2025/08/27
どんな対策ができる?視覚障害者が困る「選挙公報」音声読み上げ問題
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2025年7月に行われた参院選では、選挙公報の音声読み上げ対応版PDFや読み上げ音声ファイルを公開する都道府県が多く見られました。これは、視覚障害者をはじめとする“視覚情報では正確な情報を入手しにくい”人々への合理的配慮の一つであり、情報バリアフリーの取り組みです。
しかし、アルファサード株式会社(以下、アルファサード)の調査から、選挙公報PDFでは全体のわずか4%しか適切に音声化できないことがわかりました。こうした問題について、今後どのような取り組みができるのでしょうか。
情報バリアフリーを意識した選挙公報PDFは全体の4%のみ
2025年7月20日に投開票が行われた参院選。投票率は58.51%となり、前回の2022年参院選よりも6.46ポイント高くなりました。ただ、障害のある人にとっては、候補者の情報を入手しにくい状況もあったようです。
選挙公報の音声読み上げソフト対応版PDFの有無やその品質などを調査したアルファサードによれば、選挙区の候補者でPDFに記載された情報の読み上げ順の設定を行っていたのは、提出した259人のうちわずか14人。PDFの提出自体をしなかった候補者は91人いました。全体で見ると、視覚障害者にとっての情報バリアフリーに対応したPDFは4%のみという状況です。
※選挙公報(音声読み上げソフト対応版PDF)の読み上げ順指定の有無の状況(選挙区)
画像提供:アルファサード株式会社
もちろん、候補者の多くは自身の公式WebサイトやSNSでも情報を発信しています。それらを利用すれば、PDF版の読み上げよりもわかりやすい情報を入手できるかもしれません。しかし、そうした公式サイトやSNSがあることや、そのアドレスを知るための手がかりは決して多くありません。情報の質や簡潔性という点でも、各候補者の選挙公報と同じ情報を期間内に入手するのは困難です。
視覚障害者が選挙で困ること
多くの人にとって、選挙公報は「どのような候補者がいるのか」「どのような主張をしているのか」を知る公的な情報源として、とても重要なツールとなっています。限られたスペースに情報がコンパクトにまとめられているため、各候補者の主張の比較にも便利です。
もし選挙公報がなければ、候補者の公式サイトやSNSを一人ひとり見に行ったり、街頭演説を聴きに行ったり、全員分の政見放送を探して視聴したりしなければなりません。街頭演説や政見放送を見逃した場合、インターネットで公開されている各候補者の公式動画を探しに行くなど、投票に向けたハードルが一気に高くなってしまいます。
こうした問題は、視覚障害者にも生じます。しかも一般的な紙の選挙公報が届いても視覚から情報を得ることが難しいため、うまく活用できません。読み上げ機能に対応していないものからは情報を得られないという、深刻な問題があるのです。
各自治体では、点字や音声、拡大文字といった形で候補者の情報を提供する「選挙のおしらせ版」を希望に応じて作成・配布しています。しかし、自治体によっては受け取るための申請方法がわかりにくかったり、受け取りまでに時間がかかったりするなど、依然として課題となってきました。
例えばNHKは、視覚障害者が理解できる選挙公報について、以下のような実態を報じています。
【視覚障害者の選挙公報に関する困りごと】※
- 点字版選挙公報の作成に時間がかかり、投票日の直前や投票日のあとに届くケースがある
- 投票日の直前に送られてきても、候補者の数が多いと十分に政策を知ることができない
- 選挙公報を音声で読み上げたファイルやCDは、全ての候補者について用意されているわけではない
- 自治体や障害者団体などに事前申請しないと受け取れない場合がある
そこで新たに活用が進んでいるのが、選挙公報の音声読み上げ対応版PDFや選挙公報を読み上げた音声ファイルをインターネット上で公開することです。選挙管理委員会や選挙関連情報をまとめたサイト、各政党や候補者の公式サイトなどに掲載することで、視覚障害のある有権者もすぐにアクセスでき、投票日までの期間に繰り返し聞くことができます。
※出典:
「音声読み上げ対応」の重要性が立候補者に理解されていない?
ところが、冒頭でもご紹介した通り、アルファサードの調査では音声読み上げ対応版PDFの4%しか適切な読み上げができませんでした。比例代表16政党でも、音声読み上げソフトで適切に読み上げられる選挙公報を制作したのは、自由民主党と国民民主党の2つだけです。
音声読み上げの順番が指定されていない選挙公報PDFは、具体的にどのような順番で読み上げられてしまうのでしょうか。編集部でも、いくつかの選挙公報を実際に聞いてみました。
【適切に読み上げられない選挙公報PDFの読み上げ順】
- 例1:横書きと縦書きが混在し、段組ありのタイプ
- キャッチコピー1
- 箇条書きの政策内容
- メッセージ(縦書き)の最終行
- 公式サイトのURL
- 候補者プロフィール
- 比例代表への投票の呼びかけ(政党名の読み上げ無し)
- キャッチコピー2
- メッセージ(縦書き)の最後から2行目(以降1行ずつさかのぼって読み上げ)
- キャッチコピー2の下のアピール文
- 実績のリストの見出しと説明文を混ぜた読み上げ
- 例2:横書きと縦書きが混在し、政策リストを縦書きで作成しているタイプ
- アピール文1
- キャッチコピー1
- キャッチコピー2とアピール文2を混ぜた読み上げ
- 経歴の一部とSNSの情報を混ぜた読み上げ
- 政策内容の9項目め(途中まで)
- 政策内容の7項目め(途中まで)
- 政策内容の2項目め(途中まで)
- プロフィール
- 政策内容の4項目め(途中まで)
(以下略)
- 例3:氏名・政党以外は全て横書き・段組ありで表形式を用いたタイプ
- キャッチコピーと投票の呼びかけ(段組を無視した横方向への読み上げ)
- 表形式で書かれた政策内容(列をまたいで横方向への読み上げ)
- 表形式で書かれた政策内容(日本語音声と英語音声が混在した読み上げ)
- 比例代表への投票の呼びかけ
- 候補者名とプロフィール
基本的には、縦書きと横書きが混在する選挙公報の場合、縦書き・横書きを問わず左から右、上から下へという順番で読み上げられるようです。表形式やリスト形式で作成された部分も、情報の構造を無視して、左から右、上から下という順番になっていました。
「音声読み上げ対応版PDFである」という目的を達成するには、各候補者側が原稿を提出する前に、読み上げ機能を用いてチェックを行う作業が欠かせません。もしこのチェックを行っていれば、その音声を聞いて「これでは伝わらない」と認識できるでしょう。
しかし、実際に掲載されている多くの「音声読み上げ対応版PDF」では、そのチェックが行われたとは言い難い品質でした。多くの候補者側で、視覚障害者の困りごとに関する理解が及んでいない可能性があります。
なお、アルファサードによれば、音声で読み上げて理解できる選挙公報PDFを提出した14人の候補者のうち、10人が当選したとのことでした(自由民主党5人、立憲民主党2人、国民民主党1人、日本維新の会1人、日本共産党1人)。
より多くの有権者に届く選挙公報の対策は?
音声読み上げソフトで適切に読み上げられるPDFを作成するには、PDFファイル自体に読み上げ順の指定や代替テキストを入れる必要があります。
例えば、Adobe Acrobat Reader ProなどのPDF編集ツールを用いて、タグ付きPDFを作成する方法です。タグを付けることで、読み上げソフト側で文章構造を把握し、正しい順番で読み上げることが可能になります。
グラフやイラストについては、そのままでは読み上げられないため、代替テキストという説明文を設定します。グラフを入れるのであれば、例えば「○○年には30%だったものが、××年には50%まで増加」といったテキストがよいでしょう。有権者に注目してほしい情報を文章で設定するということです。
加えて、アルファサードは、選挙公報や候補者の情報を全てテキストで説明したシンプルなテキストファイルの作成・公開も提案しています。テキストファイルには、以下のような多くのメリットがあるからです。
【選挙公報のテキストファイル作成のメリット】
対象者 | メリット |
立候補者 |
|
視覚障害者 |
|
知的障害者
ディスレクシアの人 |
|
東京都や神奈川県などでは、選挙公報を人が読み上げた音声ファイルも作成しています。これらの音声ファイルを利用できれば、視覚情報・文字情報を利用しにくい人にとって、とても便利でしょう。ただ、作成にかかるコストや期間を考えると、全ての候補者の音声ファイル公開は、すぐにできることではありません。
その点、テキストファイルであれば、候補者側が作成しやすく、選挙管理委員会側の負担にもなりにくいといえます。アルファサードは、「PDFや音声データと合わせて、プレーンなテキストデータの掲載をすることが、より多くの人に届く情報提供」になるとしています。
【参考】
- アルファサード株式会社「令和7年(2025年) 参議院議員選挙 選挙公報の音声読み上げソフト対応版PDF・音声ファイル調査結果を公開」|PR TIMES
- 令和7年(2025年) 参議院議員選挙 選挙公報の音声読み上げソフト対応版PDF / 音声ファイル一覧|伝えるウェブ
- “視覚・知的障害がある人”も投票しやすい環境は 参議院選挙|NHK
- 選挙が終わった翌日に届いた選挙公報 なぜ?|NHK みんなの選挙
