2023/02/21
【合理的配慮好事例・第25回】どうする?視覚障害・聴覚障害の労働災害防止対策
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視覚障害や聴覚障害を持つ方の場合、視覚や聴覚に障害のない方には問題なく認識できるものに気づけない場合が少なくありません。ときに、それは転倒や衝突といったヒヤリハット事案につながってしまいます。視覚障害者や聴覚障害者を雇用する企業では、どのような対策を行っているのでしょうか。今回は、JEEDによる令和3年度の事例から4社の取り組みを紹介します。
視覚障害者が移動しやすくするには「カーペットの色」を活用
視覚障害者は、色の微妙なコントラストの違いを見分けることが難しいケースが多く見られます。遠近感が分かりにくいという特性を持つ方もいます。弱い視力や片目だけの知覚でも分かりやすくするには、床や壁の色や照明の光を活用するとよいでしょう。
株式会社ニッセイ・ニュークリエーションの天井と床
株式会社ニッセイ・ニュークリエーションでは、片側の視力だけで見ている社員や視力の弱い社員が安心して移動できるよう、天井と床に工夫を施しました。
まず、進行方向や通路が交わる地点を分かりやすくするため、細長いライトを天井に設置。細長いライトは主に通路の向きを示しており、通路が交わる地点ではライトも交差します。ライトによる視認性を高めると同時に、社員にとってまぶしすぎないよう、適切な明るさにできる照明器具を選びました。
床と壁については、「境目がはっきりせず、広さや遠近感をつかみにくい」という課題を解決するため、床のカーペットを白と黒で貼り分けました。壁との境目に近い床面を黒にするというシンプルな施策ですが、「白と黒の反対色ではっきり色分けされ、誘導に沿ったラインになっているので安心して通行することができます」と好評です。廊下の広さや大きさ、遠近感も分かりやすくなりました。
ポラスシェアード株式会社も床面の色分けで通路を確保
ポラスシェアード株式会社も、事業所の床面に貼るカーペットをはっきりしたコントラストの2色にして、通路部分とそれ以外で貼り分けました。
カーペットの色分けを行う前は、足元に荷物や椅子が出ていることがあり、視覚障害を持つ社員がそれに気づかず危ない思いをすることがありました。そこで、事業所移転の際に内装業者と協力し、通路と通路以外の部分が明確になるよう異なる色のカーペットで貼り分けたのです。色は、視覚障害を持つ社員に実際に見て選んでもらいました。
床面の色分けで、どこが通路か一目で分かるようになり、通路を塞がないようにする配慮が積極的に行われるようになりました。椅子の脚をはみ出させない、荷物を通路に置かないといった行動につながり、以前発生していたヒヤリ事案も発生しなくなったそうです。
聴覚障害者に必要な「光」とコミュニケーション手段
通常、誰かに危険を知らせたり呼び出したりする際は、音を使うことが多いでしょう。しかし、聴覚障害を持つ社員に音だけで知らせるのは困難です。業務上のコミュニケーションにおいても同様で、声による会話ではなく、視覚情報を活用する必要があります。
株式会社キトー 工場や組立ラインで「ライト」を活用
聴覚障害者を雇用する株式会社キトーには、安全確保や円滑な業務の遂行にあたり、2つの課題がありました。
1つめの課題は、工場内での無人搬送装置やフォークリフトの接近に、聴覚障害を持つ社員が気づかない場合があること。2つめの課題は、組立ラインで部品不足やミス発生時に鳴る呼び出し音と光に、聴覚障がいを持つ品揃え担当者が気づかない場合があることです。
1つめの課題を解決したのは、装置本体やフォークリフトに新しく取り付けたライトです。ライトは、床面に進行方向を矢印で投影するもの。視覚的に接近を知ることができるため、聴覚障害者だけでなく社員全体の危険回避や安全確保にもつながりました。初めて工場を訪れる来客者にも、安全に移動してもらえるようになったそうです。
組立ラインの課題解決でも、光を活用しました。もともと、担当者の呼び出しには音に加えてパトライトの点滅も使っていました。しかし、担当者が背を向けているとライトの点滅に気づけないという課題が発生。そこで、シンプルにライトを増やしたのです。天井や壁面に追加設置したことで、どの場所からでも呼び出しに気づけるようになりました。
ウシオ電機株式会社では聴覚障害者とのコミュニケーションを重視
ウシオ電機株式会社では、聴覚障害のある社員を多く雇用しています。そのため、音に頼らないコミュニケーション手段を確保し、聴覚障害のある社員が安心して働ける職場づくりを進めてきました。
ウシオ電機の取り組みは多岐にわたります。ハード面では、見通しの悪い場所へのミラー設置、筆談ボードの設置など。ソフト面では、各種勉強会や情報共有、当事者が執筆したコラムの発信、個別相談などを実施しました。
筆談ボードは、聴覚障害のある社員の自席にそれぞれ設置されるとともに、受付や食堂といった共用スペースにも置かれています。同時に、社内で手話勉強会を開催し、声以外によるコミュニケーション方法を複数確保してきました。コロナ禍でのマスク着用で「聴覚障害者にとって重要な口の動きや表情を隠してしまう」という難点を克服するため、手話勉強会では「透明マスク」も活用しました。
他にも、聴覚障害について理解を深める社内セミナーや社内機関誌などでは、具体的な対応方法を共有。「受け入れ時の注意」や「総合朝礼・社内セミナー等の配慮」などを箇条書きで分かりやすく、簡潔に説明するとともに、聴覚障害のある当事者が執筆するコラム「音の色」も発信しています。
同社では、入社1年目の聴覚障害のある社員には、定期面談で安全衛生や仕事に関する相談に応じています。気軽に相談できる場所を確保することで、「周囲に理解者がいない」という問題を抱える社員を大幅に減らすことに成功しました。
こうした設備改善、コミュニケーション手段の確保、相互理解の促進が、社員全体の安全意識が高まり、安心して働ける職場づくりにつながっています。
当事者の不安に向き合った設備改善とコミュニケーション手段の確保を
今回ご紹介した視覚障害者、聴覚障害者の安全に向けた取り組みでは、設備面での工夫が多く見られました。まとめると、以下の図のようになります。
視覚や聴覚に障害のない方には「このくらい見分けられるだろう」「これで伝わるだろう」と考えていても、障害のある当事者には難しいことが往々にしてあるものです。こうした合理的配慮の提供にあたっては、ぜひ「何が課題なのか」「その工夫で本当に課題を解決できるのか」を当事者の意見を聞きながら検討・検証してみてください。きっと、より効果的で効率的な合理的配慮の提供につなげられるでしょう。
【参考】
障害者の労働安全衛生対策ケースブック(令和3年度)|JEED