2025/12/24
【就労継続支援A型・B型事業所】不適切な支援を見抜くチェックポイント
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近年、安易な就労継続支援事業所の開設が不正受給問題につながり、利用者にも大きな不利益をもたらしています。いわゆる「就労継続支援ビジネス」の事業所を避けて適切な支援を受けるには、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。
厚生労働省が発表したガイドラインを参考に、利用希望者がチェックすべきポイントを解説します。

就労継続支援A型・B型事業所による不正受給報道

最近、就労継続支援事業所による給付費の不正受給をはじめとする不適切な運営が多く報道されています。就労移行支援体制加算を悪用したと思われるA型事業所では、一般就労とA型事業所利用の切り替えを何度も繰り返すなど、本来の目的とは異なるシステムで加算を算定して自治体から問題視されました。
これらの事業所が開設される背景には、「就労継続支援事業は儲かる」といった利益目的の起業があります。
「国からの給付金で運営」
「債権回収リスクが低い」
「収益性・安定性が高い」
「大規模な設備投資が不要」
「加算をしっかり取得すれば収益を確保できる」
こうしたアピールに代表されるように、「給付費をいかに多くもらうか」にばかり注目し、就労継続支援事業の根幹となる利用者への適切な支援の提供はほとんど考えられていません。
厚生労働省でも、「『特段の知識等がなくとも事業所の運営は可能であり、高収益が実現できる』等の謳い文句により、指定希望者に安易な事業所の開設を勧める等の不適切な行為を行っている者がいる」と問題視しています。*
就労継続支援事業所・利用者の7つのチェックポイント

問題事例に該当するような就労継続支援事業所を避けるには、どのような点に気をつける必要があるのでしょうか。
これには、厚生労働省が2025年11月に発表した「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」が参考になります。このガイドラインは自治体向けのものですが、“不適切な事業所を見抜く”ために確認すべきポイントがまとめられており、就労継続支援事業の利用希望者にとっても役立つものです。
以下に、本ガイドラインで利用希望者の参考になる主なポイントをまとめました。
(1) 法人理念と利用者の募集方法は適切か
(2) 仕事内容は適切か
(3) 在宅支援がある場合、支援内容・方法は適切か
(4) 地域ニーズを把握し、障害に関する知識と支援ノウハウがあるか
(5) 地域の関係機関と連携しているか
(6) 施設外就労を行っている場合、その方法は適切か
(7) 情報公開をしているか
順番に見ていきましょう。
(1)法人理念と利用者の募集方法は適切か
最も確認しやすいのは、事業所の法人理念と利用者の募集方法です。
法人理念は、事業所と自治体の面談および事業計画書でも確認される重要項目。公式サイトにも、ほとんどの企業が掲載するような重要な理念です。これを答えられない場合、残念ながら、その事業所の信頼性は高くありません。
利用者の募集方法については、ガイドラインで紹介されているNG例を参考にしましょう。これらの方法で募集している事業所は、ルールの理解や支援の在り方に疑問を持たれる恐れがあります。
【利用者募集方法のNG例】
|
NG行為 |
具体例 |
| 実質的に金品や物品の提供をうたった募集を行っている |
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| 交通費や昼食費の一律的な提供をうたった募集を行っている |
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| 非雇用型利用者に技能給を導入している |
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利用者を多く獲得しようとしてNG行為をすることは、「支援を必要とする人に支援を提供する」のではなく、「サービスの押し売り」に近い状態です。「この勧誘の仕方はおかしいのではないか」と感じたら、自治体で障害福祉を担当する窓口に相談してみてください。
(2)仕事内容は適切か
次に確認しやすいのは、仕事(生産活動)の内容です。
就労継続支援事業などでの仕事内容は、IT技術の発展とともに拡大してきました。パソコン操作によるデータ入力や情報収集、動画作成などが代表例です。
ただ、そうした新たな職域の中には、「公費による就労支援の生産活動としては不適切」と判断される恐れのあるものもあります。例えば、eスポーツなどです。一般企業でeスポーツを仕事とすることは構いませんが、就労継続支援事業のような福祉的就労では好ましくない場合があるという判断です。
【ガイドラインで「不適切となる可能性」があるとされる活動例】
- eスポーツ
- 植物の水やり(1日数回)だけの活動
- 卓球教室や麻雀教室での手伝いに相当するような活動
- 所定の場所にいればよいというような活動
仕事内容については、事業所の公式サイトや見学時の説明などで確認できるでしょう。事業所の見学時に、公式サイトに記載されている内容と実際の業務が大きく異なることがわかった場合は、その理由や業務の獲得状況なども聞いてみてください。
仕事内容の際に注目したい主なポイントも参考になります。
【仕事内容のチェックポイント】
- 具体的な生産活動の場面があるのか(仕事があるのか)
- その生産活動により、一般就労に必要な能力を向上させられる見込みがあるか
- その生産活動により、安定した収入を得られるのか(仕事としての実態があるのか)
- 地域の中に、その生産活動が活かされる労働市場や求人があるのか(一般就労につなげられるのか)
利用者の特性によっては、公式サイトに記載された業務が合わず、別の業務を任せることも考えられます。そのような「本人の得意・不得意に応じた仕事の調整」は必要ですが、これを無視して契約や公式サイトの記載とは大きく異なる仕事が割り当てられている場合は、要注意です。
(3)在宅支援がある場合、支援内容・方法は適切か
コロナ禍以降、障害の有無を問わず在宅勤務という働き方が浸透しました。就労継続支援の現場でも、一定の要件を満たせば在宅で支援を受けることができます。ただ、ここでも問題事例が指摘されています。人の目が届きにくいことを利用して、とても仕事とはいえないようなことをタスクとして与え、支援を行わないケースです。
在宅支援が障害福祉サービスの報酬の対象となるのは、仕事内容が適切であり、緊急時に職員による対応が可能な場合です。特に、問題が発生した際に速やかに事業所職員が駆けつけられる体制であり、就労継続支援事業所が責任をもって対応できる運営計画が立てられていなければ、適切とはいえません。
「在宅でできるからラクでいい」という言葉だけで判断せず、具体的にどのような支援が行われるのかまでチェックしましょう。
(4)地域ニーズを把握し、障害に関する知識と支援ノウハウがあるか
利用希望者にはやや確認しにくいかもしれませんが、支援の質をチェックするために重要なポイントもあります。それが、地域ニーズの把握と障害に関する知識・支援ノウハウの有無です。
地域ニーズについては、法人理念と同様、事業所は自治体との面談や事業計画で明確にする必要があります。そのため、「どのようなニーズに対応した事業所なのか」を答えられるほうが自然です。例えば、
- その地域内にはどのような福祉系の事業所があり、どのような人々が利用しているのか
- 地域内では、どのような場所で障害のある人々が働いているのか(就労支援系事業所、一般企業)
- 特別支援学校など、障害のある人が利用する機関の有無を把握しているか
などを質問してみるとよいでしょう。
障害に関する地域と支援ノウハウのチェックでは、利用希望者自身の障害特性をもとに質問をしてみてください。加えて、問題事例となった事業所で多く見られる「就労継続支援提供実績記録票」(サービス提供実績記録票)を正しく記録し、利用者に確認をとっているかどうかも重要です。
【質問・チェックの観点】
- 自分と同じ障害種別(身体障害・知的障害・精神障害・発達障害)の利用者はどのくらいいるのか、どのくらい支援経験があるのか
- 自分と同じ障害特性の利用者に対して、どのような支援を行ってきたのか
- 自分の障害特性を考慮した仕事内容と支援内容には、どのようなものが考えられるか
- その仕事内容と支援は、どのようなスキルの獲得・向上を目指すものか
- そのスキルの獲得・向上によって、地域内にはどのような就職先の候補があるのか
- 「就労継続支援提供実績記録票」は利用日ごとに作成しているか(就労継続支援事業では、利用日ごとに作成する)
- 「就労継続支援提供実績記録票」は利用日ごとに利用者の確認を受けているか(就労継続支援事業では、利用日ごとに確認を受ける)
障害特性に応じた仕事・支援内容に関しては、支援前であるため答えが曖昧になることもあるでしょう。それでも、「こういう場合は、こういう支援ができる」など例を出してもらうことで、知識の有無や支援の質を推測することができます。
「就労継続支援提供実績記録票」の扱いでは、「利用者の確認はしてもらっていない」と答える事業所があれば、明確にルール違反です。「月1回、まとめて確認してもらう」というやり方も適切な運用ではありません。一部の障害福祉サービスでは、まとめて確認してもらう運用でも構わないとされています。しかし、就労継続支援事業では利用日ごとに利用者から確認を受けるルールです。
(5)地域の関係機関と連携しているか
支援の質を確保するには、地域のほかの関係機関との連携が欠かせません。これには、
- 指定特定相談支援事業所
- 自治体の就労支援機関
- 障害者就業・生活支援センター
- 障害者職業センター
- 特別支援学校
- ほかの就労支援系の福祉事業所(行動援護・生活介護・共同生活援助など)
などが含まれます。
ほかの関係機関との連携が一切ない場合、新たな障害が生じたり、就労支援とは別の支援が必要になったりしても、対応してもらえない可能性が高いでしょう。また、地域内で事業所が孤立し、支援ノウハウを高められずに障害者虐待につながってしまう恐れもあります。
(6)施設外就労を行っている場合、その方法は適切か
利用を検討している就労継続支援事業所が施設外就労を実施している場合は、その仕事内容や就労場所について聞いてみましょう。施設外就労に関するルールを遵守しているかどうかもチェックしてください。
【施設外就労に関するルール】
- 就労能力や賃金・工賃向上、および一般就労への移行につながるものである
- 事業所の運営規程に施設外就労に関する規定がある
- 利用者の個別支援計画に施設外就労が含まれている
- 施設外就労先には、必ず職員が同行し、利用者に対して作業等の指導を行う
- 緊急時の対応ができる体制がある
問題事例では、A型事業所の利用から同法人の会社に一般就労し、その後A型事業所の利用に切り替えることを繰り返す事業所や、職員が同行していないのに施設外就労であるとうたう事業所がありました。
施設外就労は、一般就労に似た環境で働くことで能力向上・賃金向上につながる大切な機会です。一方で、利用者の人数確保に悪用されやすい制度でもあります。本来の趣旨を損なわないよう、適切に運用している事業所を選びましょう。
(7)情報公開をしているか
少し専門的な知識が必要になりますが、就労継続支援事業所が公開する財務諸表などの情報を見ることも役立ちます。
A型事業所では「スコア表」が、B型事業所では財務諸表が公開されています。これらを適切に公開していない事業所は報酬が減算されますので、多くの事業所の資料を見つけられるでしょう。
A型事業所のスコア表では、生産活動の状況や収入、支援の質などに関する各項目の点数をチェックできます。200点満点であり、170点以上だと非常に高い評価と見なされます。法人のサイトなどで見つけにくい場合は、検索エンジンで「(法人名・事業所名) スコア表」と検索すると見つけやすくなるでしょう。
B型事業所の財務諸表は、公式サイトや公的データベース「WAM NET」で見られます。WAM NETには、全国の福祉サービス第三者評価や外部評価なども掲載されています。各事業所の公開情報は「障害福祉サービス等情報公表システム」から、第三者評価・外部評価は「福祉サービス評価情報」から探してみてください。
もし見つけられない場合は、事業所へ問い合わせる際に「情報公開はしていますか?」「公開している情報は、どこで見られますか?」などと尋ねてみるとよいでしょう。
制度の穴を狙うビジネスモデルは福祉の現場を圧迫する
問題事例とされるものの多くは、制度の穴を利用した不適切な“儲け方”につながります。
本来であれば、障害や難病、その他の一般企業への就職が困難な人々が、適切な支援を受けながら働く場と収入を得ていくための就労継続支援事業。この目的を無視した「儲かるビジネスモデル」は、サービスを提供しない事業所が公金から報酬だけを得るという構造になっています。国家のリソースが無駄に使われ、結果として「真面目に支援している事業所が、規制強化によって続けられなくなってしまう」という、利用者の不利益となる事態も進んでしまいました。
A型事業所からB型事業所へ利用者が移るにせよ、一般就労を目指してステップアップするにせよ、安心して利用できる就労継続支援事業所が生き残るには、“信頼できる機関・事業所と連携できる事業所”が正当に評価されなければなりません。
利用したい事業所を選ぶ際も、関係機関の意見・評価も参考にしつつ、「自分の障害特性に対応した支援をしてもらえるか」という視点で、事業所側の対応や事業所内の雰囲気をチェックしてみてください。
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【参考】
* 厚生労働省「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドラインについて」p.4


