2024/11/12
大阪大学発の埋め込み型BMI実用化へ!JiMEDの開発事業がPwC財団助成事業に採択
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「身体の制約による障壁のない社会に向けて」をビジョンに掲げる株式会社JiMED(ジーメド)の埋め込み型BMI/BCI開発事業が、公益財団法人PwC財団の「助成事業2024年春期 人間拡張」に採択されました。
JiMEDが手がける埋め込み型BMI/BCIの特徴、安全性、患者への身体的・経済的負担などについて、代表取締役・CEOの中村仁さんに伺いました。
画像提供:株式会社JiMED
PwC財団の助成事業とJiMEDの開発事業
PwC財団は、持続可能な社会の実現に向けて、社会課題に取り組む団体への助成事業を行っています。その中で「2024年春期 人間拡張」の助成事業では、BMIの活用により身体障害のある方や高齢者の身体機能の拡張、介護者の負担軽減を目指す活動を対象とし、1年間で1,000万円の助成を行います。
今回採択された3団体の一つであるJiMEDは、2022年創業のブレインテックカンパニー。大阪大学の平田雅之特任教授の研究から、ワイヤレスの埋め込み型BMI/BCIの社会実装を目指して研究を重ねてきました。同社が開発中の製品は未だ承認前であり、現時点での販売・授与はできませんが、実現すれば、ALSなどの神経疾患や交通外傷等により身体を動かせない状態でも、脳で動きをイメージするだけでパソコンやロボットアームの操作が可能になります。
JiMEDの埋め込み型BMI/BCIとは
画像提供:株式会社JiMED
「BMI」とは「ブレイン・マシン・インターフェース」の略であり、脳とコンピュータをつなぐ機器・システムのことです。脳波を利用することで、身体を動かさなくてもパソコンやスマートフォンといった外部機器を操作できるようにする技術で、大阪大学などで研究が進められてきました。海外では「BCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェース)」とも呼ばれています(以下、統一してBMI)。
JiMEDが開発するのは、BMIの中でも身体の中に埋め込んで使うタイプのものです。埋め込み型の医療機器としては、既に心臓ペースメーカーや一部の補聴器があります。埋め込み型BMIも、そうした医療機器で使われている安全な部材で作られています。
BMI機器を埋め込む手術では、脳波を取得するための薄いシリコン型の電極を頭蓋骨と脳の間に挿入し、挿入のために開けた頭蓋骨の穴の部分を機器の筐体で塞ぎます。その上から頭皮を縫合して完全に埋め込んでしまうため、外部から見ただけでは、埋め込んでいることがほとんど分からないような設計となっています。
脳波の取得には、頭の外側からワイヤレス給電を行って、内部の機器を起動させます。給電がなければ脳波の取得は行われません。現在はヘッドセット型の給電装置を使っていますが、将来的には頭の近くに置いて頭を近づけることで給電する装置など、ユーザーにとってより使いやすい形にすることも検討しています。
JiMEDの埋め込み型BMIでは、脳波によるロボットアームの操作も可能です。例えば、ユーザーがペットボトルを取りに行くイメージをすると、その脳波を検出してロボットアームがペットボトルをつかみに行くことを過去の研究で実証してきました。
埋め込み型とすることで高精度の脳波をより多く取得し、リアルタイムかつ正確な機器操作や、複雑な機器操作が可能になると中村さんは語ります。例えば、文字入力に応用すれば、現在の視線入力よりもスムーズなコミュニケーションができるでしょう。車いすの操作であれば、ユーザーが動かしたいと思ったタイミングで正確に操作できることが、事故や衝突の回避につながります。
JiMEDの埋め込み型BMIの安全性は?
画像提供:株式会社JiMED
中村さんによれば、JiMEDの埋め込み型BMIは脳の組織や血管への侵襲が必要なく、頭蓋内の硬膜と軟膜の間に生体適合性の高いシート状の電極を置くだけ。筐体は頭蓋骨にはめ込まれるため、安全な設計になっているとのことです。手術後にユーザーが「外したい」と言えば、外すこともできます。
また、脳波の取得についても、電極を運動野に置くため、その部分以外の感情や思考等の脳波は取得されない仕組みとなっています。
手術費用は?患者の身体的負担は?
画像提供:株式会社JiMED
JiMEDの埋め込み型BMIを使う際の手術費用については、厚労省との話し合いを進める必要があるため、現段階で確定した金額は出せないとのこと。ただ、保険が適用されるとともに高額医療保険制度の対象ともなるため、患者側の負担は10万〜30万円程度と見込まれています。
身体的負担については、手術にかかる時間は2~3時間くらい。脳外科手術の中では比較的簡単な手術であり、患者の負担はそこまで大きくないということでした。機器が故障した場合も、迅速に対処できるような設計としています。
一方、手術後には脳波と動作を対応づけるトレーニング期間があります。脳波解読装置のモニター上で指示された動きをユーザー自身も具体的にイメージすることで、動きと脳波の組み合わせを機械学習させていく仕組みです。トレーニング期間は、短くて3日程度、長くても1週間程度となっています。
JiMEDの埋め込み型BMIの開発背景
画像提供:株式会社JiMED
細胞医療や遺伝子治療など新しい治療手段が発達する一方で、いまだ「神経系の疾患や物理的に機能を切断されてしまうもの」は、十分な治療法がありません。病気や事故で話せなくなってしまった方、自分の身体を動かせなくなってしまった方などが、新たに年間20万人以上発生しています。
代表的な疾患は、多系統萎縮症、脊髄小脳変形症、そしてALS(筋萎縮性側索硬化症)です。一度罹患すれば症状が進行し、身体は次第に動かなくなってしまいます。
JiMEDがALS患者にヒアリングした筆談記録には、言葉が通じないことのつらさ、悲しさを訴える声が多く見られました。コミュニケーション手段として活用されている視線入力も、目にかかる負担が大きく、長時間の集中力を要します。症状が進めば視線操作自体が困難になるため、限界がありました。
当事者の方には、「何らかの新しい手段で少しでも私らしく生きられるのであれば、生き続けたい」という強い思いがある一方、家族や介護者の負担に心を痛めているというジレンマもあります。そのため、延命治療や人工呼吸器を断って自然死を選ぶ方は少なくありません。
PwC財団は今回の採択にあたり、埋め込み型BMIの国内事例として支援し、閉じ込め状態にある患者に、意思伝達を実現する有効な選択肢を提示したいとしています。体内に埋め込むという形は国内での受け入れに抵抗があるものの、安全性を重視したJiMEDの技術はユーザーに寄り添ったものといえます。PwC財団の助成事業を通じて、「埋め込み型BMIの活用について、ユーザーの安全・安心につなげたい」としました。
JiMEDの公式サイトには、よく当事者からの問合せが寄せられます。
「開発はどうなっていますか」
「治験に参加できますか」
こうした期待や「進んでいるということを聞くだけでも、励みになる」という声が、中村さんたちを奮い立たせてきました。
「患者さんは、ご自身の障害の在り方と向き合われて、生き方も人それぞれです。コミュニケーションを取る手段がなくなってしまった、身体を動かす手段がなくなってしまったといったところで、いろいろ工夫されている。その中で、埋め込み型BMIのようなソリューションがあることを知ってもらえればと思っています。患者さんも我々も同じ課題に向かって解決策を模索している、お互いに、こうした励まし合い、助け合いの中で、ソリューションを提供できればと思います」(JiMED 中村さん)
「使うかどうかは、患者さんご自身の選択。我々はその選択肢を創り出しているに過ぎない。けれども、それが患者さんにとって希望ある選択肢、そして安心して選べる選択肢になるよう社員一同開発に取り組んでいます」と語った中村さん。治験は、来年開始予定とのことです。
【取材協力】
株式会社JiMED
公益財団法人PwC財団