽引する等の移動支援を行っていました。しかし、支援担当者の負担が大きく、体力面や安全面に課題があったのです。

そこで、オムロン太陽は3つの改善を行いました。

1つめは、支援担当者には体力のある社員を選定するか、2人体制で車椅子を押すようにすること。2つめは、車椅子に装着して牽引する補助装置(牽引式車椅子補助装置)を導入して、車椅子を安全に牽引できるようにすることです。この補助装置は、避難時に使用するレインコート・予備用マスク・懐中電灯等の物品と一緒に指定場所に保管されており、緊急時にすぐ使用できるようにしました。

オムロン太陽では、津波を想定して高い場所へ避難する必要があります。そこで、3つめの改善では、事業建屋から避難場所までの経路について、車椅子でも通りやすいように全て舗装された道路を選定しました。通りやすい経路は、安全性とともに移動支援者の軽減負担にも大きく貢献するものです。

こうした改善によって、避難訓練では実際に支援担当者の負担軽減、安全確保につなげることができました。車椅子使用の社員と避難支援担当者の双方が快適に移動できるようになり、避難にかかる時間も短縮したとのことです。

スロープ改善など当事者の視点を重視した安全確保(株式会社ニッセイ・ニュークリエーション)

株式会社ニッセイ・ニュークリエーションでも、災害時の車椅子・クラッチ仕様の社員の避難に課題がありました。

ニッセイ・ニュークリエーションでは、以前から屋内階段に脱輪防止ストッパー付きのスロープを設置しています。しかし、車椅子を使用する社員にとっては傾斜がきつく、自力での脱出は困難でした。

加えて、火災時は火元の状況に応じて2階バルコニーに一時避難することにしていたものの、その後の救助にかなり時間がかかるだろうという懸念も。一時避難中に必要な災害備蓄品を車椅子・クラッチ使用の社員が取りに行くことも難しかったそうです。

こうした課題を解決するために行ったことは、まず障害のある社員を中心とする災害対策プロジェクトチームを立ち上げることです。実際の災害発生時や訓練実施時に判明した課題を踏まえながら、当事者視点で、さまざまな障害に配慮した安心・安全向上のための取り組みを推進しました。

その上で、車椅子・クラッチ使用の社員が自力で避難できるスロープを設置(バリアフリー法の基準よりも緩やかな1/20の傾斜角度)しました。傾斜を緩やかにすることでスロープのストッパーをなくすことができ、介助者がつまずかないフラットで安全なスロープも実現したのです。

一時避難する屋上避難スペースについては、面積を拡大した上で、48時間対応可能な自家発電機、ヘリコプターによる救助が可能なホバリングスペースを設置。災害備蓄品を各事務室から近いところに分散させて配備し、誰でも取りに行けるよう整備しました。

こうしたさまざまな施策は、自力での移動に課題がある社員の避難を以前よりも容易にし、避難訓練時の適切な行動につながっています。障害を持つ当事者を中心とした災害対策プロジェクトチームの働きで、社員の災害に関する意識の向上、身体機能の状況・特性等に対するきめ細かな配慮が実現しました。

聴覚障害者のための災害対策

聴覚障害をもつ社員にとって、災害発生時に経験するのは「情報を得にくい」という困難です。聴覚に障害のない社員なら、アラームなどで緊急事態の発生を知り、声による誘導で避難できるでしょう。しかし、聴覚障害がある場合は、そうした音による情報共有が難しいのです。これを解決するには、視覚情報の活用が欠かせません。

火災・地震を光で知らせる光警報装置を全館に設置(株式会社ニッセイ・ニュークリエーション)

聴覚障害のある社員の避難支援としてニッセイ・ニュークリエーションが導入したのは、全館への光警報装置の設置でした。

もともと自動火災報知設備と連動した光警報装置を設置していたものの、トイレに警報装置の設置をしていなかったことが課題に。また、光警報装置は緊急地震速報と連動していないという問題もありました。

改善後は、トイレも含めて全館に光警報装置が設置され、どこにいても緊急事態を知ることができるようになっています。自動火災報知設備や緊急地震速報設備とも連動し、火災発生時は白、地震時は緑のライトが点滅するようにしました。

全ての社員が災害発生をすぐに知ることができれば、迅速な対応が可能になります。避難訓練では、ほぼ100%の社員が適切な避難行動をとれるようになるとともに、聴覚障害のある社員の補助なども適切にできるようになったとのことです。

プラカード導入で聴覚障害者に確実な情報伝達へ(株式会社ササキ)

株式会社ササキでも、聴覚障害のある社員への緊急事態の伝達に課題を抱えていました。具体的には、「聴覚障害のある社員が緊急事態を速やかに把握できる手段が、確立されていない」というものです。実際、大音量・強力な振動・強いフラッシュを発する機器を支給してはいたものの、機器は緊急時以外に普段の連絡や呼び出しにも使われることがあり、緊急事態か否かの判断に困ることがありました。

ササキがとった改善策は、聴覚障害のある社員の担当業務エリアの掲示板付近に、プラカードを設置するという比較的シンプルなものです。機器の使用方法を変えるという行動の変更につながる施策よりも簡単に導入可能で、緊急時は近くにいる従業員が聴覚障害のある社員にプラカードを見せて避難誘導できる点が大きなメリットです。プラカードには「避難してください」という文字とともに矢印が示されており、いつでも使えるようにしてあります。

使いやすいプラカードの導入後は、避難訓練でも聴覚障害のある社員も確実に緊急事態を知ることができるようになりました。全体としても、スムーズな避難に結びついています。

災害発生時も障害特性を考慮した対応を

移動や情報の取得をより確実に行うには、実際にそうした困難をもつ当事者の視点で対策を講じる必要があります。ここまで紹介してきた対策をまとめると、以下のようなポイントがありました。

まず、車椅子使用者が安全に避難するには、移動支援を担当する社員に負担がかかりすぎないよう工夫することが大切。具体策としては、専用の補助装置を導入する、二人体制で移動支援を行う、車椅子が通りやすい舗装道路を避難経路に選ぶなどです。可能であれば、車椅子使用の社員が自力で避難できる通路も整備しておきましょう。

聴覚障害をもつ社員に対しては、目で見て情報を得られるよう環境整備を進めます。代表的な施策は、光警報装置の設置。トイレなど、「その場所にいると光警報装置を見られない」という場所がないよう、なるべく多くの場所に設置しましょう。作業場など、比較的人が多くいる場所では「避難してください」などと書いたプラカードを使う方法も効果的です。遠くからでも見やすい配色・文字の大きさで作成し、いつでも使える場所に設置してください。

これらの施策を導入したあとは、実際に安全でスムーズな避難につながるか、ぜひ避難訓練でチェックしてみてください。もし避難に時間がかかりすぎたり、避難中にヒヤリハットが生じた場合は、さらなる改善策を探っていきましょう。

【参考】
障害者の労働安全衛生対策ケースブック(令和3年度)|JEED

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