障害のある生活で絵を描く「Doronko パラリンアートカップ 2024」グランプリ・どろんこ賞受賞者インタビュー


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2024年12月4日、東京都の浜離宮朝日ホールにて「Doronko パラリンアートカップ 2024」の表彰式が開催されました。スポーツをテーマに、障害のある方々からアート作品を募集する本コンテスト。表彰式当日の様子と受賞者の声をお届けします。

12月4日「Doronko パラリンアートカップ 2024」表彰式を開催

12月4日、東京都の浜離宮朝日ホールにて、一般社団法人障がい者自立推進機構(以下、障がい者自立推進機構)が主催する「Doronko パラリンアートカップ 2024」の表彰式が開催されました。

スポーツをテーマに障害のある方々からアート作品を募集する本コンテスト。第8回となる今年は『拓け、新たなジブン』をテーマに募集し、全国から 250 点もの個性豊かなアート作品が寄せられました。

今年の特徴は、協賛にどろんこ会グループを迎え、パラリンアートカップで初となる小学生以下部門が設置されたこと。どろんこ会グループは全国で180近くの保育園や子ども発達支援センターなどの障害児施設、就労支援事業所などを設置・運営しています。

特にこの10年間は、日本で前例のなかった保育園と障害児施設の完全併設・双方支援を実現した完全インクルーシブな施設の建設・運営に注力し、子どもたちもスタッフも交ざり合って食事・生活を行う場を実現してきました。

社会福祉法人どろんこ会(以下、どろんこ会)の安永愛香理事長は、「こういったパラリンアートカップといったようなものに子どものうちから参画できる、そういった国にしていきたい」という強い思いから、今回メインスポンサーを務める決意をしたとのことです。

また、パリオリンピックで活躍した男子体操団体の金メダリスト・橋本大輝選手も今回初めて審査に参加しました。

グランプリ、準グランプリのほか、審査員特別賞、高橋陽一賞、北澤豪賞、各選手会賞、そしてどろんこ賞2部門などで作品を選出。審査員でありアーツカウンシル静岡のチーフプログラム・ディレクター 櫛野展正さんは、「絵のうまい・下手ではなく、今回、皆さんの個性が十分に発揮され、描きたいものが本当に描けているか、これを審査のポイントとしました」と語りました。

【グランプリ・準グランプリ受賞作品】

作品画像提供:パラリンアート運営事務局

【どろんこ賞受賞作品】

作品画像提供:パラリンアート運営事務局

【審査員特別賞・個人賞・選手会賞 受賞作品】

作品画像提供:パラリンアート運営事務局

編集部は、グランプリを受賞した鈴木綾子さん、どろんこ賞パイオニア部門を受賞した成田真梨菜さんに、これまでの活動や制作についてうかがいました。

グランプリ・鈴木綾子さん、無趣味から絵の世界へ「だんだんうまくなっていくのが嬉しい」


撮影:編集部

グランプリを受賞したのは、鈴木綾子さんの作品「国体優勝の夫」。23年前の2001年に開催された国民体育大会(現・国民スポーツ大会。以下、国体)のウエイトリフティングで優勝した夫の姿を描いたものです。夫のアルバムにあった写真を参考に2019年から何度も描いてきた夫の姿を、本コンテスト用にアクリル絵の具で仕上げました。

鈴木さんは42歳のときに脊髄髄内腫瘍で手術を受けましたが、その後遺症で現在は右手・右脚にまひがあるそうです。障害により右手から左手への利き手交換を進めています。そうした生活の中、ダイソーでパラリンアートのポスターを見かけて応募。これが、絵を始めたきっかけでした。

鈴木さんには、「SOMPO パラリンアートカップ 2019」での受賞経験があります。その作品「ボールよ、風を切れ!!」は、各都道府県から1作品ずつ選出される「損保ジャパン日本興亜賞」の宮城県代表に選出。「漫画家の高橋陽一先生に選んでいただいた」ことが、作品制作を続ける大きなモチベーションになってきました。

当初は水彩絵の具で制作していましたが、昨年からはアクリル絵の具と油絵の具に挑戦。絵画の個人レッスンに通い、苦手意識のある人物画で練習を重ねてきました。

制作で難しかったのは、人物の顔を夫に似せて描くことだったと言います。それでも、描き続けるうちにご自身でも上達していることを感じていたとのこと。「先生の指導のもと、だんだんうまくなっていくのが嬉しくて。楽しくなっちゃったのかな」と、鈴木さんは笑顔で話しました。

今回の作品のポイントの1つは、背景の色合いやアテンプトボード(ウエイトリフティングで使われる測定器・重量掲示器・計時器をまとめたボード)を人物より目立たないように抑えて描いたところ。全体的に柔らかく明るい色になるようにした点も、作品から感じられる温かなまなざしにつながっています。

鈴木さんの手は、寒さの中では動かしづらくなり、絵筆を持つことも困難になります。そのため、応募作品は夏場に一気に制作。家事・育児でご両親の支援を受けつつ、寝る間を惜しんで描き続けました。


作品画像提供:パラリンアート運営事務局
編集・テキスト:障がい者としごとマガジン

プレゼンターを務めた障がい者自立推進機構の理事でタレントの中山秀征さんは、「絵からにじみ出ている優しさであったり、素朴さであったり、それでいて何というか、喜びが伝わってくる。2019年に作品がスタートしたわけですけれども、その思いの長さ、ここに至るまでの経緯というのが、時間をかけてゆっくり作り上げられたのかなと思います」とコメント。鈴木さんには、賞状と賞金、純銀製シャーレが贈られました。

「来年は、サッカーを描きたいです。先生にも、人物の集団を描くことを習いたい」(受賞者・鈴木さん)

地元のベガルタ仙台の観戦に行くほどサッカーが好きな鈴木さん。次の作品では、チームの団結力を表現したいとのことでした。

どろんこ賞パイオニア部門・成田真梨菜さん、コンテストや個展など精力的に活動


撮影:編集部

どろんこ賞パイオニア部門を受賞したのは、成田真梨菜さんの作品「華の近代五種」です。人と動物の共存共栄をテーマに「“華の都”パリで、人間も動物も、国籍や性別も超えて、力を合わせてスポーツを楽しむ様子」を描きました。

はじめは馬術を描こうとしたものの、どうしても「競馬みたいになってしまう」ということで、近代五種に切り替えて制作。水泳の選手にキリンのような模様がついていたり、フェンシングの選手がコウモリだったりと、とてもユニークな作品に仕上げられました。

絵は子どもの頃から描いており、小学生の頃はポケモンや高橋留美子さんの『うる星やつら』『らんま1/2』のキャラクターを真似して描いていたそうです。高校・大学でも美術を学びました。

ただ、大学生活では人間関係に困難を感じたそうです。発達障害などで20歳の頃に障害者手帳を取得。大学を2年で中退することになりますが、退学の年に地元美術館の館長に声をかけられ、個展を開催しました。成田さんのアートの道は、そこから一気に開けました。

今回の作品で使用した画材は、ポスカとアルコールマーカーです。応募のきっかけは、通所する就労継続支援B型事業所のスタッフの方に「応募してみたら」とすすめられたこと。普段はアクリル絵の具で2〜3カ月かけて描くものの、今回は個展やグループ展など多忙な中で制作時間をあまりとれず、1週間ほどで制作したとのことです。

鮮やかな色の組み合わせや細かい模様が印象的な成田さんの作品には、至る所に多様なモチーフが見られます。水泳選手の水しぶきとともに描かれているのは、「フランスといえばワイン」という着想からブドウの実と葉を、背景にはパリの華やかさをイメージして様々な花を織り交ぜて描きました。


作品画像提供:パラリンアート運営事務局
編集・テキスト:障がい者としごとマガジン

こうした細かい描き込みが「大好き」だと語る成田さん。白い画面は「ちょっと怖い」とのことで、それを「全部埋めたい」ため、こうしたモチーフや模様を描き込んでいるとのことでした。

現在、成田さんは複数のアートコンテストで受賞し、個展やグループ展も精力的に行っています。直近では、2025年に就航するクルーズ客船「飛鳥Ⅲ」のアート公募展で準グランプリを受賞。就航から約2年間、船内に作品が常設展示されます。個展では、2025年5月に仙台ヒルズホテルで個展を開催。今後は、同じ仙台市の「Gallery A8T(ギャラリーエイト)」で2025年1月に、東京では6月に銀座の「ギャラリー上田」で個展を開催予定です。

「絵を描くことは、生活の一部。人とコミュニケーションを取るための手段です」と話す成田さん。作品から何を感じるかは鑑賞者に任せたいとしつつ、「作品を見て、元気になった」と言ってくれる人が多いことは「嬉しい」と語りました。

表彰式当日は、ご自身の絵をプリントした華やかなスカートで出席。テキスタイルとしても映える成田さんの作品にはデザイン的な魅力もあり、今後の活躍が楽しみなアーティストです。

成田さんには、賞状と賞金、そしてどろんこ会グループの子どもたちが丹精込めて育てた「どろんこ米」60kgが贈られました。


撮影:編集部

高橋陽一さん「長く続けていってほしいという思いでいっぱい」


撮影・提供:谷本結莉

「個性がやっぱりみんな違うので、選ぶのが難しかった」とトークショーで振り返った安永さん。その多様な魅力から、あらためてどろんこ会の活動の意義を話します。

「幼いうちから障害があるお子さんを特別に扱いすぎると、皆の中で当たり前に交ざって暮らしていくっていうことが、なかなかしづらい世の中になってしまう。なるべく幼いうちから皆に交ざって表現もするし遊びもできる、そういった現場作りを私たちが頑張っていかなきゃなと思っています」(どろんこ会・安永さん)

今回初めてパラリンアートの審査に参加した橋本選手は、「色使いというところで、たくさんの色を使っているにもかかわらず一体感を表現している絵や、試合会場を描いている絵がたくさんありました。しっかり細かいところまで、試合会場を生で、近くで見ているような感覚になりました」と感想を述べるとともに、ご自身の体操人生を振り返ります。

「6歳の時は『練習行きたくないな』って思ってました。週2日行ってたんですけれども憂鬱でした。それが1年くらい経つと、体操の技がどんどんできるようになってきて、今までと違った景色が見えるようになって。ケガはつきものですけど、汚れること、ケガすることは悪ではないので、次へのステップだと思って取り組んでいます」(橋本選手)

マメがつぶれて手が血だらけになること、練習中にぶつけてあざができることなどを「色がつく」と表現した橋本選手。パラリンアートのアーティストが手や服に色をつけながら制作する様子と重ねられ、“挑戦・上達の先に新しい景色が広がる”とエールを贈りました。

パラリンアートカップの第1回から審査員を務める日本障がい者サッカー連盟会長・北澤豪さんも、「我々は思いをもってプレーをしている。その思いを描いてくれる人がいると、それがまた(人々に)伝わる。アートを描かれた人たちとの親和性を感じた」とコメント。

最後に、同じく第1回から審査に参加し、今回が最後となる漫画家・高橋陽一さんが「長く続けていってほしいという思いでいっぱい」と語りました。

「第1回から審査をさせていただいてるんですけれども、皆さんの絵を見るのは毎回楽しくて。その絵を見ることによって、僕自身もすごい励みになりました。ぜひともこのコンクールを長く続けていってほしいなという思いでいっぱいです」(高橋さん)

高橋さんには、グランプリの鈴木さんから、花束と左手で制作した刺しゅう作品が贈られました。

取材協力:
パラリンアート運営事務局
鈴木綾子さん
成田真梨奈さん

【参考】
一般社団法人障がい者自立推進機構 公式サイト

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