2022/11/16
「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)とは? 目的と内容のポイントをわかりやすく解説
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「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)の対日審査が行われた2022年。総括所見では日本における障害者の社会参加について多くの課題が指摘されました。そもそも障害者権利条約とはどのような条約なのでしょうか。対日審査の総括所見を受けて注目された部分を中心にポイントをわかりやすく解説します。
障害者権利条約とその目的(第1条)
障害者権利条約とは、障害者の人権や基本的自由を守れるように国がやるべきことを決めるという国際的な取り決めのことです。
この条約がつくられた目的は「全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進すること」(第1条)。つまり、障害によって日々の暮らしや仕事で生じるさまざまな社会的障壁(バリア)を減らし、最終的に障害のある人も障害のない人も尊重される社会にしていこうということです。
障害者権利条約は、障害をもつ当事者の団体も参加して作られています。日本からも200人ほどの障害者団体の方々が国連本部を訪れました。
障害者権利条約は2006年に国連総会で内容が決定され、その翌年である2007年に日本も署名しました。ただ、日本が条約に締結したのは2014年でした。「しっかり条約を締結する前に国内の障害者の社会参加に関する法律や制度を整えるほうがよい」という意見を受けて、法律の改正や制定、制度の見直し等を行ったことが、署名と締結に約7年の差がある理由です。日本は141番目の締結国・機関となりました。
署名から締結までの間に取り組まれた国の施策には、次のものがあります。
- 2011年 障害者基本法の改正
- 2012年 障害者総合支援法の制定
- 2013年 障害者差別解消法の制定、障害者雇用促進法の改正
障害者総合支援法は、もともと障害者自立支援法という名前でした。障害者自立支援法における障害者の定義に難病を追加するとともに、支援の拡大などを含む内容となっています。また、障害の多様な特性や心身の状態に応じて支援を行うことを目的に「障害支援区分」が作られました。
障害者総合支援法については、以下の関連記事で制定の経緯をご紹介しています。
(関連記事)
障害者総合支援法について学習してみよう(法律の制定までの経緯)
「社会モデル」と「Nothing About Us Without Us」
障害者権利条約を理解するために重要な考え方が2つあります。障害の「社会モデル」と「Nothing About Us Without Us」(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)です。
「社会モデル」とは、「障害」は障害者ではなく社会が作り出しているという考え方です。これは、たとえば、目が見えないことで建物を利用するのが難しい場合、障害の原因は目が見えないことではなく、段差が多い、誘導ブロックがない、音声案内がない、点字の案内板がないといった建物の状況に原因(社会的障壁)があるということです。障害者権利条約では、こうした社会的障壁を減らして誰もが生活しやすく働きやすい社会づくりを目指しています。
誰もが暮らしやすく活躍できる社会づくりを進めるには、さまざまなルールや制度の整備、現場でのサポートが必要です。それは国や自治体レベルでも必要ですし、企業や民間の支援機関でも必要です。そうしたときに、障害をもつ当事者の方の意見を聞かずに進めてしまうことが過去にはありました。そこで出てきたのが、障害をもつ方々からの「Nothing About Us Without Us」(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)という言葉です。
「Nothing About Us Without Us」は、障害者が自分のことに関わる問題に主体的に関与する(意見を伝える、アイデアを出す、ルールや制度づくりに参加する等)という考え方です。障害があることを伝えるかどうか、支援を受けるかどうか、どのような支援を受けるかについても、障害をもつ方自身も参加して検討できるよう環境や制度をつくり、維持する必要があります。
障害者権利条約の内容
それでは、障害者権利条約の具体的な内容を見ていきましょう。第1条から第50条までありますので、その中で障害者の社会参加に直接関わる部分や、対日審査で指摘され当事者団体も注目している部分、条約に基づく取り組みの維持・監視・審査に関する部分をピックアップしてご紹介します。
第2条~第9条のポイント
障害者権利条約の第2条から第9条には、この条約で使われる言葉の定義や基本となる考え方、社会全体の意識向上、バリアフリーへの取り組みなどが定められています。
特に第4条までの基本的な考え方、第4条と第5条にある合理的配慮の考え方と提供、第6条の障害をもつ女性が受ける複合的な差別(女性差別と障害者差別の両方の差別を受けることなど)は、日本における取り組みとして今後いっそう力を入れていかなければならない項目です。
第2条 | 定義 |
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第3条 | 一般原則 |
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第4条 | 一般義務 |
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第5条 | 平等及び無差別 |
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第6条 | 障害のある女子 |
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第8条 | 意識の向上 |
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第9条 | 施設及びサービス等の利用の容易さ |
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第10条~第19条のポイント
第10条から第19条のポイントは、危険な状況で障害をもつ方がきちんと安全に避難できることや、障害を理由とした自由の剥奪を受けないこと、搾取や拷問などを受けないこと、地域社会で暮らせるようにすることなどが定められています。
日本では自然災害が多く発生しますが、第11条ではそうした災害時に障害をもつ方にきちんと情報を伝え、安全に避難できるようサポートする取り組みを求めています。これについては、日本でも国や自治体レベルで取り組みが進められてきました。
一方で、自由の剥奪や搾取・暴力などに関する部分は、まだ課題が大きいといえるでしょう。対日審査の総括所見では、精神障害者の強制入院や、障害者施設での虐待が言及されました。これらは第14条から第16条に特に深く関わっています。
第11条 | 危険な状況及び人道上の緊急事態 |
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第14条 | 身体の自由及び安全 |
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第15条 | 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由 |
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第16条 | 搾取、暴力及び虐待からの自由 |
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第19条 | 自立した生活及び地域社会への包容 |
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第20条~第29条のポイント
第20条から第29条のポイントは、教育、保健サービスの利用、労働などについて障害をもつ方が障害をもたない方と同様の権利をもつことを認め、そうした体制やサービスを利用する機会がきちんと提供されることです。
第20条は障害者の移動に関わる規定で、障害者自身の意思でいつ・どうやって移動するかを決められるように、費用や補助具・支援機器・支援体制を整えていこうというもの。これは、教育や労働における合理的配慮の提供にもつながる重要な視点です。
第24条の教育、第25条の健康、第27条の労働・雇用では、参加や利用にあたって障害者差別がなされないことや合理的配慮が提供されること、障害のない方と平等に参加や利用の機会が得られるよう支援することなどが定められています。また、第27条では、障害がある方を奴隷のように扱ったり強制労働させたりすることを禁止しています。
第28条は、障害をもつ方の貧困に関する内容となっています。障害のない方と同様に、生活水準の維持や改善について公的な支援を受けられること、貧困状態にある障害者とその家族については、費用に関して公的援助を利用できる機会の提供などが主な内容です。
第20条 | 個人の移動を容易にすること |
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第24条 | 教育 |
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第25条 | 健康 |
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第27条 | 労働及び雇用 |
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第28条 | 相当な生活水準及び社会的な保障 |
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第30条~のポイント
第30条以降は、この条約に基づくさまざまな取り組みについて、それを維持したり監視したり、国連の「障害者の権利に関する委員会」に報告したりすることを定めています。
第30条は障害者が社会的な活動や余暇活動に参加できるよう保障する内容で、第29条以前のように条約に基づく具体的な取り組み内容の規定です。
一方、第31条以降は、国としてこうした取り組みを維持・監視するために専門の組織を設置すること、定期的に国連に報告すること、その報告を国連の「障害者の権利に関する委員会」が確認して必要な助言等を行うこととしています。報告を提出するのは、条約の締結から2年後が最初で、それ以降は少なくとも4年ごとに報告しなさいというルールです。もしこの報告が非常に遅れている場合は、「障害者の権利に関する委員会」が審査する必要があることをその締結国に伝え、審査に参加するよう要請できます。
第30条 | 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加 |
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第33条 | 国内における実施及び監視 |
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第34条 | 障害者の権利に関する委員会 |
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第35条 | 締結国による報告 |
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第36条 | 報告の検討 |
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2022年8月に対日審査を実施
2022年8月、スイス・ジュネーブにおいて障害者権利条約に関する日本の取り組みについて2日間の審査が行われました。コロナ禍の影響で実施が約2年延期されていたものの、ようやく最初の対日審査が実現しました。実施方法は、「障害者の権利に関する委員会」が日本政府に質問を提示し、日本政府がそれに回答する「建設的対話」という形式です。
審査後は、その結果をまとめた総括所見(勧告)が出されました。対日審査の総括所見は、いくつかの日本の取り組みを評価する一方で、精神疾患をもつ方の強制入院、障害児の分離教育、障害をもつ女性が受ける複合的差別に対するさらなる取り組みを強く求めています。
障害者権利条約の国内監視機関である内閣府の障害者政策委員会でも、同様の問題意識をもっているようです。しかし、審査で参照された民間団体のパラレルレポートと日本政府による報告で大きく異なる部分が見られました。
全国の福祉作業所が参加する団体「きょうされん」の声明では、「日本の障害施策の課題の本質に迫る質問を投げかける権利委員と、法制度の紹介や自身のとりくみの正当化に終始した日本政府との姿勢の違いが際立った」(※1)と述べてられています。精神障害当事者会「ポルケ」も、精神障害をもつ方の自由と安全、強制治療、虐待、障害者の施設収容などに関する「障害者の権利に関する委員会」の懸念を特に伝えています(※2)。
総括所見の公定訳はまだ出ていませんが、ポルケが紹介している仮訳により日本語で概要を確認できます。
障害をもつ方が自らの意思で選択して生活や仕事ができるよう、日本国内でのいっそうの取り組みが求められています。
※1 【障害者権利条約 日本審査】総括所見を受けての声明|きょうされん (2022年10月21日閲覧)
※2 【情報提供】障害者権利条約 総括所見公表されました(速報)|ポルケ (2022年10月21日閲覧)
【参考】
障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)|外務省
【障害者権利条約 日本審査】総括所見を受けての声明|きょうされん
【情報提供】障害者権利条約 総括所見公表されました(速報)|ポルケ