2021/07/15
アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)とは? 企業や大学が連携して進める障害者雇用
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障害者雇用に取り組む企業の中には、他の企業と協働して進めているところもあります。そのような取り組みのひとつが、一般社団法人「企業アクセシビリティ・コンソーシアム」です。同法人は大学と連携して「ACEチャレンジセミナー」「ACEインターンシップ」なども実施しています。
もくじ
一般社団法人「企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE:Accessibility Consortium of Enterprises) 」とは?
企業アクセシビリティ・コンソーシアム(以下、ACE)では、日本の障害者雇用を推進するため、数十社の企業が参加してさまざまな活動を行っています。日本IBMの研修施設で行われたアクセシビリティ・フォーラムがきっかけで、2013年に発足しました。
ACEの活動目的と活動内容
ACEの活動の目的は、「企業の成長に資する新たな障がい者雇用モデルの確立のため、当事者への啓蒙活動、ロールモデルの輩出、経営者や社会への提言等を行う」こと。具体的には、以下のような活動を行っています。
<ACEの活動内容>
- セミナーやワークショップ開催
- 定例会
- ワイガヤセミナー(障害のある社員対象、障害種別ごとに開催、企業を超えた交流)など
- 「ACEフォーラム」の開催(毎年)
- 基調講演
- 対外的成果発表
- ロールモデル表彰(ACEアワード)
- 大学の支援室やキャリアセンターとの連携
- 障害のある学生向けキャリアセミナー(ACEチャレンジセミナー)
- 障害のある学生向けインターンシップ(ACEインターンシップ)
- 障害のある学生の修学・就職支援に関する企画・広報・実施・ノウハウ共有など
- 教育冊子の発行
- 障害者の就労に関する調査
など…
企業同士の障害者雇用に関する定例会やノウハウの蓄積・共有だけでなく、障害をもつ学生を対象とした具体的な支援や啓蒙活動を実施しています。
ACEの特徴
ACEの第一の特徴は、障害者雇用に積極的に取り組む大手企業が業種・業態を超えて集結していることです。参加企業は2020年10月時点で37社。日本IBM、清水建設、セコム、IHI、アサヒビールといった企業が見られます。
2016年には、メンバー企業の行動指針として「ACE憲章」も制定しました。
<ACE憲章>
- 障がいのある社員が制約を機会に変え、イノベーションを創出する支援をします
- 雇用に関わるすべての人の意識を変革し、障がいのある社員の本質的な労働統合を目指します
- 障がいのある社員の個が持つ強みを活かし、自らの意思で挑戦をできる環境を構築します
障害の有無にかかわらず企業で活躍できるように、ビジネスの中でそれぞれの障害特性を生かした業務を行ったりスキルアップやキャリアアップ、イノベーションに挑戦できたりする環境を整えること、雇用に関係する全ての人々が障害者雇用について理解し、共に働けるようになることがポイントとなっています。
発足のきっかけ
ACE発足のきっかけは、日本IBMの研修施設天城ホームステッドで開催されたアクセシビリティ・フォーラム内の提言でした。同フォーラムは、日本企業における障害者雇用の在り方、今後の進め方について議論するものです。2011年には有志団体として「ACE」が発足し、23社が参加。2013年9月に社団法人として設立され、この時点で24社が参加しました。2020年10月での参加企業数はさらに増加し、37社となっています。
「ACEインターンシップ」の特徴と2020年度の参加企業・大学
就職を希望する学生にとって重要なのが「ACEインターンシップ」です。ACEと大学の支援室やキャリアセンターが連携して実施するもので、ACE開催の「ACEチャレンジセミナー」(障害をもつ学生向けキャリアセミナー)後に行われます。
ACEインターンシップは、業種の異なるさまざまな企業のインターンシップに複数参加できることが特徴。インターンシップの日程は企業それぞれだが、1週間以内で実施されることが多いようです。
ACEインターンシップの特徴
ACEインターンシップが他のインターンシップと異なるのは、障害をもつ学生が自分の強みに気づけることです。
インターンシップの前に開催されるACEチャレンジセミナーでは、「StrengthFinder」(米国ギャラップ社開発)を使って100個以上の質問に答え、学生自身が自分の強みを確認・発見。これに加えて、障害のある先輩社員に質問したり、働く上でのポイントを教えてもらえたりします。
セミナーのあとは、ACEに参加する企業の中から興味のある業界のインターンシップに複数参加可能。企業紹介ビデオに字幕があったりUDトークが活用されていたりと、障害特性によって不利益が生じないよう情報保障があるのも、一般のインターンシップにはない配慮でしょう。
※UDトークとは…
1対1の会話から多人数の会話まで対応可能な「コミュニケーション支援・会話の見える化アプリ」。「音声認識+音声合成」では視覚障害者や聴覚障害者を支援、「漢字かな変換や手書き」では障害特性から漢字が苦手な方を支援できます。これらの機能により、リアルタイム字幕も作成可能です。
ACEインターンシップでは、グループワークが多くあります。グループワークを行うことで働くためのコミュニケーションスキルを磨くことができ、障害をもつ参加者同士で協力して仕事をするという体験ができるからです。お互いの障害特性を踏まえた解決策を模索するスキルを獲得することも、実際の就労を考える上で大きなポイントになるでしょう。
また、企業担当者との面談体験を通して、企業担当者とどうやって話せばよいのか、何を話せばいいのかなど、就職面接の具体的なイメージを持てる点も大きなメリット。職場で求められること、職場で受けられる配慮などを具体的に聞けることは、その後の就職活動や就労を考える上で大切なことです。
2020年度の参加企業・大学と参加者からの評価
コロナ禍の2020年度におけるACEインターンシップは、企業訪問型とオンラインによるWeb参加型の2パターンで開催。2020年9月に実施し、関東・関西・東海・九州の大学から、延べ135名の学生が参加しました。
・参加企業
実施形態 | 参加企業 |
訪問型 | JTB、凸版印刷、堀場製作所 |
オンライン | 神戸製鋼所、清水建設、積水ハウス、セコム、TOTO、ニチレイフーズ、日本IBM、日本航空、パナソニック、ブルームバーグ、みずほフィナンシャルグループ |
・インターンシップ/セミナー参加大学
地域 | 参加大学 |
関東 | 青山学院大学、駒澤大学、十文字学園女子大学、聖学院大学、成蹊大学、専修大学、千葉商科大学、筑波大学、筑波技術大学、東京女子大学、東洋大学、獨協大学、明治大学、明星大学、立教大学、早稲田大学 |
東海 | 静岡大学、名古屋大学 |
関西 | 大阪電気通信大学、大阪人間科学大学、関西大学、京都大学、京都工芸繊維大学、甲南大学、神戸大学、神戸学院大学、四天王寺大学、立命館大学、龍谷大学 |
九州 | 九州大学 |
参加者からは、「働くために何が重要かを知ることができた」「意外と自分が人前で話せることが分かった」「障害特性による課題をどう解決するか、イメージをもてた」といった評価が聞かれました。
「ACEアワード 2020」と受賞者
ACEは障害をもつ学生の就職支援を行うとともに、実際に障害をもちながら働く社員や、そうした社員を支援する企業内の組織・メンバーの支援も行っています。その取り組みの1つが、「ACEアワード」です。
2020年度の募集部門
「ACEアワード」では、「企業の成長に資する、企業の競争力強化に資する障がい者雇用」のモデル事例を表彰しています。「ACEアワード 2020」の募集部門は「個人部門」と「環境づくり部門」でした。
個人部門は、障害をもって働く方のうち、指定の要件を1つ以上満たす方を対象に表彰。指定された要件は、業務遂行における高い能力がある、キャリアを重ねてリーダー(管理職)またはスペシャリスト(専門職)として活躍できるといったことです。
一方、環境づくり部門では、各企業で活躍する障害のある社員の働きやすさや成長につながる仕組みづくりを推進する組織、支援メンバーを対象に表彰が行われました。
個人部門の受賞例
個人部門で表彰されたのは、「ベストチャレンジ賞」1名、「ベストメンター賞」1名の2名です。
「ベストチャレンジ賞」は、ANA福岡空港で働く聴覚障害をもつ社員が受賞。休日の気分転換でも、カメラを持って空港へ出かけるほど飛行機が大好きな方です。
航空機の地上作業をサポートする車両の管理、業務の生産管理を担当しており、パソコンを使った業務が得意。紙書類の電子化のほか、現場の課題を分析して解決に取り組むなどして意欲的に働いていることが評価されました。
「ベストメンター賞」では、ANA関西空港で働く知的障害をもつ方が表彰されました。貨物・郵便の梱包、専用機材への積載、貨物データの入力などを担当し、業務の中で後輩の相談にのったり、新入社員にアドバイスしたりしています。
毎週月曜日の一斉清掃にも率先して参加する、ANAグループ他社とのコミュニケーションにも積極的であるなど、活気ある職場環境づくりに大きく貢献したことが受賞の理由。今後は職域をひろげていくことが目標とのことでした。
(関連記事)
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環境づくり部門の受賞例
企業の組織や支援メンバーを対象とする「環境づくり部門」では、NTTと大和証券グループが受賞しました。
NTTでは分身ロボット「OriHime-D」を活用した働き方改革を行い、大阪の病院から働く障害のある方による受付業務を2020年2月から開始。2名から始め、その後4名に増やしています。
「OriHime-D」を使って業務を行うことで遠隔地に住む障害者の就労を可能にし、分身ロボットのパイロット、上司、ダイバーシティ推進室メンバーで毎週オンラインミーティングを実施しながら、チームとして業務に取り組みました。
※OriHimeの活躍…
他の企業でも業務を担当したり地域貢献に活用されたりなど、さまざまな形でOriHimeが登場します。以下の関連記事で紹介しているように、障害のある子どもたちとの交流に活用された事例もあります。
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大和証券グループの取り組みでは「Daiwa LEAP Plan」が評価されました。「Daiwa LEAP Plan」は2018年から導入され、障害者雇用推進のために多様な体制や職場環境改善、支援を実施するもの。たとえば、以下のような取り組みを行ってきました。
<Daiwa LEAP Planにおける取り組み>
- 相談体制の強化とコミュニティの構築
- 障害のある社員が気軽に相談できる窓口を設置
- 障害者が参加するコミュニティを構築し、交流・相談できる環境をつくる
- 職場環境の改善
- 研修センターのバリアフリー化
- 仕事をする上で必要なツールを配布(音声をテキスト化するツールなど)
- 経済的な支援「就業サポート制度」
- 仕事をする上で必要な補装具等の費用を補助(車いす、補聴器、拡大鏡、杖、音声時計など)
- 通院休暇の導入
- 定期的な通院で休暇を使い切ってしまうという問題への解決策
- 企業風土の醸成など
- 管理職向けのeラーニング研修を実施(障害者への適切でひるような配慮と支援について学ぶ)
- その他
- 内定者のご家族に手紙を送り、職場訪問イベントに招待
- 事前に職場を見てもらうことで、安心して働き始められるように配慮
いずれも障害をもつ社員にとって重要な合理的配慮。障害をもつ社員の家族も視野にいれた支援体制を築いていることが分かります。
ACEのBLOGで調査結果や事例を見てみよう
障害者雇用では従業員の障害特性に応じてさまざまな工夫が必要になります。障害のある従業員も事業主も「どうしてこうなるの?」「どうすれば解決できる?」と頭を抱えることが多いもの。そんなときは、ぜひ他社の障害者雇用を参考にしてみてください。
ACEでは、活動内容や会員企業における好事例の一部を「BLOG」で発信。調査結果から見える障害者雇用の課題や、現場でのさまざまな工夫を見ることで「こうすればいいのかも」というヒントが見つかるかもしれません。
「障がい者としごとマガジン」でも、引き続きさまざまな好事例や工夫、支援制度の情報をお伝えしていきます。
【参考】
一般社団法人 企業アクセシビリティ・コンソーシアム 公式サイト
一般社団法人 企業アクセシビリティ・コンソーシアム「第7期活動報告書[2019.9〜2020.8]